ゾヤ・スコロパデンコさん(撮影/斉藤周造)

 ウクライナ・クリヴィーイ・リーフ出身の現代アーティスト、ゾヤ・スコロパデンコさんは、モナコおよびフランスを拠点に活動しながら、日本と相撲をテーマにした作品を世界各地で発表し続けている。

 2025年には北海道・弟子屈町の大鵬相撲記念館で個展「横綱の生涯」を、2026年には渋谷ヒカリエおよびパリのウクライナ文化センターで「相撲:人生の道」を開催。

 そして2026年10月12日から18日にかけては、東京・南青山のパソナスクエアにて新たな展覧会「相撲:神聖なる魂」を開く。相撲との出会いから、アートを通じた平和への思いまで、スコロパデンコさんに話を聞いた。

相撲との出会い――「スポーツ」ではなく「文化」として

――相撲に興味を持つようになったきっかけを教えてください。

「最初のきっかけは、ウクライナの大使から大鵬の話を聞いたことです。そこから相撲の本場所や相撲部屋にも足を運ぶようになりました。大鵬についての展覧会を開きたいという思いが芽生え、準備を重ねていくうちに、どんどん深く学ぶようになっていきました。それが15年から16年ほど前のことです。

 最初は『大きな人たちが戦う』という印象しかありませんでしたが、調べれば調べるほど、相撲はスポーツというだけではないと分かってきました。文化であり、伝統であり、もっと言えば『日本の国の宝』、living treasure(生きた宝)だと感じるようになりました。日本の生きた宝というのは、常に惹きつけられるものです」

――初めて相撲を体験したとき、どのような印象を受けましたか。

「とても珍しく、面白く、ある意味では美しく、そして楽しい体験でした。ただ見て楽しむだけでなく、理解しなければならないものでもある、と感じました。相撲には、明治や江戸の時代から息づく日本の精神があります。土俵祭りをはじめとするさまざまな伝統を通じて、私たちはまるで古い時代を訪ねているような体験ができる。

 相撲はいわば「時間の泡」です。100年、200年、あるいは300年前の日本を、今ここで目の当たりにできる。それは本当に驚くべきことだと思います。お酒や焼き鳥を楽しみながら観戦する本場所の楽しさも、もちろんあります。ただ、相撲を深く理解したいのであれば、ぜひ相撲部屋の朝稽古にも行ってほしいと思います。

 部屋に行くことで初めて、相撲が何であるかが分かります。相撲はトーナメントだけではありません。伝統と、その厳しい生活に命をかける人々の姿そのものなのです」

相撲の美しさ――塩と水が語るもの

――相撲のどこに美しさや芸術性を見出していますか。

「相撲の構造そのものに美があります。両国国技館の空間、土俵の佇まい、部屋の中のオブジェクトがどこにどう配置されているか。それだけでビジュアルとして非常に訴えるものがあります。

 力士の着物も、その色やデザインがとても魅力的です。そして取り組みの中での体の動き、所作そのものにも美しさがある。相撲の美は、日本のライフスタイルの美であり、神道の純粋な美学にも通じていると感じています」

――特に印象深い所作や動きを教えてください。

「何と言っても、塩を撒くシーンだと思います。あの美しさはほかに代えがたいものがあります。土俵を清めるという意味が込められていて、日常の中で塩をあのように投げる場面は、今や相撲の中にしか残っていません。

 もう一つ、とても心を打たれるのが、取り組みを終えた力士が次に戦う力士に水を差し出すシーンです。戦い終えて、へとへとのはずなのに、次へ進む仲間に水を渡す。そこに相撲の精神が凝縮されていると感じます。セレモニーとして見ても、人間としての姿として見ても、非常に感動的です」

――相撲の精神や力士の生き方が、ご自身の作品にどのような影響を与えましたか。

「過去の偉大な横綱たちの伝記を学び、今は安青錦や霧島といった現代の力士たちを見続けています。そこから得た最も大切な学びは、二つあります。一つは、自分の選んだ道に誠心誠意を捧げること。

2026年6月12日、パリのウクライナ文化センター(メシーヌ通り22番地)で開催された展覧会「相撲:生き方」のオープニングレセプションにて(撮影/PhilippeDaurios)。安青錦とアーティストのゾヤ・スコロパデンコさん

 そしてもう一つは、他者に対して親切であること。勝っても負けても、自分が愛することに精進し続ける。そしてある高みに達したとき、自分の後に続く者たちを助ける。それが相撲の最も大切な精神だと思っています。相撲を選んだ者は、それが自分の運命だと感じている。その姿を見て、私自身もアーティストとして励まされています」

今秋の個展「相撲:神聖なる魂」について

――2026年10月に東京・南青山で開催する展覧会では、どのような作品やテーマを扱いますか。

「今回の展覧会は、相撲の神聖な儀式やそこに使われる品々を、説明するかたちで見せていくものです。日本の方にも、外国の方にも、相撲がスポーツではなく、ある種の神聖な伝統的サブカルチャーであることを伝えたいと思っています。神道の神社があるように、相撲もまた日本の絶対的に神聖な営みです。

 展示の中心となるのは、小津和紙(おずわし)に描いた最近のドローイング作品です。小津和紙は東京でも最も歴史ある和紙の専門店の一つです。相撲の伝統的な儀式の場面や、神聖な道具を描いた作品を展示します。

 さらに、1910年製の軍配や化粧まわし、古い写真、19世紀の浮世絵なども展示する予定です。現代アートと古いものを混在させることで、展覧会はより深みを増すと考えています。100年前の相撲は今と違っていた。力士の体型も異なりましたが、着物はほとんど同じでした。そのような歴史の連続と変化を、一つの空間で体験してもらいたいと思っています」

――展覧会の構成について、もう少し詳しく教えてください。

「会場は二層になっています。一階では、土俵祭りで使われるお供えもの、シデ、あるいは土俵の中央に埋められるかちぐり・洗い米・昆布・するめといった細かいものを、それぞれの意味とともに絵として展示します。

 普段の相撲観戦では目に入らない、こうした細部にこそ神聖な意味があります。それを丁寧に説明することが、この展覧会の役割です。二階では、年間を通じた相撲の儀式を描いた絵画を展示します。一階で細部を理解した方が二階に上がると、祭りや儀式の全体像がより深く見えてくる。そういう構造になっています」

――今回の展覧会が「平和への祈り」というテーマを持つと伺いました。相撲を通じて平和を願うとはどういうことでしょうか。

「平和を祈り、健康を祈る。それは実は、相撲の伝統の中に最初から刻み込まれています。今回展示する1910年製の軍配には『天下泰平』という言葉が書かれています。相撲の起源にもある『五穀豊穣』と並ぶ、この言葉が今回の展覧会のメッセージです。

 ウクライナが今、ロシアとの戦争で非常に苦しい状況にある中で、相撲が本来持っている『世界に平和を』という精神を伝えることは、今だからこそ意味があると思っています。展覧会の開幕には、神道の神主によるセレモニーも予定しています。神道のお祓いと相撲の神聖さが重なるこの場所で、ウクライナへの、そして世界への平和の祈りを届けたいと思っています」

ウクライナと相撲――安青錦・獅司への思い

――ウクライナにゆかりのある力士、安青錦関や獅司関についてはどのようなお気持ちですか。

展覧会「相撲:生き方」での獅司とゾヤ・スコロパデンコさん。2026年6月、パリのウクライナ文化センターにて

「安青錦はまだ21歳で、すでに大変な高みまで上り詰めました。私は彼を難民だとは思っていません。彼はもう偉大なプロの力士です。外国から来て、異なる言語を習得し、すでに自分の道を切り開いている。それは難民としてではなく、一人の力士として生きている証です。

 私自身も20代でモナコに移住し、ゼロから始めました。外国で、馴染みのない文化の中で、自分の専門性を積み上げていく苦労は、共通するものがあります。アーティストと力士は、一見かけ離れているように見えて、実は非常に近い生き方をしていると感じています。どちらも休日も退職もなく、一生涯自分の道に捧げる存在です。

 パリの展覧会に安青錦が来てくれたとき、私の『決まり手』シリーズを見ながら、『次の場所でどの決まり手を使おうか考えるヒントになった』と言ってくれました。私の絵が、現役力士の稽古の一助になったとしたら、これ以上の喜びはありません。

 獅司とはパリ公演のあとに時間をかけて話しました。彼も安青錦も、私の作品が相撲部屋の日常生活をリアルに描いていることを喜んでくれました。試合の華やかさだけでなく、厳しく地味な日々の練習や、楽ではない生活のすべてが表現されていると感じてくれたようです」

――スコロパデンコさんにとって、相撲を一言で表すとしたら。

「『家族』です。今では毎晩の読書も相撲についてのもので、日々新しい発見があります。世界中のアーティストが私の相撲への情熱に触れて、自分も相撲を見始めたと連絡をくれる。相撲はもう、私の生活に欠かせない一員です」

――最後に、今回の展覧会を訪れる方へのメッセージをお願いします。

「テレビで見る取り組みとは別の相撲を、深く内側から体験してほしいと思います。闘いのダイナミズムでも、大きな体の力士たちの印象でもなく、相撲の文化的な奥行き、見えないところにある神聖さを感じていただけたら嬉しいです。

 展覧会は、相撲を知っている方にも知らない方にも開かれています。ぜひ足を運んでいただき、その先に広がる相撲の深い世界を体験してください」

「相撲:神聖なる魂」展 2026年10月12日から18日まで、東京都港区南青山のパソナスクエアにて開催。入場は無料。