定年前後にやるべき手続きとは?(写真はイメージです)

公的な給付や支援制度の多くは、自分で申請しなければ受けられない「申請主義」。対象なのに手続きをしなかったために、本来もらえたはずのお金やサービスを受け損ねるケースも少なくない。特に60歳、65歳、70歳は年金や医療、雇用などの制度が大きく変わる節目。受給漏れや損を防ぐためにも、必要な手続きと期限を早めに確認し、自分の権利をしっかり守ろう。

自分で調べて学ぶことが大事

 仕事で現役を終える人が一番重視すべき点は、やはり「お金」のこと。60歳を迎える前に老後のお金について、夫婦で話し合う機会もあるのでは?

「今は働き方の選択肢が広がり、65歳、70歳まで働く人がいます。50代のうちから、定年後の働き方や老後のお金についてイメージしておくことが大事です」

 と話すのは社労士みなみさん。定年後の働き方を決めて、定年前後に必要な手続きを事前に把握しておけば、制度をうまく利用でき、受給できるお金も増えるからだ。

 例えば、定年退職後の働き方に影響を及ぼす制度に「在職老齢年金」がある。給与と年金の合計額が一定額を超えると、年金額が減額される仕組みである。 

「2026年4月から、年金の減額となる基準額が月51万円から65万円にと14万円増額され、高齢者が働きながら年金を受給しやすくなりました。損することなく受給できる層が増えたのです」(社労士みなみさん、以下同)

 みなみさんは、これから定年を迎える年代において、少しでも後悔がないよう、定年前後のお金のマストアクションを4つに分けて提案している。

「『こんな制度があるとは知らなかった』『誰も教えてくれなかった』と後悔しないように。会社も周りの人も、必要な制度までは教えてくれません。人生の次へのステージとなる定年前後に必要な情報は、自分で調べて学ぶことが大事なのです」

action1 今あるお金をムダなく生かすためお金は3つに分けて管理する

 老後は現役時代のように、バリバリ稼いで増やすことが難しくなる。老後のお金がどの名目でいくら必要なのかをはっきり認識できるよう、目的別にお金=資産を3つに分けて管理し、5年ごとに見直しを。下記のように分けておけば、使う時期や必要な金額の目安がイメージしやすくなるので、不用意なお金の使いすぎや、いくら足りないのかという不安な気持ちも減る。

普通預金 基本生活費や定期にかかる特別費

 基本生活費は、すぐに引き出せて、老後の収入(給与や年金)が入る銀行の普通預金口座で管理する。金額の目安は、1~2か月分の生活費プラス50万円程度あれば安心だ。

 日常生活に必要な食費や光熱費などの基本生活費、突発的に発生する冠婚葬祭費などの費用はここから。さらに、定期にかかる特別費(固定資産税や自動車税、火災・地震保険などのほかに、孫へのお年玉やプレゼント代など)も、基本生活費として想定しておく。

定期預金など 不定期の特別費やライフイベント費

 不定期の特別費は、一気に貯金が目減りしてしまうこともあるので、別口座で管理すれば想定内となり残金も把握しやすい。預け先は普通預金よりも利息が高く、元本保証の定期預金や個人向け国債などを利用して、お金を守りながら増やせる預金口座に。

 一度の人生を楽しむために、趣味や旅行など自分のやりたいことにもお金を使えるよう、ライフイベント費もぜひ用意して。

不定期の特別費の例

・家電の買い替え
・家の修繕費
・家のリフォーム費(1~2回)
 300万円~
・子どもの結婚や孫への援助など
 50万円~
・親子3代で旅行 50万~100万円
・葬儀代・墓代 100万円~

投資商品など 高額の介護・医療費

 介護や医療の費用は80代以降に必要になることが多いため、60代からでも準備を。20年後に必要になるお金として、金利が高いNISAの株式、個人向け国債、投資信託などで運用して、増やすことを目的とした口座に。

 すぐに引き出せない金融商品は「いつの間にか使ってしまっていた」というリスクを減らせる。ただし、資産を急激に増やす欲より、守りながら堅実に増やすことが大事である。

個人向け国債

 固定金利型は3年、5年満期、変動金利型は10年満期という3種類があり、利子を半年ごとに受け取れる。元本保証されている商品。

投資信託

 運用の専門家が顧客から預かったお金をまとめて、株式や債券などに分散投資する金融商品。運用に手数料が発生する商品も。

action2 知っておくことが大事! 定年前後で受け取れる4つの制度を確認する

 60歳前後の時期は、制度を利用して申請すれば国からさまざまな給付金がもらえる。損をしないよう理解し、活用しよう。

60~65歳の賃金ダウンを補てん 高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付

 60歳から65歳の間に再雇用などで働き、賃金が現役時代から75%未満に下がったときに差額を補てんしてもらえる制度。再雇用後の賃金の最大10%の金額が支給される。対象者は60歳時点で雇用保険に通算5年以上加入し、60歳以降も雇用保険に加入している人。給付金は非課税なので全額受け取れる。会社に確認をしよう。

夫が年上の夫婦なら加給年金

 夫が65歳時点で厚生年金に20年以上加入し、65歳未満の妻を生計維持する場合に加算される年金(妻の年収は850万円未満など条件あり)。夫の年齢別に特別加算も付く。

夫が年上の夫婦なら「加給年金」も

 妻が65歳になるまで受給できるため、年齢差が大きいほど長期間受給できる。妻が65歳になると支給が終わるが、1966年4月1日以前に生まれた妻は、条件を満たせば振替加算として支給される場合もあり。年金事務所に確認を。

1年で8.4%増 繰り下げ受給

 年金の受給開始を65歳から1か月繰り下げるごとに年金額は0.7%増え、1年では8.4%増える。5年繰り下げて70歳から受給すると42%増、75歳から受給すると最大84%増に。

 繰り下げの時期は、66歳以降1か月単位で選択でき、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げができる。公的年金は一定額までは非課税になるので、片方の年金だけを非課税枠で受給し、もう片方は繰り下げをして年金額を増やす方法が有利だといえる。

65歳から何度でも 高年齢求職者給付金

 64歳11か月までに退職すると、失業給付を最大約117万円受け取れるが、65歳未満での退職となるため、退職金や将来の年金額が減る場合がある。

65歳からは何度でも! 高年齢求職者給付金

 その一方で、65歳以上の雇用保険の加入者が退職し、就職活動をするときに、最大約37万円受け取れる失業給付が高年齢求職者給付金。退職前の1年間に通算6か月以上、雇用保険に加入という要件を満たせば何度でも受給可能。

action3 メリット、デメリットを検討

退職金の受け取り方法で 資産を確保

 退職金の主な受け取り方に、全額を一括で受け取る「一時金受け取り」と、定期的に分割で受け取る「年金受け取り」がある。それぞれメリット、デメリットがあるので、老後の生活に何が足りないかを考えて選択する。例えば、住宅ローンが残っているなら、「一時金受け取り」を選び、一括返済に充てる方法がある。

 また、60歳以降は、働いても収入減になる場合が多いので、「年金受け取り」を選んで、公的年金を受給する65歳までの間の生活費に回すことも可能。退職金の使い方を早めに決めておけば、必要に応じて、お金を適切に使うことができる。

一時金受け取り

メリット
退職所得控除が使えて税金面で優遇される。ローンの返済や高額商品の購入に利用できる

デメリット
大金を手にして一気に使ってしまうリスクがある。

年金受け取り

メリット
毎月、一定額を受け取れるので管理しやすく、使いすぎを防げる。生活費を安定的に確保できる。

デメリット
他の所得と合算されるため税金が高くなる。資産運用や高額商品の購入に利用しにくい。

action4 働けるうちは働きたい! 老齢厚生年金を70歳まで増やす

 厚生年金に加入して、働く人が受け取れるのが老齢厚生年金。下記の図のように3つに分けられるが、そのうちの「経過的加算」と「報酬比例部分」の2つは、60歳以降も働くことで、70歳まで年金額を増やすことができる。

老齢厚生年金を70歳までに増やす

 1つ目の経過的加算は「60歳までの厚生年金の加入期間が40年未満の人」が60歳以降も働いた場合などが対象となる。2つ目の報酬比例部分は、「厚生年金の加入期間中の長さや、その期間中の給与や賞与」に応じて、年金額が計算される。

社労士みなみ著『知りたいことがぜんぶわかる!定年前後のお金の超基本』(‎Gakken)

取材・文/松澤ゆかり

社労士みなみさん 社会保険労務士。登録者29万人を超えるYouTubeチャンネルを運営し、主に50代~60代の会社員に向けて、定年前後のお金の不安を解消する情報を発信。