家田荘子さん 撮影/佐藤靖彦

 1986年に発表したルポルタージュ『極道の妻たち』が、映画化され、社会現象ともなった。あれから40年。時代は、そして家田荘子はどう変わったのか。僧侶の一面も持つ彼女に、取材対象者たちを振り返り、これからの時代の生き抜き方についても聞いた。

けじめをつける大切さを伝える

 ノンフィクション作家として、社会の中で光の当たらない人々を取材し、数々の話題作を世に送り出してきた家田荘子。YouTubeでは、怪談や風俗といったディープなテーマの話題を発信し、話題を集めている。

 間もなく141冊目となる新刊『不倫怪談』(竹書房)が発売となるが、こちらはYouTubeの人気テーマを本にしたものだという。

「私はYouTubeで一人語りの怪談をやっているのですが、その中でも特に人気が高いのが不倫の怪談なんです。現代は正義感の強い方が非常に増えている印象があります。不倫をした人間が怖い目に遭うエピソードを聞くことで、一種の腑に落ちた感覚や怒りを感じることによってストレス解消を覚える方が多いのかもしれません」(家田、以下同)

 本書に収められているストーリーは、すべて彼女自身がこれまでの取材や人生の中で実際に体験し、目撃してきた実話に基づいている。登場するのは、社内恋愛や、会社経営者と愛人といった、身近な不倫カップルたちだ。

「社長たちの身勝手な振る舞いなど、人間模様をそのまま描いています。作品の中には不倫関係の末に悔いを残して亡くなり、成仏できずに現れる人たちが登場します。

 『別れた後に相手が死んでも、もう自分には責任がない』などと言い訳する男性もいますが、一度でも心を通わせた相手であるならば、ちゃんとお参りに行き、供養してあげなければダメ。僧侶の立場として、別れた相手を放置せず、けじめをつける大切さを一番に伝えています」

 不倫をする人たちに年齢は関係ないという。

「誰かを好きになるという気持ちは止められないもの。以前、高齢者施設へ取材に伺った際、70代の男性1人をめぐる、奥さんと入居者の女性との三角関係を目にしました。不倫相手の女性は『80代になっても女は灰になるまでよ』とおっしゃっていて、いくつになっても肉体関係を含めた不倫は存在します」

 家田の作品といえば『極道の妻たち(R)』が有名だが、今は極道の取材はしていないという。

「現代の特殊詐欺や闇バイトといった犯罪構造には取材欲が湧きません。『山一抗争』という日本全国を巻き込んだ大抗争が起こったので、闘う男たちの陰にいる女性たちに目を向け、あの作品が書けたのです」

500人以上の遊女の供養を続ける

 一方、27年間にわたり毎月、風俗街である吉原(東京都台東区)に向かい、関東大震災で亡くなった500人以上の遊女の供養を続けている。街に出入りしていれば、多くの出会いもある。

毎月、四国遍路を行っている 写真提供/家田荘子さん

「吉原には厳しい研修があり、高いプロ意識を持って、誰にも頼らず、自分の身体で稼いで目的・目標を果たすという女性にも出会えます。学費を稼ぐための医学生など、目標を達成するために自ら選択して働いている人も少なくありません。お金が貯まったらスパッとやめる人もいます。一方で、ホストにハマり、吉原で懸命に働き、2億円貢いだ人もいました」

 伝法灌頂を受けて高野山真言宗の僧侶でもある家田は、弘法大師・空海の教えを深く学び、真言宗の布教師としても活動している。

「仏教の教えの本質は、人生には苦しみがあるけれども、それを乗り越えた先に本当の喜びがあるということです。だからこそ諦めてはいけない、投げ出さなければいつか光が見えてくると、作品や法話を通じてお伝えしています」

 毎月、四国遍路を行い、1日に20〜30キロメートルを歩破する。都内にいるときも日々の歩数は最低1万2000歩を維持し、霊山登拝行を定期的に行っている。そのために日々、体力を維持しているという。

 1日55キロ、2日で110キロ歩いて、疲労骨折もしたし、毎月足を人一倍使っているので、筋肉損傷や捻挫も当然起こる。その中で彼女が伝えたいことのひとつが「肉体への感謝」である。

「病気や痛みに直面すると、多くの方は『痛くて嫌だ』『病気になってつらい、情けない』と、身体を嫌ったり不満を漏らしたりします。でも、生まれた瞬間から私たちの魂は『身体』という器を借りて生きています。

 身体こそが一生を共に歩む『同行二人』の最高の相棒なのです。だからこそ『今日も頑張ってくれてありがとう』『痛みのサインを出してくれてありがとう。すぐ治療するね』『もう少し頑張ったら休むからね』と、相棒である身体に感謝と労いの言葉をかけてあげましょう。

 『ありがとう』という良い言葉を発していれば、言霊となって自分に良いエネルギーとして返ってきます。身体があってこその自分なのですから、ぞんざいに扱わず愛おしんであげてほしいのです」

 また、おひとりさまの高齢者が増加する中、没後に誰からも供養されないことに対する不安を抱える人は少なくない。

「身内がいないのであれば、生きているうちに自分自身でお参りを重ね、ご真言やお経を唱えて身体の中に『徳とお経』を貯めておけばよいのです。亡くなった人にとってお経や真言は栄養。生前にお経を貯金しておけば、一人で亡くなったとしても、その蓄えた力によって自力で成仏し、あの世へ上がっていくことができます」

子どもたちが逃げられる場所を増やすことが大切

 これまで数々のセンセーショナルなテーマを扱ってきた家田だが、今、強い関心があるのはDVや児童虐待の問題だという。

「私自身が親からひどい暴力を受けて、我慢を強いられて育った過去があります。だからこそ、光が当たらない場所で苦しんでいる人や、もがいていても頑張ろうとしている人にどうしても心が引き寄せられるのです。今は虐待を受けている子どもたちが逃げられる場所を増やすことが大切だと考えています」

映画化された『極道の妻たち(R)』は大ヒット。写真左から杉本彩、岩下志麻、家田荘子

 また、虐待の被害者が大人になって生きづらさを抱え、「自分がこうなったのは親のせいだ」と過去にとらわれるケースも多い。そんな人たちへ家田は優しくも厳しい言葉を送る。

「私自身、親への憎しみが完全に消えたわけではありません。でもあの親だったからこそ早く独立でき、今の作家や僧侶という仕事につながったという側面もあります。親を恨み続けても、親は子どもを苦しめたことを覚えていないし、いずれ先に死んでいきます。

 過去や他人のせいにして足を止めるのは、時間と心の無駄遣い。過去は変えられません。今とこれからの未来を見つめて努力する前向きな生き方を選んでほしいのです。行政や専門家に相談する勇気も持ってください。道が開けます」

 作家として、僧侶として、これまでを生き抜いてきた一人の人間として。家田荘子は変わらぬ精力的な活動で、社会で弱い立場にいる人たちにこれからも寄り添っていく。

取材・文/紀和 静 撮影/佐藤靖彦

いえだ・しょうこ 作家、僧侶。日本大学芸術学部放送学科卒業。高野山大学大学院修士課程修了。1986年に発表した『極道の妻たち(R)』は、同名で映画化され大ヒットシリーズとなる。'91年、『私を抱いてそしてキスして~エイズ患者と過した一年の壮絶記録』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2007年、高野山大学にて伝法灌頂を受け、僧侶になる。著書は140冊を超え、近著に『歌舞伎町シノギの人々』『女性のための般若心経』『花魁仕置人 藤紫』など。YouTube「家田荘子ちゃんねる」も好評配信中。