「また動悸がする」「不安で落ち着かない」。そんなつらい症状を抱えながら、原因がわからず悩む人は少なくない。ストレスや性格だけでなく、ビタミンやミネラルなどの栄養不足が影響している場合もあるという。毎日の食事で心身を整える方法を紹介する。
食事を変えれば改善が期待できる
「不安・パニックで悩んでいる人は、メンタルの弱さに原因があると自分自身を責めてしまいがちです。でも実は、その不調は栄養不足から起こっているのかもしれません。食事を変えれば改善が期待できます」
と話すのは、栄養カウンセラーの神楽恵子さん。
ストレス状態が続くと、気分の落ち込みや意欲低下、不眠などの症状が現れて、不安傾向が強くなりがち。ひどくなると、動悸や息切れのほかに、めまい、手足が冷たくなる、汗が出るなどのパニック症状を引き起こすこともある。
一度体験すると「また症状が出たらどうしよう」と、さらに不安が大きくなり、電車や車に乗れない、買い物に行けないなど、日常生活に支障を来してしまう。そもそもなぜ、ストレスが続くと不安・パニックを起こしやすくなるのか。
「ストレスが長く続くと、副腎から分泌される“コルチゾール”が急増します。コルチゾールは、血糖値の維持や血圧の調整などの働きのある生命維持に欠かせないホルモン。しかし、大量に放出されると自律神経が興奮して、これが続くと次第に脳が疲労し、コルチゾールが分泌されなくなります。
代わりに、戦闘モードのときに分泌されるノルアドレナリンやアドレナリンの放出が増えて、不安や動悸、イライラなどのパニック症状を誘発するのです」(神楽さん、以下同)
ストレスが長期的に続くと、次の3つの段階で心身の不調が進行していく。
大量のコルチゾールが分泌され、気分は絶好調で、日常生活もうまく進むが、実は必要以上に身体に負荷がかかっている状態。早口、早食いになったり、注意力不足などが多くなったら要注意。
コルチゾールの分泌が減ってきて、がんばりが利かなくなる。元気な日とそうでない日の落差が激しく、集中力がなくなってくる。カフェインや甘いものを欲するようになる。
起き上がれないほどの疲労感があるなど、日常生活が維持できなくなる。カフェインや糖質、お酒に依存する傾向が強まる。
「血糖値を上昇させるコルチゾールが出にくくなり、低血糖を起こしやすくなります。すると、肝臓のグリコーゲンを分解したり、筋肉を削ったりして糖が代わりにつくられます。筋肉量が減るとスタミナがなくなって疲れやすくなり、冷えなどの症状も現れてきます。それを補うために、甘いものや糖質を欲するようになります」
不安傾向の悪循環を断ち切るポイントは、低血糖を防ぐことにあるようだ。そのために、神楽さんは“補食”が大事という。
本当に自分がやりたいことなのかと立ち止まって考えてみる
「低血糖とは血糖値70mg/dL未満のこと。不安・パニック、そのほかの心身の不調を起こさないためには、要するに低血糖にならないようにすればいいわけです。つまり、『抵抗期』から『移行期』の段階で、必要な栄養をきちんととれば、心身の不調を防ぐことができます。血液中の糖を補充、安定させるよう、質のいい糖質をこまめにとる“補食”を推奨しています」
ルールは、朝昼の食事後の2時間おきに補食をすること。朝食が8時だったら10時に、昼食を12時にとったら14時、16時に補食という具合。夕食から就寝までの時間が長い人は、夕食の2時間後にも補食をする。
「補食には、ミニおにぎり(30~40g)、甘栗2粒、干し芋(15g)、バナナ(1/3~1/2本)、いちご5粒程度、リンゴ1/4個などをすすめています。だいたい糖質10g程度の摂取が目安です。甘栗は外出先でも手軽に食べることができるので、便利ですよ」
ストレスが続いている人の場合、補食をとると余計にお腹がすいたりするようだ。なかには、甘栗を1袋食べきってしまったという人も。しかし、これは補食の効果が表れてきた証拠で、3日~1週間で食欲は落ち着くという。
補食をしてもお腹がすいて我慢できないときは、食べる量を増やすのではなく、回数を増やすとよい。
「それでも空腹感がある人はミニおにぎりがおすすめ。白飯は腹持ちがよく、中に鮭などの具材を入れればタンパク質などの栄養もとることができます」
補食は血糖の補充を目的としているため、それによって急激に体重が増えることはないというが、気になる人には“葛湯スープ”(左記)を補食にすればいい。
「本葛は糖質100%のデンプンで、葛湯だけを飲んだら血糖値が急上昇するので、だしを混ぜて葛湯スープにします。魚や昆布などのミネラルも摂取でき、血糖値の上昇も緩やかになります。スープだけだと1回の糖質量が少ないので、食事後15分にひと口のペースで飲むようにします。1日に500~700mlの摂取が目安です。
早い人だと補食を始めて3日~2週間で不調改善の手応えを感じてくるはず。ただし最低でも、3~4か月は続けてほしいですね」
注意したいのは、補食が不安・パニック症状そのものを解消するわけではないということ。補食は低血糖を防ぐための対症療法なのだ。根本の原因となっているストレスを緩和させるためには、「考え方」のクセを見直す必要がある。
「『べきである』『ねばならぬ』という考え方を少しずつ手放して、それは本当に自分がやりたいことなのかと立ち止まって考えてみることが重要です。脳疲労は多くの場合、自分の本心が置き去りになっている状態が長く続くことで起こりますから」
そして、食事全体を見直し、バランスの取れた栄養摂取を心がけてほしいと、神楽さんは言う。
「血糖値を安定させるには、タンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養をとることも大切。バランスのよい食事は身体だけではなく、精神の安定をもたらします。補食を第一歩に、始めてみてください」
「補食」のとり方とタイミング
ポイント
・1回量(糖質10g程度)を守る
・足りないときは1回量を増やすのではなく、回数を増やす
(例)2時間おき→1時間おき→30分おき
葛湯スープの作り方
1・カップに本葛の粉を大さじ1杯、同量の水で溶かす(水溶き片栗粉の要領で)
2・熱湯300mlを注ぎ、よく混ぜる
3・透明になったら、顆粒だしを大さじ1杯混ぜて完成
※だしは、添加物ゼロのものを推奨
【注意】甲状腺機能に問題がある方と妊婦は飲まないようにしてください
取材・文/佐久間真弓
神楽恵子さん 栄養カウンセラー。不足している栄養素を解析し、一人ひとりに合った栄養をとることで身体機能を向上させる分子栄養学を実践。現在はパニック障害に特化した栄養アプローチの研究、人材育成等に関わっている。これまでのカウンセリング実績は2000件以上。

