予測のつかない展開が話題を呼び、最終回直前の第9話では8.8%(世帯平均視聴率、関東地区、ビデオリサーチ調べ)まで視聴率を上げてきた『Tシャツが乾くまで』(TBS)。第9話は、せっかく失踪から帰還した松山ケンイチに対して蒼井優が、「別れよっか」と告げる衝撃のシーンで終了した。
『Tシャツが乾くまで』が視聴者の心をつかむ理由は?
本作はなぜ視聴者の心をつかむのか? そして最終回で蒼井と松山、中島歩の関係はどうなるのか?
物事の本質をついたセリフや、夏帆を含めた主要4人の芝居巧者ぶりはもちろんのこと、最初から視聴者の予測を裏切り続けてきたことも、このドラマの特徴だった。偶然出会ったように見えた中島は意図的に蒼井に近づいていたし、帰らないと思われた松山はあっさり帰ってくるし、終盤にいきなりイノッチ(井ノ原快彦)は出てくるし。
特に第7話以降は、松山が数年に一度、日常から逃げ出したくなる失踪癖があったことが発覚。極めつけは第9話で、蒼井に4度の離婚歴があることが判明。蒼井が名字の異なる歴代免許証を次々と取り出すシーンは、蒼井の外見の変遷や松山の反応も含めて、もはやコメディだった(深刻な題材のはずなのに、クスリと笑ってしまうシーンが散りばめられていたのも魅力の一つだった)。
恐らく当初は、それぞれ夫と妻を失った蒼井と中島が、後ろめたさを感じながらも惹かれ合っていく物語なのだろうと予測した視聴者が、筆者も含めて多かったと思うが、今では全然違うドラマになっている。
回を追うごとに見える世界がどんどん変化していくので、視聴者は目が離せなくなっていったのではないか。
松山が1年間の失踪から帰還した後、蒼井と松山は本音をさらし合い、以前より互いを気遣うようになる。だが、今度はその気遣いが気づまりになって、蒼井が松山に別れを切り出した…というのが9話までの流れだ。
果して最終回、蒼井たちはどんな選択をするのか?
連ドラのセオリー
連ドラのセオリーでいうと、最終回直前で起こる危機は、“最大の山場を作る道具”であることが多く、それを乗り越えて大団円で終わる、というのがパターンだ。その通りなら蒼井と松山は元サヤに収まるだろう。
一方で出演者の番手を見ると、2番手は中島で、松山はトリになっている。これもセオリーでいうと、主人公は2番手と結ばれて、トリは見守るというのがパターンだ。すると蒼井は中島を選ぶのか?
ただし、安易な予測を許さない本作だし、蒼井がどちらを選ぶかというような単純な二択が、このドラマの主題ではない気もする。
脚本家の生方美久は公式コメントで「共感や感動を目指した物語ではない」と語っていた。確かに2~3年に一度失踪したり、4回も離婚したりする人物にはなかなか共感はできないだろう。だが一方で、失踪や離婚で、何もかも投げ出してしまいたくなる気持ちは実行しないだけで誰にも覚えがあるのではないか。
そして、「失踪癖や離婚歴」ほどの衝撃ではないにしろ、日常が軽くひっくり返るような経験も誰にでもあるだろう。「長年独身だと思って付き合ってきた知人が既婚者だった」とか、「質素に見えていた友人が実は株をやっていた」とか(どちらも筆者の実体験です)。だから案外、視聴者の共感は多いドラマだったのではないか。
「他人のことはわからないし、自分も他人からしたらよくわからない人間かもしれない」。
筆者はそんなことを思ったし、このドラマを見た後だと、身近な日常もちょっと違ったものに見えてきそうだ。
生方がこれまでフジテレビで書いてきた『silent』や『海のはじまり』などは、主人公たちの被害者意識が強すぎて個人的に得意ではなかったが、今回は一段大人の物語に昇華したのは、TBSのプロデュース力もあったのかなと想像する。
最終回も、ドラマのセオリーなどぶち壊して、視聴者の予測を大胆に裏切る展開が待っているのか? ぜひ最終回は、オンタイムで見届けたい。
