「Tamagotchi ring」が8月27日よりプレミアムバンダイで一次予約の受付を開始したものの、翌日には全色すでに在庫なしという異例の人気ぶりを見せている。
「指輪」という仕様にたどり着いた経緯
縦約28ミリ×横約23ミリのコンパクトな本体に小さな液晶画面を搭載し、従来のたまごっちのようにお世話やミニゲームができるという。価格は7,700円(税10%込)で3色展開。情報が解禁、予約が開始されるやいなや、「全指に着けたい」「かわいい。全色予約しました」「結婚指輪にしたい」と、SNS上では大興奮の声が多数。
そんな爆発的なリアクションを、開発者側はどのようにとらえているのだろうか。発売元のバンダイに直撃した。
「“世界最小カラー液晶デバイス”の実現に向け、開発期間2年を費やしこのたびの発売に至りましたので、発表後、話題になって大変うれしく思っています! おかげさまで想定を上回る反響をいただいておりまして、今後の展開についてさまざまな可能性を検討しております。続報をお待ちください」(株式会社バンダイ たまごっち企画開発担当、以下同)
長期の開発によりやっと実現したという、「Tamagotchi ring」。キーホルダーやスマートウォッチ型ではなく、より小さな「指輪」という仕様にどうやってたどり着いたのだろうか。
「『たまごっち』シリーズ30周年に向けて驚きのあるデバイスを作ろうと検討していたところ、技術チームから小型液晶の持ち込みがあり、そこから最小デバイス・指に身に着けいつでも育てられるたまごっちというアイデアが生まれました。サイズやデザインだけでなく、30種類以上のたまごっちをお世話できるなど機能も充実しておりますので、過去『たまごっち』に慣れ親しんだお客様から、トレンドに敏感でファッションとして身につけてみたいお客様にも、世界最小デバイスでのたまごっちのお世話をお楽しみいただければと思っています」
今回の「Tamagotchi ring」のように、子ども心をくすぐる大人向けのおもちゃの人気は、「キダルト」(kidult、kid「子ども」とadult「大人」を合わせた造語)と呼ばれるトレンドが関わっている。現在の消費の中心を担う、団塊ジュニアやポスト団塊ジュニア、あるいはその下の世代が平成レトロや平成初期の玩具に熱狂していることもあり、おもちゃ業界のトレンドとして続いているという。
人気の背景に「シェアする楽しさ」
その中でも、カプセルトイなどの大衆人気にも通じるような、「持ち歩きながら楽しむ、小さなおもちゃ」が絶えず人気なのはなぜなのだろうか。若者文化に詳しい、芝浦工大デザイン工学部教授の原田曜平さんの分析によると、現代特有のストレスやSNS時代の価値観が深く影響しているという。
「スマートフォンやPCで常に膨大な情報やタスクに追われる中、手のひらに収まる極小サイズかつ、複雑な思考を必要としないフィジカルな小さなおもちゃに触れる。これは視覚的、触覚的に、マインドフルネスに近い精神的リセットの効果をもたらしています」(原田さん、以下同)
自分の手の中で完結する小さな世界を持つひとときが、多忙な大人の心の安らぎにつながっているようだ。
「自分の思いどおりに飾ったり、身につけたり、あるいは収集を完結させたりできる世界は、外の世界の不確実性から逃れられる安全な“精神的シェルター”といえるでしょう。『たまごっち』をはじめとする90年代〜00年代のカルチャーは、多忙な現代の大人にとって、純粋に遊びを楽しんでいた子ども時代の記憶と直結するものです。ノスタルジーに浸りながら、現在のライフスタイルになじむアクセサリーや持ち歩ける物としてアップデートして楽しむことが、大人の知的好奇心を刺激しています」
さらに原田氏は、こうしたおもちゃが持つ、個人がユーザーの生活に溶け込ませながらカスタマイズできる機能にも着目しつつ、SNSを通じた周囲とのつながりも人気の背景にあると分析する。
「めじるしアクセサリーやカプセルトイに代表されるように、シェアする楽しさも備えています。SNSにおいて、自分の推しのキャラクターやミニチュアグッズを組み合わせて投稿することは、自己表現のツールです。『小さくて可愛いものが好き』という感性、また、平成レトロのモチーフであれば『これを知っている世代』という同じ趣味を持つ仲間との緩やかなコミュニティ(トライブ)を生み出します。『高級ブランドを身につけて豊かさを誇示する』という価値観が薄れた現代において、数百円から数千円で手に入る小型玩具は、高コスパなアイデンティティー表現の手段となっています」
実際、「Tamagotchi ring」に寄せられた反響にもその傾向が色濃く現れている。育てられるキャラクターのラインナップは歴代の人気キャラクター。SNS上では「ラインナップにとげっちいるの神すぎ」「まきこがいる!」と、たまごっちの中でも分かれる世代間同士で共感しあう姿もあった。
真剣な顔でキーボードを叩く上司の指先で、たまごっちがごはんをもらって食べている、そんなシュールな世界はもうすぐかもしれない!?
