勝訴を勝ち取るまでに約2年、独身偽装の訴訟で加害者に121万円の支払い命令

 今年、週刊女性3月3日・10日号でも報じた「独身偽装」問題。既婚男性が独身と偽り、結婚を前提と考える女性との交際を進める─。婚活サイトのみならず、日常の出会いの中にも潜む危険性に対して読者からの反響も大きく、また、さまざまな媒体でも報じられてきた。

貞操権の侵害

出会ってから1か月で交際を始めたサクラさんは頻繁にデートを重ね、斎藤は結婚を前提に彼女の実家の両親とも交流した

 本誌に自身の被害を語ってくれたサクラさん(仮名・35歳)が「貞操権の侵害」を訴えて起こした裁判で、7月21日に加害者男性に対して121万円の支払いを命じる判決が出た。'24年10月に始まった示談交渉から、'25年4月に起こした「貞操権の侵害」の裁判が終わるまでを本人に語ってもらった。

 まずはサクラさんの被害について、振り返ってみる。

 '23年4月、サクラさんは婚活サイトで小児科に勤務する看護師の斎藤(仮名)と知り合った。お互いが好きなアニメの話で盛り上がる中、「子どもはいるが離婚している」「君との結婚を考えている」など、斎藤はサクラさんに言い寄り、翌月から交際が始まる。シングルマザーで息子がいるサクラさんだったが、斎藤は息子とも打ち解け、週末ごとに3人で過ごしたり、彼女の両親とも会い、結婚へと順調に進んでいるように見えた─。

 ある日、見知らぬ女性がサクラさんの自宅に現れる。その女性は斎藤の義母だった。彼の素行がおかしいと斎藤の妻の家族が探偵を雇い調査し、“不倫相手”のサクラさんの自宅に乗り込んできたのだ。そこで斎藤の独身偽装が明らかに。普通に恋愛をしていたつもりのサクラさんには寝耳に水。そこで斎藤の本当の姿に気づかされ、示談交渉が始まった。しかし斎藤に対してと同様、裁判官にも不信感を抱いたとサクラさんはこう話す。

「300万円の慰謝料を請求したのですが、裁判官からは“裁判になっても数十万円の低額判決しか出ない。示談なら125万円を相手が払うと言っているので、それで和解しなさい”と言われました。そのうえ、“こんなことに執着しないで、早く次のことを考えたほうがいい”と。

 私にとっては“こんなこと”で済む問題ではないのに。ほかにもいろいろ言われて、私もキレてしまって裁判官にめちゃくちゃ言い返しました」

 そんな司法関係者の態度に徹底的に闘う覚悟ができたという彼女。示談交渉から「貞操権の侵害」での訴訟に切り替え、裁判に。しかし裁判となれば、サクラさんと斎藤しか知らないこと、例えば◯年◯月に性交渉を行った、などプライベートなことまでが公になる。

「それでも黙っていてはいけない、と思ったんです。裁判官も、ただ独身と偽って交際していただけ、という認識しかなかったのでしょう。でも、被害は本人だけでなく、私の場合は家族も息子も嫌な思いをしています」

 当時12歳だった息子も一時は斎藤のことを信用し、自分の子どもに会えないとこぼす斎藤に同情して、大切にしていたおもちゃを貸し出していた。そのおもちゃは勝手に処分され、息子の手に戻ることはなかった。しかし、

「段ボールでいろいろ持っていかれましたが、判決が確定した次の日、斎藤からLINEがありました。今さらの謝罪と、息子のおもちゃを弁償させてくださいと。捨てられたものは戻ってこないけれど、最低限、当たり前の責任をようやく取ったなという感じです。

 息子には、本当に助けられました。出廷の際や取材を受けるときもずっと私のそばで見守っていてくれて。ものすごくメンタルをやられていたときも見ているので、よく頑張ったねと言ってくれました。俺も頑張ったけど、って(笑)」

約2年に及んだ裁判も終わる

出会ってから1か月で交際を始めたサクラさんは頻繁にデートを重ね、斎藤は結婚を前提に彼女の実家の両親とも交流した

 賠償金が支払われ、息子のおもちゃに対する弁償も確約が取れた。約2年に及んだ裁判も終わった。

「示談交渉で示された示談金とほぼ同額ですが、裁判で勝ち取った判決と示談では、価値がまったく違うと思います。これで裁判を起こした意味もあると思いますし、すごく気持ちが軽くなったことは事実です。

 でも正直、判決には納得していません。121万円という賠償金も、私と息子が無駄にした何年間というものに対して、安いと思います。繰り返しになりますが、独身偽装ということに対しての認識を、社会全体が変えていかなければいけないと思っています」

 その“認識”を変えるため、サクラさんのような経験を社会に伝えている。だが、それには高い壁があると、こう続ける。

「独身偽装の被害は非常に表に出にくく、裁判を起こして声を上げること自体にも大きな精神的、時間的な負担があります。

 私は訴訟当初から、これは自分だけの問題ではなく、被害について社会に伝えたいという意志を持っていました。でも依頼していた法律事務所が、メディアから取材の問い合わせがあったときに“事務所の方針と守秘義務の観点”から私への取り継ぎを断っていたことを後から知りました。事務所側の方針もあることは理解していますが、社会に対して問題を提起するかどうかの判断は、被害者である私自身がすることではないのでしょうか

 依頼者のプライバシーの保護という観点で、法律事務所の考えは理解できるが、被害者本人の考えを聞かずに、というのは確かに疑問が残る対応だ。

加害者の家族も被害者だが……

コナンのデザインの婚姻届と、贈られた指輪。このとき、どんな気持ちで斎藤は指輪をはめたのか?

 サクラさんは相手の家族に対しても傷つけられた側から、こんな思いを吐露する。

「加害者本人のウソによる被害者である一方、相手の女性に対して加害する側にもなると思います。私の場合、突然自宅まで押しかけてきて、心ない言葉を浴びせられたりもしました。知らない人に声をかけられ、詰問される身からすれば“恐怖”以外の何ものでもありません。もちろん、ウソをつく男がいちばん悪いということは当然なんですけど」

 裁判で斎藤は「感情としては妻と離婚したいと思っていた」「サクラさんと結婚しようと思っていた」と話しながら、アニメ『名探偵コナン』のデザインの入った婚姻届と、指輪をサクラさんと共に購入したことについては、

「グッズを集める一環だった」

 と、結婚の約束をしたことを否定する発言も。保身に走る斎藤の言葉を聞きながら、サクラさんは怒りを通り越してあきれることしかできなかったという。

 今、彼女と同じようにだまされて悩んでいる女性も多くいる。そんな女性に対してサクラさんは、

「一人で抱え込まないでほしい。一人だと、絶対にメンタルをやられます。友人に相談できなければ、SNSを開いて私たち『独身偽装被害者の会』のもとに来てほしいです。少しでも誰かの助けになるのなら、私自身の経験を生かしたいと思います」

<取材・文/蒔田 稔>