「疲れが抜けない」「眠れない」「急に汗が噴き出す」「イライラする」「手指が痛い」……etc. これって、更年期のサイン?と不安に思い始めた人は必読。対処法を知っていれば、もっと気持ちがラクに乗り越えられたのに―そんな後悔をしないために情報を味方につけて。「これは更年期?」「病院へ行くべき?」という迷いを解消し、女性ホルモンの変化と上手に付き合う方法を紹介する。
正しい知識と情報を身につける
多くの女性が直面する“更年期不調”。
「自分の心身の変化を把握しないまま更年期を迎えることは、地図を持たずに旅をするようなものです。正しい道を知っていれば、安全なルートを最短で進めるように、正しい知識と情報を身につけておきましょう」
そう話すのは、更年期医療のスペシャリスト・寺内公一先生。
昨今、更年期症状が日常生活や仕事に及ぼす影響による国の経済的損失、いわゆる「更年期ロス」が約1.9兆円に上るとの試算が話題に(下図)。更年期が女性にとって、心身共に負担の大きい時期であることが改めて示された。
自分の身体からのサインを見逃さず、早めに対策できるよう、知識をアップデートしておこう。
更年期症状による国の経済的損失が社会問題に
経済産業省は、女性が長く健康に働ける職場づくりを後押しするため、女性特有の健康問題がもたらす「経済的な損失額」を下図のように示した。女性特有の健康課題への対応の重要性が高まり、「更年期検診」や「更年期休暇」を導入しようという声も高まっている。
・女性の人生と共にある女性ホルモン
「更年期」は身体の変わり目に吹く嵐
女性ホルモンのエストロゲンは、身体の機能を整え、妊娠・出産などに大きく関わる大切なホルモン。それだけでなく、血液にのって全身をめぐり、血管や骨、脳の健康を守るほか、気分の安定にも影響を与えている。
そんな重要な働きをするエストロゲンは、更年期を迎えると急激に減少し始める。年齢とともに卵巣の働きが低下し、エストロゲンを十分につくれなくなるためだ。その結果、月経周期が乱れ、やがて閉経を迎える。
更年期に、起こりやすいことを事前にしっかり予習しよう! 更年期の知識は転ばぬ先の杖
なんだか最近、調子が悪い。これって更年期?
更年期以降、女性の心身の健康を守ってきたエストロゲンの分泌量がゆらぎながら減少する影響で、急に汗が止まらなくなったり、疲れやすくなったり、イライラしたりするなど、さまざまな不調が現れやすくなる。
「更年期の不調には個人差がありますが、心身共に負担の大きい時期であることは間違いありません。仕事や家事が思うようにはかどらず、自信をなくしてしまうなど、更年期はうつ症状が強くなる傾向もあります。つらいときは一人で抱え込まず、医療機関に気軽に相談するというスタンスを持っておきましょう」(寺内先生、以下同)
日本人女性の平均閉経年齢は50歳ごろ。次ページから紹介する内容を通じて、更年期に現れやすい症状や、不調がどれくらい続くのかを理解し、自分なりの乗り越え方を見つけよう。
新常識1 更年期のサイン
「汗」や「ほてり」だけじゃない。更年期のサインはもっと身近に
更年期というと、急に汗が止まらなくなるホットフラッシュのイメージが強い。でも実際には、口の乾燥や胃の不調、関節痛など、身体のいたるところに不調が現れやすくなる。
「最新の研究によって、身体のさまざまな組織や機能にエストロゲンが影響を与えていることがわかってきました。『こんなに多くの不調が!?』と不安に感じたかもしれません。でも、心配しすぎなくて大丈夫。更年期不調は治療できますし、社会の理解も少しずつ進んでいます。一緒に乗り越えましょう」
新常識2 不調の現れ方
「年齢」以外にもストレス・人間関係が高要因に
更年期は、大きな不調なく過ごせる人がいる一方で、重い症状に苦しむ人もいる。この違いを読み解くために寺内先生が用いているのが「BPSモデル」だ。
「『身体的側面』はエストロゲンの激しいゆらぎです。『精神的・心理的側面』はストレスの大きさ。どのような環境で育ち、どのような性格が形づくられたかも影響します。『社会的側面』は人間関係です。こうした要因が重なり合うことで、症状の現れ方は一人ひとり異なります」
更年期の症状は、年齢やホルモンだけで決まるものではない。身体の不調だけでなく、うつ症状が強く現れるケースもある。これらを理解しつつ、心の負担にも目を向けたい。
新常識3 女性ホルモンのメカニズム
不調の正体は卵胞の減少によって起こる“脳の混乱”
女性は生まれたとき、卵巣に約200万個もの卵胞を蓄えている。しかし卵胞は40歳ごろから急激に減少し、50歳ごろにはほとんどなくなる。エストロゲンは卵胞が成熟し、排卵する過程で多く分泌されるため、卵胞が減ると排卵が起こらなくなり、エストロゲンも分泌されなくなるのだ。
「エストロゲンをつくるよう卵巣に指令を出しているのは脳です。卵巣がエストロゲンを十分につくれなくなっても、脳はこれまでどおり“エストロゲンを分泌して!”と指令を出し続けます。しかし卵胞がほとんど残っていないため、その指令に応えられない。この“脳と卵巣のすれ違い”が更年期の不調の正体なのです」
この脳の混乱が身体のあちこちに影響し、疲れやすさやホットフラッシュ、イライラなどにつながるのだ。
更年期の不調はどれくらい続く?
不調のピークは閉経前の3年から閉経後の2年、計5年ほどといわれる。一般的には、閉経後2年くらいたつと、波立っていた症状は徐々に落ち着いていく。このことを知っているだけでも更年期に向き合いやすい。
新常識4 更年期を予防する
「まだ大丈夫」は危険のサイン? 受診の目安は日常生活への支障
不調を感じても、「これくらいで病院に行っていいの?」と受診をためらう人は少なくない。
「更年期の症状は個人差が大きく、そのつらさをほかの人と比べることはできません。また、血圧のように明確な数値基準があるわけでもありません。ご自身がつらいと感じたら、迷わず受診してほしいと思います」
更年期の不調は大きく二つに分けられる。一つは「更年期症状」。症状はあっても日常生活への支障が少ない状態で、まずはセルフケアがおすすめだ。
もう一つは「更年期障害」。心身の不調が強く、日常生活に支障がある状態を指す。受診の目安は「ガマンできるか」ではなく、「日常生活に支障があるか」だ。
自分に合う婦人科の探し方は?
更年期治療を行う病院を探す場合、日本女性医学学会ホームページで紹介されている医療機関を受診するのも一つの方法だ。日本女性医学学会は、思春期から更年期、老年期までの女性を治療・研究する医療従事者の団体。
日本女性医学学会ホームページ
https://www.jmwh.jp/n-ninteiseido.html
医師や病院とは相性もある。更年期症状・障害の治療は数年に及ぶこともあるため、診察を受けた病院が自分に合わないと感じたら、気持ちを切り替えて別の病院を探してみよう。
新常識5 パートナードクターを見つける
自分に合う婦人科は更年期以降の健康も支える存在に
自分に合う医師や病院を見つけておくことは、とても大切だ。「女性の心身はエストロゲンによって守られていますから、その恩恵が受けられなくなる更年期以降は、それまで縁遠かった病気にもかかりやすくなります。
人生100年時代を迎え、更年期以降の健康維持はますます重要になります。女性の心身を総合的に診てくれる婦人科を“パートナードクター”として持っておくと、安心につながるでしょう」
婦人科は、更年期の症状を相談するだけの場所ではない。自分の健康を長く見守ってくれる存在があると、病気の早期発見につながるだけでなく、必要に応じて専門的な医療機関を紹介してもらうこともできる。
受診前に用意しておきたいもの
更年期の不調の現れ方は人それぞれで、今抱えている症状のつらさをどう伝えればいいかわからない人もいるだろう。下記の4つを記録して初診時に持参すれば、予診票に記入する際にスムーズだ。自分の症状について医師に伝えやすくなる。
基礎体温表の記録
基礎体温(起床時に、ベッドに寝たまま測定する体温)を1か月程度測り、そのグラフを持参しよう。スマートフォンアプリに記録して持参するのもいい。
月経周期の記録
月経周期や持続期間、最終月経の開始日を記録しよう。月経周期を確認することで、月経不順(だらだら続く、月経周期が短いなど)を把握しやすくなる。
病気の記録
自分がこれまでにかかったことのある病気や、現在服用している薬を書き出そう。両親の年齢や病歴も治療の参考になるので、把握しておこう。
現れている症状の記録
今つらいと感じている症状がいつから始まり、その症状がどのように現れているかを箇条書きにする。1つに絞らず、気になる症状はすべて書き出してみて。
新常識6 多面的な診察 「更年期外来」という選択肢が広がる
「医療機関で治療しながら乗り越える」という意識が高まっている。現在は、従来の産婦人科だけでなく、内科や精神科と連携した「更年期外来」を設ける医療機関も増え、相談先の選択肢が広がっている。
1 予診票の記入
予診票に記入する内容は医師が患者の情報として最初に知っておきたいこと。緊張してうまく話せないときも、予診票の質問に答えていくことで、今抱えている症状を伝えやすくなる。
2 問診・検診
予診票の内容をもとに医師が体調について質問し、必要に応じて内診や血液検査などを行う。更年期の基礎知識を理解した上で医師と話せると、より的確な対処につながる可能性も。
3 生活習慣改善の提案
更年期の不調で、食事習慣や運動習慣が乱れることは珍しくない。「わかってはいてもできない……といった人は多いのですが、不調を改善するための一歩を提案しています」
4 薬物治療・経過観察
「患者さんの考えをよく聞いた上で、治療法を見極めながら提案していきます。はじめのうちは1か月置き程度に通院。経過を観察し“症状が軽くなった”と実感することが重要です」
新常識7 ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法(HRT)で女性ホルモンを補う
ホルモン補充療法(HRT)は、減少するエストロゲンを補う治療法で、主に飲み薬、貼り薬、塗り薬がある。ただし、更年期前のホルモン値に戻す治療ではなく、エストロゲンの減少によって起こる不調を和らげるために、必要最小限のエストロゲンを補う。
ホルモン補充療法は、LDL(悪玉)コレステロールを低下させて動脈硬化を防いだり、骨密度を保って骨折リスクを減らしたりするなど、慢性疾患の予防効果も期待されている。禁忌に当てはまらなければ、前向きに検討したい治療法の一つだ。
治療を始める際は、医師からメリットとデメリットの説明を受けた上で選択しよう。
ホルモン補充療法ができないケース
一例として乳がんのある人は、エストロゲンの作用でがん細胞が増殖するため、ホルモン補充療法は受けられない。禁忌(ホルモン補充療法を受けられない)のケースを医師に確認しよう。
ホルモン補充療法の費用は保険適用の場合、1か月3000円程度。ただし、ホルモン補充療法を行うにあたり、乳がん検診、子宮体がん・子宮頸がん検診、血液検査などを行うのが一般的なため、別途検査代がかかる。
新常識8 漢方薬
複数の生薬を組み合わせた漢方薬も選択肢に漢方薬は、植物や動物、鉱物などの生薬を、東洋医学の考え方に基づいて2種類以上組み合わせた薬だ。
更年期の不調は、さまざまな要因が複雑に絡み合って現れることが多く、通常の検査では異常が見つかりにくいこともある。
そのため、複数の生薬の力で心身のバランスを整え、不調全体に働きかける漢方薬は、一人ひとりの症状が異なる更年期症状の改善に役立つことがある。
また、乳がんや脳卒中などの既往歴があり、ホルモン補充療法ができない場合や、患者自身が希望しない場合にも、治療の大切な選択肢となる。
新常識9 カウンセリング・認知行動療法
専門家によるカウンセリングでゆらぐ心を整える
更年期は、女性を取り巻く環境が変わりやすく、一人では解決できない悩みや問題が重なりやすい時期だ。カウンセリングは、そうした悩みにどう向き合えばいいかを、専門的な知識を持つ医師や臨床心理士、公認心理師との対話を通じて見つけていく方法だ。
費用の目安は50分〜1時間で1万〜2万円ほど。抗うつ薬などの薬物療法と併用することで、心の不調を和らげることもできる。また、今の自分の状態を客観的に理解し、認知のゆがみや考え方のクセを見直していく認知行動療法も、更年期の心の不調に有効な治療法の一つだ。
新常識10 骨と血管に注目! 更年期以降気をつけたい病気
最新の研究では、これまで老化現象と考えられてきた女性の臓器や組織の変化が、実はエストロゲンの減少の影響を受けている可能性があるとわかってきた。
その代表が「骨」と「血管」の変化。どちらも自覚症状がないため、ある日突然起こるように思えるが、実際にはエストロゲンが減少し始めるころから静かに進行している。定期的に検診を受け、健康的な生活を心がけることが大切。
骨 骨粗鬆症
エストロゲンが減ると、骨代謝のバランスが乱れ、骨量を一定に保てなくなる。これが進行したのが骨粗鬆症で、骨が弱くなり骨折しやすくなるため、要介護になるリスクを高めてしまう。
血管 動脈硬化
エストロゲンの減少によって脂質代謝のバランスが乱れたりして、LDL(悪玉)コレステロールが増え、脂質異常症などが発症。動脈硬化が進み、命の危険を伴う病気を招くおそれがある。
未来の健康のために
生活習慣を見直して、健康寿命を延ばそう
閉経後の約30年は、エストロゲンがほぼ出ない状態で過ごすことになる。ここで意識したいのが「健康寿命」だ。健康寿命とは日常生活を制限なく健康に過ごせる期間のこと。日本人女性の健康寿命は、現在75歳。
平均寿命(87歳)との差である約12年は、介護などの助けが必要な期間といえる。毎日の土台となる「食事・運動・睡眠」の習慣を見直して、健康寿命をできるだけ延ばそう。
適度な運動
適度な運動は肩こりや不眠などの不調を和らげ、ストレス解消にも役立つ。長く動ける身体を保つために、筋トレで筋力を、ストレッチで柔軟性を、有酸素運動で体力を維持しよう。
食事
五大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル)のほか、骨粗鬆症予防に役立つカルシウム、エストロゲンに似た働きがある大豆イソフラボンを含む大豆製品もとりたい。
睡眠
睡眠不足が続くと、自律神経が乱れ、注意力や判断力の低下、さらには物事を悲観的に考えやすくなる。心身をリラックスさせて深い眠りをとり、脳と身体の疲れをリセット。
取材・文/満留礼子(羊カンパニー)
マンガ/たかはし みき イラストレーター、キャラクターデザイナー。「こげぱん」などのキャラクター原案を手がける。著書に『こげぱん 今日もパンやのかたすみで』『わたし、39歳で「閉経」っていわれました』(共主婦と生活社)など。
寺内公一先生 東京科学大学(旧東京医科歯科大学)大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座教授。産婦人科医。日本で数少ない更年期医療のスペシャリスト。更年期障害や骨粗鬆症など「ゆらぎ世代」の女性の診療に従事。

