「世界遺産」と聞けば、そのスケールの大きさや神秘的な絶景を想像し、悠久の歴史に思いを馳せる─。でも、中には訪れて「こんなものなのか」と落胆してしまった経験がある人も。そんな思いをした日本の世界遺産、あなたはいくつありますか?
新しい世界遺産の誕生もガッカリ
今年7月26日にユネスコの世界文化遺産に登録された、日本で本格的な中央集権国家が形作られた過程を示す文化遺産「飛鳥・藤原の宮都」。そのニュースを見て、もうすぐやってくる行楽シーズンに「世界遺産」を訪れてみようと、計画を立てている人もいるのでは?
しかし、「世界遺産」とはいえ、“聞く”と“見る”とでは大違いなんていうこともある。そこで転ばぬ先の杖。そんな失敗をしないように、全国30代から60代の男女300人を対象に国内の「がっかり世界遺産アンケート」を実施。
そんな“がっかり”に選ばれた世界遺産に対して、日本唯一のロケ地情報誌『ロケーションジャパン』(地域活性プランニング)の山田実希編集長にエールを送ってもらいつつ、解説してもらった。
12票を獲得して、第5位に選ばれてしまったのが、今年7月に登録されたばかりの「飛鳥・藤原の宮都」である。いったいなぜ!?
「飛鳥は理解できるが、藤原宮跡は歴史を知らないとただの野原」(奈良県・男性・64歳)「今、建物があるというわけでもなく、柱だけしかない場所を見ても面白くない」(奈良県・男性・53歳)
と、地元からなかなか辛口のコメントが寄せられている。それに対して山田編集長はこんなアドバイスを送る。
「奈良県内の世界遺産は現在4件あります。特に東大寺や興福寺、春日大社など8つの資産で構成された『古都奈良の文化財』は、『飛鳥・藤原の宮都』から比較的近いので自転車や観光タクシーを使って両方訪ねてみたらお得感もアップするのではないでしょうか」
いわゆる一粒で二度おいしいというわけか。試してみる価値あり!?
観光地化に嫌気
15票で第4位に選ばれたのが、徳川家康の霊廟である東照宮が造営されて以来、徳川幕府の聖地となった栃木県・日光。こちらにも辛口コメントが並ぶ。
「田舎の風景で自分の家の周りと大差なかった」(長野県・女性・47歳)
「日光東照宮の神社ではお守りや破魔矢なども『一度買うと一生買い替える必要がありません。ぜひここで!』とセールストークしてくる。変に観光地化している」(兵庫県・女性・43歳)
三猿や眠り猫も小ぶりで、高知の「はりまや橋」やシンガポールの「マーライオン」並みのがっかり感を味わった人もいることは確かだ。
しかし日光の魅力はそれだけではないと山田編集長は力説する。
「紅葉の季節の『いろは坂』は絶景。また日光東照宮では『将軍着座の間 特別祈祷ツアー』など特別拝観があります。そのタイミングを狙う手もあります。
そして日光の奥座敷には日光信仰の始まりとなった二荒山神社があり、夫婦杉、親子杉、二荒霊泉など開運スポットが点在。福の神、縁結びの神として古くから多くの女性たちの心をつかんできました。
さらに日光東照宮の創建に深く関わる僧・南光坊天海には、『明智光秀=天海説』などもあり、歴史にロマンを馳せることもできます。
日光の奥深い魅力に触れてみてほしいですね」
観光を楽しむには生々しくて……
第3位にランクインしたのが、19票獲得した広島の「原爆ドーム」。こんなコメントが寄せられている。
「生々しすぎて観光している気分ではなくなる」(東京都・男性・63歳)「展示物や時代の背景はわかるが気分が重くなった」(愛知県・女性・54歳)
楽しむというコンセプトには当てはまらないが、被爆国である日本が語り継がなければならない唯一無二の「世界遺産」であることは間違いない。
「平和記念公園を歩きながら被爆前の街並みや投下当時、その後の復興まで原爆被害を疑似体験できるVRツアーなどもあります。
戦争は海の向こうで始まるものではない。そう実感させられる場所。ぜひ一度訪ねてほしいですね」(前出・山田編集長)
新しくできたサッカースタジアム「エディオンピースウイング広島」。多くのサッカーファンが歩いて10分ほどのところにある原爆ドームを訪れ、今も花を手向けている。
国内「がっかり世界遺産」第2位に入ったのが23票を獲得した、日本が世界に誇る霊峰、富士である。意外とも思えるが、
「遠くから見ればきれいだが、登るとゴミが散乱しているところがあったりもする」(愛知県・女性・45歳)「人が多くて雑多な感じがするので、残念です。信仰の対象である山は神聖であるべきです」(東京都・女性・44歳)
富士山登らぬばか、二度登るばか。この言葉のとおり、霊験あらたかな富士山には生涯一度は登ってみたい。しかしその道中は険しく、景観を楽しむことができないため、登るのは一度限りで十分なのかもしれない。
「富士山は、不死や再生を願う日本屈指の山岳信仰の聖地。山頂から昇るご来光の美しさは息をのむほどの絶景です。生涯に一度登るなら、日の出を狙って登ってほしいですね」(前出・山田編集長)
歴史的な価値は素晴らしいけど
そして第1位に選ばれたのは、34票を獲得した群馬県にある「富岡製糸場」。
明治5年、輸出品の主力だった生糸の生産・品質を向上させるため、明治政府が設立した歴史的な建造物である。初期の建造物群は国宝や重要文化財にも指定されている。
「歴史的な価値はあると思っていますが、見に行って面白かったり感動する場所ではないかな」(東京都・男性・58歳)「観光客向けの資料やガイダンスが不十分。もっと施設について学びが欲しかった」(和歌山県・女性・48歳)
明治時代のまさに日本近代化の象徴ともいえる「富岡製糸場」だが、当然のことながら今は使われておらず機械が並んでいるだけ。機械の一部を動かして、当時を偲ぶことができればこういった結果になっていなかったのではないか。
「井上真央さん主演の『花燃ゆ』や吉沢亮さん主演の『青天を衝け』など、NHKの大河ドラマでも取り上げられました。
出かける前に事前に、アーカイブスでドラマをチェックしておくと感動もひとしお。さらに人気ドラマ『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)の主なロケ地でもあります。こういった聖地巡礼をすることで楽しみも広がりますよ」(前出・山田編集長)
「世界遺産」に選ばれるには、それなりの理由があるはず。そのあたりを事前にチェックするのはもちろんのこと、付近のグルメや聖地巡礼スポットを調べておくことも“がっかり”しないための秘訣なのかもしれない。
取材・文/島 右近
