《先月閉会した国会で成立した『皇室典範改正法』について「女性天皇への道を閉ざした」といったご意見を始め、様々なお声を頂いています》
9月5日、内閣総理大臣の高市早苗氏が自身のSNSに「皇室典範改正」に関する長文の弁明を投稿した。
10月24日より、改正皇室典範が施行される
「10月24日より、改正皇室典範が施行となります。改正目的は“皇族数の確保”であり、皇位継承については触れないとされてきました」(皇室担当記者)
新たに盛り込まれるのは(1)女性皇族が婚姻後も皇族として残る案、(2)旧宮家の男系男子を養子として迎える案の2つだ。
「2つの案は立法府の総意として可決されました。しかし、与党である自民党と日本維新の会は(2)案について、立法府の総意から一歩踏み込んだのです」(全国紙社会部記者、以下同)
皇位継承については棚上げしつつ、女性天皇の道を閉ざし、養子の子が男子であれば、天皇になれる道を勝手に開いたのである。これに対して、国民からの反発が多く集まっている。
「しかし、国民が疑問を抱いている皇位継承については、この投稿では言及されていませんでした。これでは国民への説明には不十分と言わざるを得ません。もともと高市氏は多い日には1日で5回以上投稿するほどのSNS好きで、ここ最近はかなり自由に発言しています。そこに並べて『皇室典範改正』という重要な問題を投稿することに疑問の声が噴出するのも当然です」
問い返す人のいないXで施行を目前にして初めて語った高市氏
かつて安定的な皇位継承に関する検討本部の本部長を務めた中道改革連合の馬淵澄夫氏は、この高市首相の投稿に疑問を呈する。
「高市総理の対応は、本来あるべき説明責任の果たし方とは異なります。成立した7月17日に記者会見が開かれ、立法府の総意になかった規定がなぜ入ったのかと問われている。しかし答えは、経緯の説明と“立法府の意思を尊重する”のひと言でした。問われた場では答えず、問い返す人のいないXで、施行を目前にして初めて語られた。順序が逆です。共同通信の世論調査では、女性天皇を認めることに内閣支持層でも77%が賛成しています」
こうした状況に高市首相も焦りを感じているのかもしれない。政治学者で皇室の研究を専門とする明治学院大学の原武史名誉教授は、こう解説する。
「高市氏のX投稿は非常に政治的な意図を感じます。文章の分量を見ても、第一案である“女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する”案に大きなウエートが置かれています。そこだけ読めばあたかもその部分こそが、今回の改正の主な目的であるかのように印象づけられます。しかし、本人の意思による離脱も可能なうえ、配偶者や生まれる子どもは皇族にはなれません。重要な部分を伏せ、論点を巧みにカムフラージュしているように見えます」
高市首相が最小限の言及にとどめた(2)案は、もともと自民党が最優先として掲げていたはずだ。
「養子として迎えられた男性本人には皇位継承権はありませんが、結婚し男子を授かった場合、その子には皇位継承権が発生することになります。投稿では、その核心部分には一切触れていません。最も重要な論点を避けたまま、“女性天皇を認めるかどうかは今回の議論に含まれていない”と主張されても、国民が納得できるはずがありません。これは『女性天皇や愛子天皇論を支持する層』を取り込もうとする弁明や方便ともいえますが、その意図はあまりに明白です。皇室問題に関心を抱く人であれば、ひと見で見抜ける稚拙なレトリックと言わざるを得ません」(原名誉教授)
皇室典範改正の理解を求める努力が政府に足りない
説明を避ける姿勢は、別の疑念にもつながっている。9月19日から行われる「アジア競技大会」の開会式に天皇、皇后両陛下や秋篠宮ご夫妻と共に高市首相も出席予定だったと前出の社会部記者は次のように話す。
「9月9日、政府高官によって高市氏は開会式を欠席することが明らかに。外交上の理由としていますが、SNSでは“逃げたのでは?”と訝しむ声もあります」
こうした声の背景には「昭和100年記念式典」にて、式次に陛下のお言葉が組み込まれなかったことなどで「不敬ではないか」との声が上がったことが影響している。しかし、早急に判断するべきではないと、原名誉教授はこう語る。
「あくまでも表面的な現象ですから、その2点だけで皇室と政府との関係性を判断するのは早急すぎます。過去にも国家的な式典に、天皇や皇后が招かれなかった事例や、“お言葉”が盛り込まれなかった例は存在しますから、一概には言えません。ただし、秋篠宮が8月13日のパラグアイ訪問前の会見で“生身の人間ですからいろいろ思うところもあります”と言われたのは、ある種の警告とも捉えられます。かつて、現上皇が退位の“お気持ち”を示す速報が流れた際も官邸はカヤの外に置かれていましたから、政府側にも緊張感や畏怖があるのかもしれません」
高市首相の投稿は、国民の政府に対する不満や不信を和らげるどころか、かえって逆なでしたようだ。
「天皇は国政に関する権能を有しないと憲法第4条に定められています。制度の中身について意見を述べることはできません。だからこそ6月の会見でも、国民の理解が得られるものとなることを望む、と法案成立の手続きに関わる形で述べられたのだと受け止めています。政府が果たすべき役割は、その理解を得る努力を尽くすことです。努力が足りないから臆測を呼ぶのであって、今回の投稿はその疑問に答えていません」(馬淵氏)
正面から国民と向き合い言葉を尽くすことこそが、今、政権に求められているのではないか。
馬淵澄夫 元・国土交通大臣。現在は中道改革連合に所属。民進党時代には皇位検討委員会事務局長、立憲民主党時代には安定的な皇位継承に関する検討本部の本部長を務めた
原 武史 明治学院大学名誉教授。専門は日本政治思想史。『昭和天皇』『皇后考』『戦後政治と温泉』など著書多数
