藤島一郎先生 浜松市リハビリテーション病院えんげセンター特別顧問・医師

「食事のときにムセる……そんな症状を放置しておくのは非常に危険なことです」と言うのは嚥下障害ケアの第一人者・藤島先生。ムセは嚥下力の低下が招く症状だが、誤嚥性肺炎の引き金となったり、しっかり飲み込めず、将来、食事をする楽しみが奪われてしまうことも。たかがムセと思わずに、今日から即効きエクササイズを始めてみよう。

年をとると、筋力の低下で誤嚥を起こしやすくなる

「食べ物や水がうまく飲み込めないのを年のせい、と放置してはいけません。飲み込むときの口やのどの働きを“嚥下”といい、嚥下がうまくいかず水や食べ物が気管に入ってしまうことを“誤嚥”といいます。ムセて苦しい思いをするだけでなく、窒息や誤嚥性肺炎の原因にもなり、命にかかわる病気の引き金になります」

 そう教えてくれるのは医師の藤島一郎先生だ。そもそも「ムセ」は、気管に誤って入りかけた食べ物や唾液などの異物を、咳によって外へ押し出そうとする身体の防衛反応だ。

「ムセたときは我慢せず、しっかり咳き込んで異物を出し切ることが大切です」(藤島先生、以下同)

 誤嚥は夏の疲れや脱水が蓄積している秋口も要注意。身体が脱水状態になると、のどの粘膜が乾燥して唾液が減り、飲み込む力が低下して誤嚥を起こしやすくなっている。ムセるのが身体の防衛反応なら、放っておいてもいいような気がしてしまうが。

「ムセる原因となる誤嚥、そのものがよくないのです。しょっちゅう誤嚥を起こしていると、やがては異物と一緒に肺に細菌が入り込み、誤嚥性肺炎を引き起こします」

 誤嚥性肺炎は日本人の主要な死因の一つで、国の調査によると、2024年に誤嚥性肺炎で亡くなった日本人は6万3667人と、高齢者では最も危険な疾患のひとつと考えられている。

「年をとると、筋力の低下で誤嚥を起こしやすくなります。また、肺に細菌が入ったときの抵抗力も低下しています」

 特に厄介なのが、気管に異物が入ってもムセない状態だ。老化でのどの感覚が鈍くなると、異物が気管に入り込んでもムセる反応が起きずに、異物がとどまり、肺炎を引き起こしてしまうのだ。

「食後、のどがガラガラしたり、原因不明の微熱や気管支炎を繰り返したりする場合はムセない誤嚥が起きている可能性があり、要注意です」

 まずは下のセルフチェックにトライして。特に誤嚥を起こしやすいNG習慣が「上を向いて飲む姿勢」や「しゃべりながらの食事」だ。上を向いて飲み込もうとすると、気管に食べ物が入り込みやすくなる。下にある正しい姿勢を参考にしよう。

早いうちから対策すればより短期間で効果が得られる

嚥下力テストと水飲みテスト イラスト/赤松かおり

「楽しくしゃべること自体は食欲を増進していいのですが、息継ぎの拍子に誤嚥が起きがちです。話し終えてから食べ物を口に入れる。飲み込み終わってから話し始める。これを心がけましょう」

 万が一ムセてしまったら、まずは咳を出せるだけ出し切ること。そして、呼吸を落ち着かせて、のどに負担の少ないものからゆっくり食事を再開しよう。誤嚥や誤嚥性肺炎を防ぐには、のどの筋肉を鍛え、体力をつけることが大切だ。

「のど仏を持ち上げる筋肉は加齢とともに衰えやすいので、食事の前に今回紹介する『ごっくん体操』をマメに行いましょう。嚥下障害は早いうちから対策すれば、より短期間で効果が得られます」

 また、口腔環境が悪いと、雑菌が唾液に混ざりやすく、それを誤嚥すると肺炎の直接的な引き金ともなるので、毎日の歯磨きは丁寧に。

 さらに筋肉の材料となる良質なタンパク質や脂質を中心とした栄養摂取を心がけて。食事については、現在ムセやすい人は、汁物や飲み物に「とろみ」をつけるとムセをかなり防げる。こうした日頃の小さな積み重ねで、100歳までおいしく食べられるのどを保ちたい。

ムセ・誤嚥が起こりやすい意外なタイミング

朝ごはんのみそ汁

 朝起きたばかりだと、のどの筋肉もまだ目覚めていない。熱い汁物をすすって飲む動作は気管に入りやすく危険。朝食前におでこ体操などでのどの準備体操を行い、みそ汁は少し冷ましてから飲もう。朝ごはんのみそ汁

ペットボトルのラッパ飲み

 上を向いてペットボトルから直接水分を流し込むと、のどから気道へ一直線に飲み物が向かい、誤嚥しやすい。一度口に含んでからあごを引き、少し下を向いてから飲み込むのが安全。

就寝中

 寝ている間に口の中の唾液とともに細菌が気管に流れ込む可能性があり、夜中に突然ムセるという人は実は多い。寝る前にしっかり歯磨き・うがいをして、口の中の細菌を減らしておくことが大切。
さらに、GER(胃食道逆流)がありムセるという場合も多く、これも誤嚥性肺炎の大きな原因のひとつ。

誤嚥を防ぐ食事の工夫 食事中の姿勢はあごを引く!

 上を向いた状態や、あごを突き出した状態だと、気道が開きやすくなり危険。背すじを伸ばしてイスに深く腰かけ、目線を少し下に向けて、あごを引いた姿勢で食べると、スムーズに飲み込める。

誤嚥を防ぐ食事の工夫 イラスト/赤松かおり

食べ物や飲み物に「とろみ」をつける

 サラサラした水分はのどを素早く通過するため、誤嚥を起こしやすい。誤嚥を起こしやすい人は、市販のとろみ調整食品を使い、お茶や汁物に適度なとろみをつけること。液体がのどをゆっくり通過
し、気管への誤進入を防げる。

誤嚥性肺炎を起こしやすい人の特徴

□ 食事中によくムセる
□ 就寝中に咳き込むことがある
□ 食後にガラガラ声になる
□ 食事をしているとすぐに疲れてしまう
□ 食べこぼしが増えた
□ 口の中に食べ物が残りやすい
□ 食後に呼吸が苦しくなる
□ 体重が減ってやせてきた
□ 基礎疾患があり、たくさん薬を内服している

1日1分で効果を実感! 嚥下力がアップするごっくん体操

「すぐにできて簡単な体操ですが、嚥下障害のあった患者さんでも、体操と食事中の姿勢の見直しで驚くほど改善する人もいます。老化による嚥下障害の改善はもちろん、飲み込み力の弱い人、食事中ムセがひどい人にも効果があります。

 嚥下障害は早期に対応するほど効果があるので、ムセや飲み込みの違和感に気がついたら、すぐに始めることをおすすめします」(藤島先生)

 (注意)ムセ方や飲み込みに異常を感じた場合や、改善が実感できない場合は医療機関を受診しましょう。

食事前にマメに行っておでこ体操

飲み込む力が強くなり、のどがつまったりつかえたりしなくなる効果がある。1~2を4回で1セットとし、食前に2~3セット行うようにしよう。

1・イスに座って正面を向き、両手をおでこに当てる。
2・おへそのほうを見るように、おでこを強い力で下げ、両手はそれに抵抗するようにやや下向きに押し返す。これを5秒キープしてから1に戻り、5秒休む。

食事前にマメに行っておでこ体操 イラスト/赤松かおり

POINT 机に座ってひじをついて行ってもOK。ひじが机についていると、両手でおでこを押す感覚がわかりやすい。頸椎症の人は無理に行わないこと。

腰上げごっくん体操

 ムセや飲み込みの違和感に加え、逆流性食道炎の症状もある人におすすめ。尿もれの改善効果もある。1~4を4回で1セット。朝晩に1日3セットずつ行おう。

1・枕は使わず、床の上にあおむけに寝て、両足を肩幅に開いてひざを直角に曲げる。両手は手のひらを下に向けて身体のわきに置く。
2・腰(お尻)をできるだけ上げる。肩からひざまでが一直線になるのが理想だが、無理はしないこと。このとき、お尻を締めるようにすると、尿もれの対策にもなる。
※この姿勢をとることが大変な場合は、枕を腰の下に入れて行ってもOK。

3・腰を上げた状態で、力強く唾液(つば)を飲み込み、この姿勢を10秒キープする。
4・ゆっくり腰を下ろして、呼吸を整える。

腰上げごっくん体操 イラスト/赤松かおり

POINT 飲み込んだ唾液が、のどから胃に到達するまでに10秒かかるので、最低でも10秒はあけて繰り返す。食事の直後に行うのは避けよう。

息を強く吐き出す! ハフィング

息を吐き出す力が強まり、呼吸機能が向上する。誤嚥物やたんを吐き出すときにも役立つ筋肉を鍛えられる。1~2を繰り返して1日3セット行う。

1・イスに座り、鼻からゆっくり息を吸い込む。
2・口から声を出さずにできるだけ強く「ハッハッハッハッ」と息を吐き、最後に「ハーッ」と息を吐き切る。吐くタイミングに合わせて両腕で胸郭を圧迫する。
*肋骨を手で覆うようにして胸郭を圧迫しよう

息を強く吐き出す! ハフィング イラスト/赤松かおり

POINT 最後まで息をしっかりと吐き切ることが重要。息を吐くことが重要なので、声は出さずに行って。

呼吸筋トレにブローイング

 呼吸筋を鍛え、肺胞を広げて呼吸機能を高める効果がある。コップに水を入れるだけでもできるが、トレーニング中に水がこぼれてしまうことも。きれいに洗浄したペットボトル上部にストローの太さと同じ大きさの穴をあけ、ストローを差し込んだブローイング用のペットボトルを使用するのが効果的。

1・ブローイング用のペットボトルに水を入れ、キャップの閉め具合を調整する。
2・ストローでブクブクと泡が立つように、できるだけ長く息を吹き込む。呼吸筋トレにブローイング イラスト/赤松かおり

呼吸筋トレにブローイング イラスト/赤松かおり

POINT 水の量が多いほど難易度が上がる。鼻からゆっくり息を吸い、口をすぼめて、ゆっくり長く息を吐き出すことでも同様の効果が得られるが、難易度の調整などしたい場合はペットボトル活用がおすすめ。過度に行うと過呼吸になるおそれがあるので注意する。

キャップの閉め方で難易度(強度)が変わる
 キャップをしっかり閉めると、かなり強く吹かないと泡が出ない。キャップを閉めるほど難易度が上がる。

食事中のムセが驚くほど減少する! 息こらえ嚥下

 食事中に行えるムセを抑えるアクション。意識的に息を止めて食べ物を飲み込むと、気道に食べ物が入りにくくなる。いきなり食べ物を口に入れて行うのが不安な場合は、唾液を飲み込む空嚥下で訓練をして、慣れてきたら食べ物で試してもOK。

1・食べ物を口に入れたら、鼻から十分に息を吸い込んで、息をしっかり止める。
2・息を止めている間に、意識を嚥下に集中して食べ物をゴクンと飲み込む。
3・飲み込んだら、口からハーッと息を勢いよく吐き出す。

食事中のムセが驚くほど減少する! 息こらえ嚥下 イラスト/赤松かおり

POINT 食事中だけでなく、嚥下の訓練として行うのも効果的。訓練は、唾液を飲み込む空嚥下で行おう。自分がムセやすいものを食べるときにもトライしてみて。

これらの体操は、嚥下障害リハビリテーションで指導する訓練法の一部で、これまでにたくさんの患者さんの嚥下障害を改善してきた実績のあるメソッドです。

取材・文/鷺島鈴香 

藤島一郎先生 浜松市リハビリテーション病院えんげセンター特別顧問・医師。嚥下障害を改善する訓練法を考案。著書に『食事でムセる誤嚥・飲み込みにくさ自力で克服! 名医が教える最新1分体操大全』など。