阪神の主砲・森下翔太をはじめとする主力選手の相次ぐ死球退場に球場が騒然とするなか、藤川球児監督が提案した「新防具」の導入可否に注目が集まっている。肩甲骨から手首までを広く覆う前代未聞の試作プロテクターは、大ケガを防ぐための現場の切実な願いだ。だが、選手の命を守るはずの提案がなぜ却下されたのか、そこには野球というスポーツならではの事情も存在する。
異例のペースの“死球地獄”
8月29日に甲子園球場で行われた巨人との首位攻防戦で、阪神・森下翔太が7回に巨人の赤星優志から左手首付近に球を受け、途中交代を余儀なくされた。球団の発表によると診断結果は左前腕部の打撲であり、森下はこの試合で途中交代となった。
「診断結果は幸いにも打撲にとどまりましたが、森下にとってこれが今季16個目。プロ4年目、通算2027打席での通算51死球は異例のペースで、まさに“死球地獄”です。今季は8月31日時点で12球団合計517個の死球が発生しており、年間約630個ペースに達しています。球団別では巨人の与死球が56個で最多、阪神の被死球が57個で最多となっており、阪神が受けた死球の約3割を森下一人が占めるなど、特定の対戦カードでの偏りも目立ちます」(スポーツ紙デスク)
阪神の藤川監督は試合後の会見で、自作した新型プロテクターの導入をNPB(日本野球機構)に提案していたことを明かし、死球が増えている理由として、近年のマウンドが硬くなっている点に着目。「アメリカとは異なり、日本では球場ごとにマウンドの形状が違うため、ブルペンから登板した際に投球感覚を合わせる難しさがある」として、投手側の立場にも配慮した見解を示した。
「藤川監督は4月の段階からメーカーへ打診し、肩甲骨から手首までを保護する新型プロテクターを制作。自チームだけでなく、他球団を含めた全選手を着用対象としてNPBに働きかけたものの、承認には至らなかったそうです。現在のプロ野球界はセ・パのアグリーメント規定で用具のサイズや色が細かく制限されています。過去の手甲ガードや走塁用手袋の導入経緯を見ても、NPB側のルール改定には相応の時間を要するのが実情です」(前同)
球速の高速化と変化球の進化
提案が即座に承認されなかった背景には、戦術面への懸念も存在する。
「もし肩から手首までを完全に保護する強力な防具が認められれば、打者は内角球に対する恐怖心が薄れ、よりベース寄りに深く立ち込んでスイングできるようになります。そうなれば打者が圧倒的に優位となり、投手がリスクを冒して厳しいコースを突くインサイド攻撃の有効性も薄れてしまう。
そればかりか、怪我のリスクがなくなることで、ストライクゾーン付近の厳しい球に対して防具を盾のように突き出し、わざと当たりにいって出塁を狙うような行為が横行する可能性もあります。これまでの配球のセオリーが通じなくなり、投手はアウトコースの高低だけで勝負せざるをえなくなり、打高投低の流れになることは容易に予測できます」(スポーツ紙記者)
死球の多さに関しては、球界OBからも懸念の声が上がっている。元巨人監督の堀内恒夫氏は自身のブログで、変化球ではなく速球による死球が多い現状に触れ、コントロールやスタミナの課題を指摘。野球解説者の中畑清氏もテレビ番組内で、投手の技術や精神力の不足が死球につながっている、と苦言を呈した。
「NPB歴代最多となる通算196死球を記録した清原和博氏や、内角を突くシュートを武器にした東尾修氏の時代は、打者が意地でも腰を引かずに立ち向かい、投手も厳しいコースで勝負する緊張感がグラウンドに漂っていました。しかし、現代野球は球速の高速化と変化球の進化により、打者が避けること自体が極めて困難な球が増加しています。根性論や個人の技術だけに依存する従来の安全対策では限界を迎えているからこそ、防具の基準改定を含めた時代に即したルールの見直しが求められていると言えます」(スポーツライター)
ネット上でも藤川監督の提案に対し、「この人は自チームの優勝だけでなくプロ野球界のことを本当に考えている」「拒否したNPBの理由も意味不明で、着用は選手の自由で承認しても良いのではないか」「150キロ前後が当たり前の今、“よけるのも技術”で済ませずNPB全体で問題提起して対策を考える必要がある」といった声が相次いでいる。
藤川監督の切実な訴えが、プロ野球界の用具規定という「ルール作り」のあり方に一石を投じたのは間違いないだろう。
