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「ポリアミンは研究者のあいだでは15年以上も前から“アンチエイジング作用が期待される物質”として認識されていました」

 そう話すのは、日本におけるポリアミン研究の第一人者である松藤千弥先生。

 2009年、ポリアミンが身体のオートファジー(体内の不要な物質や古くなった細胞を分解し新しくつくり替えるリサイクル機能)を活性化させ、寿命を延ばすという研究結果が国内外で報告されたことをきっかけに、健康長寿に不可欠な物質として日進月歩で研究が進められている。

老化を左右するカギ! 世界中の研究者が認識

「ポリアミンはあらゆる細胞の中に存在し、全身の細胞が正常に働くよう手助けする物質です。体内のポリアミンが充足していれば、血管を健康に保って脳梗塞や心筋梗塞のリスクを下げたり、脳の機能維持を支えて認知症を予防することも期待できる。もちろん、肌や髪を若々しく保つことにもつながります」(松藤先生、以下同)

 ところが、体内のポリアミン量は20代をピークに加齢とともに減少。放っておくと細胞内のポリアミンが減り、細胞の老化が進むと松藤先生は指摘する。

「老化を防ぐには、食事などで体内のポリアミンを補うことが重要です。爪や肌、目といった細胞の生まれ変わりが早い部位であれば、数週間でその変化を実感できると思います。慢性炎症によって起きる疲れやだるさも軽減されるはず。体内のポリアミンを増やし、夏バテした身体を細胞から立て直していきましょう

 加齢とともに減少していくポリアミンをどのように効率よく体内で増やせばよいのか。信頼できる研究をもとに松藤先生が提案しているのは2つのアプローチだ。1つ目は、ポリアミンを含む食材をとって外から直接補う「高ポリ食」。2つ目は、腸内でできるだけ多くのポリアミンをつくれるように促す「ポリ腸活」。この2つを組み合わせた“ポリ活”を習慣化することがポリアミンの恩恵を得られる近道となる。

 まずは、食事のポリ活だが、押さえるべきはたった1つ。ポリアミンの含有量が多い食品を意識してとることだ。

「日常的に取り入れやすく特におすすめなのは豆類やキノコ類。豆類は豆腐や豆乳などの加工食品ではなく、豆そのものを食べてください。野菜ではブロッコリーやトマト、ピーマン、カボチャもいいですね」

 ピーマンは完熟した赤いものより、未熟な緑色のほうがポリアミンは多いという報告があるそう。

「ポリアミンは細胞の増殖と成長を支え、老化の進行を早める慢性炎症を防いでくれる物質ですから、若い実や葉、つぼみを食べるタイプの野菜のほうが高ポリアミン食材になると考えられます」

上手に取り入れるコツ&調理法とは

 魚介類なら、切り身よりも煮干しやしらす、ちりめんじゃこのように丸ごと食べられるもの、肉類なら赤身肉よりも内臓系を選ぶとよい。一方、食卓に欠かせない牛乳や鶏卵は良さそうに思えるが意外とポリアミン含有量は少ない。

「ポリアミンは細胞内のDNAやRNAと結びつき、その構造を安定させるのも仕事の1つ。ですから、細胞の数が多い場所ほど豊富に存在しています。卵なら鶏卵よりも、小さな細胞が密集しているタラコのほうが重量あたりの含有量が多いのはそのためです。また、肉の筋肉(筋線維)や牛乳、卵白などはタンパク質が中心で細胞核が比較的少ないため、ポリアミンはそれほど多くありません」

 より効率的に摂取するには調理法もポイントに。

「ポリアミンは比較的熱に強い物質なので、基本的には焼く、炒める、蒸すなどどんなふうに加熱しても含有量が大きく減ることはありません」

こんなにすごい、ポリアミンの効果

 一方で水に溶けやすい性質なので、長時間ゆでてそのゆで汁を捨ててしまうと大部分が失われるという。

「ゆでる場合は、スープなどそのゆで汁ごと食べる料理が有効です。また、細かく刻んだり、すりおろした後に汁をしぼって捨ててしまうと細胞の膜が壊れて流出しやすくなります」

 食事でとったポリアミンは全身の細胞で消費され、余ったものは尿などで排出される。とりすぎて困ることはないが、一度にたくさん取り入れたからといって体内のポリアミン濃度が高く維持されることはない。大切なのは日常的にとり続けることだと松藤先生はアドバイスする。

「1日1食、1品でよいので意識して高ポリアミン食材をとることを継続する。豆類や納豆、みそといった大豆発酵食品を日常的に使う和食なら、自然とポリアミンを取り入れることができるので無理せずポリ活ができます。特に、秋はおいしい高ポリ食材がたくさんありますね」

“ポリ腸活”で身体の中から増産

 次の柱となるのは「ポリ腸活」。

「ポリアミンは腸内でつくり出すことができる物質ですので、24時間絶え間なくポリアミンをつくり続けてくれるよう、腸内環境を整えておけば安心です」

 と、松藤先生。しかし、そもそもなぜ食事からのポリアミン摂取だけでは十分といえないのか。

「食事からとったポリアミンは身体に吸収されますが、比較的動きが速い物質のため、食事と食事の間に減ってしまう可能性があります。また、毎日ポリアミンの含有量を気にして食事をするのも大変ですし、年齢を重ねると食事量自体が減り、ポリアミンを含む食材を十分に体内に取り込めなくなることもあるでしょう。ですから、そこを腸活で補うのです。腸内細菌が常にポリアミンをつくり続けることで、食事からとるポリアミン量の変動をカバーできます」

腸内細菌と食事からつくられるポリアミン量の比較

 では、ポリアミンの合成が進む腸内環境へ整えるには何が必要か。

「ポリアミン産生に必須となる酸をつくる乳酸菌やビフィズス菌をとることです。“菌が生きたまま腸に届く”とうたったヨーグルトなどを選びましょう。生きた菌(プロバイオティクス)がなるべく胃酸の影響を受けないよう、食事の最後に食べる“ヨーグルト・ラスト”を心がけることもポイントです」

 菌にしっかりと働いてもらうためには継続して食べること。

「1週間食べなければビフィズス菌などは腸内からほとんどいなくなるという研究結果がありますから、少なくとも2~3日に1回は食べたいですね」

 さらに、ポリアミン産生の材料となるアルギニンをとるとなおよし。アルギニンはタンパク質を構成するアミノ酸の1つで、鶏肉や豚肉などの肉類や牛乳、卵などに多く含まれるので、日々の食事に取り入れたい。

「ヨーグルトは、菌とタンパク質を同時にとれるので、非常に理にかなった食品といえます。私も15年にわたって毎朝プロバイオティクスのヨーグルトを食べて“ポリ活”をしています。加えて、腸内細菌そのものを増やしたり、元気にするための水溶性食物繊維、大腸まで届きやすいオリゴ糖を一緒にとることも腸内環境を整えるのに役立ちます。食事と腸活の2大柱で減っていく体内のポリアミン量を補いましょう」

ポリアミンを保つ生活習慣とは

「どの生活習慣が直接的に体内のポリアミン値に影響するかといった研究はまだ多くありませんが、生活習慣が細胞の状態や腸内環境に大きく影響することは明白です。ですから、生活を変えることで結果的に体内のポリアミン量を保つことができると考えます」

 特に、運動、睡眠、それらを乱すストレスケアの3つに気を配ること。腸内環境や体内のポリアミンのバランスを良好に整えることに役立ち、ポリアミンがつくられやすい身体づくりにつながると松藤先生。

「中高年の女性は筋力の低下によって活動量、食事量が減りがち。食事からのポリアミン摂取が不十分になる可能性が高いので、無理なく運動を続けて筋力を衰えさせないことは非常に大切です」

運動

 筋トレなど適度な強度の運動をすることで筋肉に小さな傷ができ、その修復過程でタンパク質の合成が盛んに。多くのポリアミンが産生される期待が高まる。腸内環境にも好影響。

睡眠

 睡眠のリズムが崩れると体内時計が乱れ、体内のポリアミンのバランスにも影響が出ると考えられる。腸内環境も揺らぐため、腸内でつくられるポリアミン量も減少の可能性が。

ストレス対策

 強いストレス状態は細胞のポリアミン不足を招くおそれあり。さらに、慢性的なストレスは腸内細菌の多様性を低下させ、安定的なポリアミン供給の妨げにもつながる。

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教えてくれたのは…松藤千弥先生 東京慈恵会医科大学学長。医学博士。栄養学から分子生物学、遺伝学まで幅広い分野に携わりながら、40年にわたりポリアミン研究を牽引。著書に「ポリアミンとは」から摂取に有効な食事術までをまとめた『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(アスコム)

取材・文/河端直子