加齢に伴い、耳が聞こえづらくなる「加齢性難聴」。老化の一つとして放っておくと、認知症のリスクがなんと約5倍にも高まるというデータも。「聞こえづらさ」を改善・予防する、簡単なトレーニングや食材をレクチャー。
65歳以上の3人に1人が難聴に
「加齢に伴い発症する難聴の患者は、現在1000万人以上。超高齢社会が進むにつれて今後ますます増加し、2040年には65歳以上の3人に1人が難聴になるとされています」
こう述べるのは、難聴の最新治療に取り組む川越耳科学クリニック院長の坂田英明先生。難聴とは、正常な聞こえの人に比べて、音や言葉が聞き取りにくい症状のことを指す。
「難聴は認知症の危険因子の一つに挙げられています。国際アルツハイマー病学会によると、認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病の約1割に、難聴と因果関係があると、最新の研究で明らかにしています」(坂田先生、以下同)
聞こえが悪くなると、脳に伝えられる音や情報は少なくなる。また、会話に参加することに抵抗を感じ、周囲とのコミュニケーションが減る。その結果、脳機能が低下して、認知症を誘発するのである。
「難聴の度合いが高いほど、認知症の発症率は上昇します。健聴者と比較して軽度難聴者は約2倍、中度難聴者は約3倍、高度難聴者は約5倍も認知症のリスクが高まるのです」
難聴にはさまざまな種類があるが、大きくは伝音難聴と感音難聴に分けられる。加齢に伴い発症する加齢性難聴は感音難聴に属する。
ここで、音を認識する仕組みと、難聴が起こるメカニズムについて坂田先生に聞いてみた。
「私たちの耳は、外耳、中耳、内耳の3つの部分から成っています。まず音は耳の穴(外耳道)から入って鼓膜へ到達。鼓膜から中耳の耳小骨、内耳の蝸牛へと音の振動は伝わります。そして蝸牛内にある、音のセンサーの働きをしている有毛細胞で電気信号に変換されます。この電気信号が神経を通じて脳へ送られ、はじめて音として認識されるのです。
騒音や加齢などで、有毛細胞に障害が起こったり、減少したりすると、音を認識しづらくなります。これが加齢性難聴です。有毛細胞は一度死滅すると、もう再生されません」
加齢性難聴の特徴は、高い音から聞こえにくくなる。そこに意外な落とし穴が潜むという。
「日本語は、低音部を中心とする言語なんです。従って、加齢性難聴で高音部が聞き取りづらくなっても、まだ大部分の低音部が聞き取れるため、不便をそれほど感じず放置してしまう。補聴器を必要とするレベルの人の使用率でいうと、日本は先進国の中では圧倒的に低く、14%程度ですからね」
聞こえの悪さを「年だから仕方ない」と、あきらめている人も少なくない。そこにも大きな誤解が。
低下した聴力を取り戻すことはできない
「現代医学では、いったん低下した聴力を取り戻すことはできません。しかし、適切な対策により聞こえにくさを改善することは可能です。残った有毛細胞がこれ以上傷つかないようにケアしたり、音の電気信号を受け取る側の脳をトレーニングすればいいのです」
聴力アップに有効な脳トレとして、速聴(動画やラジオを1.5倍速または2倍速で聴く)、クラシック音楽鑑賞、複数の人との同時会話などが、おすすめだそう。
同時に、聴力に関わる器官のケアも行いたい。その方法として坂田先生は「耳トレ」を考案。その一例として、下記の「耳裏ほぐし」と「耳まわりさすり」、「側頭筋マッサージ」を紹介してもらった。加えて、耳の聞こえをよくする食材をとるのも効果的という。
「聴力の改善には、亜鉛やビタミンB群の栄養素を含む食材が適しています。イチ押しは銀杏です。あまり知られていませんが、ドイツでは認知症患者などに、その成分が医薬品として用いられています」
聞こえが悪ければ、補聴器も積極的に使用したい。ネガティブなイメージを持つ人もいるが、今やさまざまな種類があり、性能も進化している。5万から15万円程度の製品を目安に、複数メーカーを一定期間試せて、補聴器相談医が在籍する耳鼻科で検討するといいそう。自治体によっては購入補助もあるので、一度確認してほしい。
「聞こえの悪さをあきらめてはいけません。認知症予防のためにも、生活に支障が出たら早めにケアをしましょう。明日から“耳”の健康を心がけてください」
難聴の種類
伝音難聴
耳あかの過度な詰まり、外耳炎、中耳炎などの症状により聞こえが悪くなっている状態。伝音難聴の場合は、治療によって改善が期待できる。
感音難聴
・加齢性難聴
・先天性難聴
・突発性難聴 など
内耳から脳に至る、音を感じる器官に障害が起こって音が聞き取りづらくなる。遺伝を起因とする先天性難聴、ある日突然聴力の低下を招く突発性難聴などがある。なかでも、加齢に伴い生じる加齢性難聴が患者の多くを占める。
今すぐやりたいマッサージ
耳裏ほぐし
回数の目安 1分/1日1回
耳や脳への血流をよくするマッサージ。両手の人さし指、中指、薬指を耳の裏側(首から耳につながる筋肉の先端)に当て、小さな円を描くように動かしてやさしくほぐす
耳まわりさすり
咬筋マッサージ
回数の目安 1日朝晩1セットずつ
耳の前方斜め下にある咬筋(咀嚼するときに動かす筋肉)のコリをとる。両手の人さし指、中指、薬指を頬骨と下顎の骨の間、口の両脇におく。軽く押さえて、小さな円を描くように10回動かす。
側頭筋マッサージ
回数の目安 1日朝晩1セットずつ
両手を側頭部のこめかみに当て、人さし指と中指の腹で円を描くように10回マッサージ。次に耳の真上、耳の後ろも同じように、順に各20秒間マッサージする。これを1セットとする。
ビタミンB群 銀杏、牡蠣、あさり、しじみ、サバ、ホタテ、アジなど
亜鉛 牡蠣、黒ゴマ、アーモンド、海藻、豚レバーなど
ビタミンB群は神経を修復したり、赤血球の生成を助けたりする働きがある。亜鉛は抗酸化作用を持つミネラルで、亜鉛が不足すると、難聴を悪化させることがわかっている。
取材・文/百瀬康司 イラスト/石山綾子
坂田英明先生 川越耳科学クリニック院長。埼玉医科大学卒業。国内外の大学病院などでの勤務経験を経て、2015年に開業。難聴のほか、めまい、耳鳴りの最新治療にも詳しい。『1日1分! 耳トレ 難聴の悩み解消法』(内外出版社)など著書多数。
