TBS系で放送中の金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』に出演中の中島歩が、ひときわ異彩を放つ演技で、注目を集めている。無料配信サービスTVerのお気に入り登録者数は128万人を超え、今期、話題沸騰のドラマの一つとなっているのだ。
美輪明宏さんの舞台『黒蜥蜴』で俳優デビュー
「物語はバスの転落事故で夫が行方不明になった蒼井優さん演じる、妻の咲子と、同じ事故で妻を亡くした中島さんが演じる夫の樹生を描いた、喪失から始まる愛と秘密のヒューマンミステリードラマです」(テレビ誌ライター)
今でこそオファーの絶えない人気俳優となった中島だが、その俳優人生は決して平坦なものではなかったという。長い不遇の時代を経て、少しずつ現在のポジションを築いてきた。そんな彼の原点をたどると、意外にも大学時代に打ち込んでいたのは「落語」だった。
「役者を目指すようになったのは、日本大学芸術学部に在籍していたとき。国語の教員免許を持っているということで、当時は教職に就くか、一般企業に勤めるつもりでいたそうです。しかし、周りには個性的な学生が多く、感化されたんだとか。そこで、何か表現活動ができたらいいなと入部したのが『落語研究会』だったそうです」(スポーツ紙記者、以下同)
落語は、自分ひとりでその空間をコントロールしないといけなかった。
「気持ちのいい話し方やお客さんに伝わる動作など、細かな技術も含めて、芸の面白さの入り口のようなものを垣間見ることができたといいます」
この落語の延長線上にあったのが芝居だった。
「芝居の世界に続く道を模索する中で、まずモデル事務所の門を叩きました。大学を卒業して1年がたち、俳優業にギアチェンジ。'13年には、美輪明宏さんが主演・演出を務める舞台『黒蜥蜴』で俳優デビューを果たしました」
中島は美輪さん演じる女盗賊“黒蜥蜴”の愛人という、重要な役どころを務めたのだが……。
「美輪さんに“何もないのね、あなたは”と言われるほど追い込まれたといい、芝居ができなくてたくさん恥をかいたんだとか。しまいには役を降ろされそうになったことも。それでも熱心に指導してもらったことをずっと恩義に感じていたそうです」(舞台関係者、以下同)
朝ドラ出演で知名度が急上昇
ブレイクにいたるまでには、実に15年近くを要した。
「芝居の勉強だと思って劇団に出入りしたり、舞台や映画をたくさん見ていたものの、昼間からお酒をあおるような生活を送っていたこともあったんだとか。でもいつか成功するという自信はもっていたそうです」
'14年にNHK連続テレビ小説『花子とアン』の出演が決まり、一気に知名度を上げていく。中島は仲間由紀恵演じる葉山蓮子の恋人となる帝大生・宮本龍一を演じた。社会主義運動に関わっていた青年という難しい役どころだったが、演出を務めた柳川強氏に当時の話を聞くと、
「『黒蜥蜴』に出演していた中島さんが気になっていたので、オーディションに来てもらったんです。古風な印象を受けましたが、芯がある人なんだと感じました。そこが反権力を叫ぶ学生の役にぴったりだと考えたんです」
'25年にも朝ドラに抜擢されることに。今田美桜が主演した『あんぱん』では、ヒロイン・朝田のぶの、最初の夫となる若松次郎役を演じた。同作でも演出を担当した柳川氏は、このとき中島の変化を感じ取っていたという。
「『あんぱん』のときに再会すると、のぶとのお芝居について、いろいろとアイデアを考えてきていて、話し合う時間を多めにとりました。彼は途中から撮影に参加して役を作っていかなくちゃいけなかった。その難しさを埋めるために、そういう作業が必要だと思ったのでしょう」
のぶとのお見合いやプロポーズのシーンは、台本にしておよそ10ページ分の内容を1日で撮影した。
「十分にリハーサルができなかったにもかかわらず、うまくいったんです。彼は『花子とアン』では、自分を出せなかったと悔しい思いをしたそうなので、『あんぱん』はリベンジだと思って撮影に挑んだのでしょう」(柳川氏)
「想定以上の表現者」
'25年には、連続ドラマ『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)に出演。木村文乃演じる主人公・小川愛実の婚約者であるエリート銀行員を演じた。演出を担当した西谷弘氏は、
「中島さんの演技は、ドラマの途中からやみつきになるというか、中毒性みたいなものが出せたので、うまくいったなと思いました。彼はすごくピュアな方で、表現すること、お芝居が大好きなんだなと感じました。本人も演技プランを持ち寄りこちらのオーダーにも全力で応える。現場でのコラボがいつも楽しみでした」
中島の演技力には、いい意味で“裏切られた”そう。
「ドラマの序盤では、しっかりリハーサルをやっていたんですが、私の想定以上の表現者だったので、途中からは台本に細かく書かないようにしたんです。彼は画面に出ていると、ついつい見てしまうような吸引力がある。今度は全く違う役柄でご一緒したいと思っています」(西谷氏)
柳川氏に今後の中島へ期待することを聞くと、
「魅力があるのだから、あまり気負うことなく、そのままの彼でいてほしい。役者さんは1度人気が出ると、同じような役どころが回ってきがちなんですが、そこは裏切ってほしいなと思います」
長い下積みを経て、ようやく俳優として大きな注目を集めるようになった中島。彼の俳優人生は、新たな幕を開けたばかりなのかもしれない。
