日常的によく親しまれている紅茶。最新の研究で、紅茶の成分に糖質や脂質の吸収を緩やかにする作用があることが明らかに。健康維持だけではなく、老化対策も期待できるという。その研究の第一人者である山岸昌一先生に、詳しい効果とおすすめの「飲み方」を聞いた。
血糖値スパイクを防ぐ成分が!
「健康維持や老化対策のために、紅茶を飲む習慣を取り入れることをおすすめしています」
こう提案するのは、昭和医科大学医学部教授の山岸昌一先生。山岸先生は糖尿病および、老化を促進する物質・AGEs(終末糖化産物)を長年研究し、世界的に高い評価を得ている医学博士。
「健康寿命の延伸が望まれる中、もっとも警戒しなければならない病気の一つが糖尿病です。糖尿病を患うと、男性は71歳、女性は74歳くらいまで平均寿命を縮めることになってしまう。また、高血糖が続くと、がん、心臓病、腎臓病、肝臓病、認知症、骨粗しょう症などを招きやすく、老年疾患のリスクを総じて引き上げる。こうした事実をまず知ってほしいと思います」(山岸先生、以下同)
糖質は白米、麺類、スイーツなど、主に主食や甘いものに含まれており、脳や身体を動かすエネルギー源として不可欠なものだが、とりすぎると血糖値が食後に急上昇する「血糖値スパイク」を引き起こす。
血糖値スパイクは、体内で余分な糖とタンパク質を結びつけてAGEsの形成・蓄積を加速させる。また、揚げ物など脂質過多の食生活も、同様にAGEsの形成・蓄積につながるという。
「血糖値スパイクやAGEsの蓄積は、老化に伴うさまざまな病気を招いたり、寿命を縮めたりする根本原因になっています。この大敵を防ぐ方法を探り、目をつけたのが紅茶に含まれるある成分でした」
その成分とは、「紅茶ポリフェノール」。紅茶の葉にはテアフラビン、テアルビジンに代表される紅茶ポリフェノールが豊富に含まれている。
近年、紅茶ポリフェノールに関する研究は世界中で行われており、疫学研究などでその健康作用が明らかにされてきている。
「紅茶に含まれるポリフェノールは、糖質や脂質の吸収を穏やかにして、食後の血糖値スパイクや脂質代謝異常を軽減させる可能性があります。すなわち、生活習慣病対策の一助となる可能性を秘めているのです」
加えて、山岸先生たちの研究により、紅茶ポリフェノールにはAGEsの形成も阻害する働きがあることが、試験管内の実験でわかったという。
「加齢による身体の衰えを緩やかにするなど、老化対策にも期待が持てます」
そのほか紅茶ポリフェノールは、健康や美容に関する作用が幅広く期待されている。そもそもポリフェノールとは、植物に多く含まれる天然の化合物群の総称。
紅茶だけでなく、緑茶やブルーベリー、赤ワイン、大豆など、さまざまな植物、食品に含まれており、数千以上の種類がある。
「紅茶ポリフェノールは、他のポリフェノールにはない独自の構造と作用を備えています。健康・美容面において非常に期待が持てる成分といえるでしょう」
ここまで紅茶の魅力を伝えてきたが、重要なのはその飲み方。
「食事の前に飲む、“ティーファースト”がおすすめです」
と山岸先生。紅茶は食後の飲み物というイメージが強く、それも作用がないわけではない。
ティーファーストで糖質の吸収を緩やかに
ただし、紅茶ポリフェノールのパワーを十分に引き出すには、「食事の前に飲む」または「食事中に飲む」=ティーファーストを新しい習慣にすることを推している。
「食事から摂取する糖質は、α―アミラーゼやα―グルコシダーゼといった糖質消化酵素で分解されてから体内に吸収されます。この糖質分解は食べ物を口に入れた瞬間からスタートします。
そこで、ティーファーストがおすすめになるのです。紅茶ポリフェノールは糖質消化酵素の働きを低下させる作用があるので、糖質より先に摂取することで、糖質がゆっくり消化・吸収されていく。これは脂質も同じ。結果、食後の急激な血糖値上昇(血糖値スパイク)やAGEsの形成を緩やかにしてくれる可能性があります」
では、食事自体や、紅茶とセットで食べるデザートは何も変えなくてもいいのだろうか。
「もちろん、糖質のとりすぎはNGです。ただ、揚げ物や甘いものを食べたいときは誰にでもあります。紅茶と組み合わせて食事をするティーファーストを習慣にすれば、そうしたときでも糖質の吸収を緩やかにしてくれます。紅茶が強い味方になってくれるので、我慢して糖質を避けなくてもよいかもしれません」
紅茶はストレートで飲むのがベスト。ミルクや砂糖は入れないほうがいい。また、ティーファーストなら何杯飲んでもいいわけではなく、1日3~4杯を目安にしよう。
「健康は一朝一夕では手に入りません。ティーファーストも継続することが何より大切です。紅茶は、手軽に手に入れることができるおすすめ飲料です。うまく利用して、時には糖質のご褒美を味わう生活を送りながら、楽しく健康な日々を過ごしてほしいですね」
紅茶に含まれる機能性成分
紅茶ポリフェノール
紅茶の色や風味を生む植物由来のポリフェノール。紅茶の製造過程でカテキンから変化するテアフラビン、テアルビジンが代表的な成分。健康・美容に関する幅広い作用を持つ。
テアニン
アミノ酸の一種で、うまみをもたらす成分。脳のアルファ波を増やし、ストレスを和らげたり、心身をリラックスさせたりする可能性がある。
カフェイン
コーヒーでおなじみだが、紅茶にも含まれている。睡眠不足時などに集中力を高めてくれる。含有量はコーヒーの半分あまり。
ミネラル類
血圧の調整に働くカリウム、骨の形成や抗酸化酵素の作用を助けるマンガン、虫歯予防に寄与するフッ素などが含まれている。
ビタミンB群・葉酸
疲労回復や全身の機能維持に欠かせないビタミンB群や、ビタミンB群の一種である葉酸も少量含む。葉酸は「造血のビタミン」と称され、赤血球の形成を助ける栄養素。
香気成分
紅茶の葉の発酵過程でつくられる香気成分は600種を超え、キーアロマ(主要香り成分)は数十種以上になる。リラックスや気分転換などの作用も期待できる。
紅茶ポリフェノールの健康への影響
1・食後の血糖値スパイクを緩やかに
テアフラビンなどの紅茶抽出物は、食後の血糖値の上昇や中性脂肪の上昇を緩やかにする作用が報告されています。食後の血糖値スパイクや中性脂肪の上昇は、動脈硬化を進める可能性があります。紅茶ポリフェノールは、生活習慣病対策の一助となるかもしれません。
2・腸への作用
テアフラビンは腸内フローラ(腸内に生息する多種多様な細菌の集まり)に作用したり、神経伝達物質などの分泌を調節して腸管の動きを刺激することで、便通を整える可能性があることが動物実験で示されています。
3・心臓への作用
これまでに行われた研究の統合解析結果では、紅茶を習慣的に飲む人は、そうでない人に比べて冠動脈疾患(心臓に栄養を送る血管の動脈硬化が原因で起こる心筋梗塞などの病気のこと)の発症リスクが低くなることが報告されています。また、総死亡率が低くなる可能性も発表されています。
取材・文/百瀬康司
山岸昌一先生 昭和医科大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科学部門主任教授。医学博士。老化の原因物質である「AGEs(終末糖化産物)」研究の世界的権威。金沢大学医学部卒業。2025年、米国の調査機関「ScholarGPS」により、AGEsの分野で世界第2位、糖尿病の分野(65歳以下)で日本第1位の研究者として選出された。日本糖尿病学会賞、米国心臓協会最優秀賞、日本抗加齢医学会賞なども受賞。
