『女子刑務所に2度入りました』(竹書房 税込み1430円)

 計3年半にわたり女子刑務所に「2度」入った経験を持つ最上六花さん。2度の収監だからこそ見えてきた「堀の中のディープなリアル」と「多様な受刑者たちの凄絶な人生」とは。現代社会の歪みが凝縮された女性受刑者たちの人間ドラマに迫ります。

 有印私文書偽造、詐欺幇助の罪で2度、合計3年半、女子刑務所に服役した最上六花さん。会社からの指示で顧客に詐欺を働くための書類を作り、逮捕されたのだ。その際の経験がコミックエッセイ『女子刑務所はこわいよ』(漫画:小池恵子、協力:最上六花/竹書房)になり、過酷な女子刑務所での生活が話題に。

 今年3月に2冊目の『女子刑務所に2度入りました』が発売となり、女子刑務所内の知られざる人間模様を語ってくれた。女性受刑者は、窃盗罪と覚醒剤取締法違反が多く、約8割を占めるという。中でも最上さんがよく覚えているのが、お金持ちの“組長の娘”だ。

「彼女は覚醒剤を使用して服役していましたが、モデルのようにきれいでとにかくお金持ち。刑務所で支給される日用品は質が悪いのですが、彼女は領置金(収監される際に、刑務所に預ける金品)を使って、高級シャンプーや新品の下着、靴下などを購入していました」

 受刑者の多くは家族からの送金も少なく、刑務所から支給される「官物」の日用品を限界まで使い倒していた。最上さんも2〜3か月に1度、両親から3000〜5000円が送られてくるのみ。自費で新品の日用品を頻繁に購入できる組長の娘は異例だった。

「下着も靴下もお古が渡され、穴があけば継ぎ当てをして使うのが当たり前。なのに彼女はいつも新品を使っていてうらやましかったです。ただ覚醒剤で服役する人は再犯率が高く、組長の娘で、お金があっても、厳しい人生が続くのだろうと思いました。

 女性は自ら覚醒剤に手を出した人は少なくて、恋人から打たれたことがきっかけというケースも多く、やるせなかったです」

 刑務所内では、私物の譲渡や貸し借りは厳禁で、バレたら懲罰対象となるため、所有できる人への嫉妬も大きい。

「まじめに作業をして班長になると、月に1回お菓子がもらえるようになります。でも周囲からは妬まれ、無視されたり、いじめの対象になりやすいんです。知らないうちにポケットにお菓子を仕込まれて懲罰対象に仕立て上げられた人もいました」

 気の弱そうな人は、いじめられたり物を盗られる対象になりやすい。被害に遭ったら刑務官に報告し、毅然とした態度を取り続けることが大事だという。

毒親殺しや冤罪のやりきれない背景

 女子刑務所に凶悪犯は少ないが、親を殺して服役していたJさんのことを最上さんは忘れられない。

『女子刑務所に2度入りました』(竹書房 税込み1430円)より(マンガ/小池恵子)

「おとなしく、殺人という言葉からは遠い印象の人でした。彼女は3人きょうだいの長女として生まれましたが、母親から一人だけ疎外され、暴力を受け続けて育ちました。中学生のときは新聞配達で得た1か月5万円のほとんどを母親に搾取されていたそうです。

 高校卒業後は、睡眠2〜3時間で家事労働と仕事を強要され、留学する妹の費用まで全額負担させられることになったそうです。そのとき彼女は初めて抵抗し、気づかぬうちに包丁を握っていて……。母親を殺したとき、『これから自分は自由だ』という解放感に包まれたと聞きました」

 冤罪を訴えて服役していた人が、のちに無罪になったケースもあったという。

「その人は看護助手として勤務中、患者の人工呼吸器を外したという容疑で殺人罪に問われていました。取り調べ中、担当した刑事が時折見せる優しさにほだされ、『好きな刑事さんを困らせたくない』という一心で、誘導されるままに自白したそうです。

 私も取り調べ中のアメとムチを経験したので、彼女の気持ちはわかる気がしました。その後、彼女は警察の再捜査のために連れ出され、冤罪だったというニュースを報道で見ました」

 刑務所の中には外国人の受刑者もいて、覚醒剤取締法違反で服役しているケースが多かったそうだ。

「イスラム教徒のインド人受刑者と同室になった際、礼拝を欠かさず、ラマダン(断食)やハラール食などの戒律を守って生活していました。刑務作業中でも、刑務官に許可を取って礼拝を行っていて、刑務所内であっても宗教上の配慮がなされていました」

 受刑者の中には家族との縁が切れる人もいる。最上さんには、両親と夫、娘がいたが、面会に来てくれたのは父だけで、母は「孫に合わせる顔がない」と一度も来なかったそうだ。

「薬物で2度逮捕された女性は、娘さんの結婚を控えていました。でも娘さんは相手の親から『結婚を許す条件は、母親と絶縁すること』と迫られ、その女性は離婚届に判を押していました。家族であっても許されない、あるいは家族だからこそ許せない。その断絶こそが、本当の罰なのかもしれません」

余暇の時間は写経が大人気

 行き場のない高齢者が刑務所に入りたくて万引きを繰り返すという話も聞くが、刑務所生活は当然ながら過酷だ。最上さんも「絶対に戻りたくない」と話す。

「夏場はエアコンもなく、あるのは古い扇風機1台だけ。雑居房は過密で、熱気と湿気が尋常ではありません。夜は隣り合う他人の体温をダイレクトに感じながら、寝返りすら打てない狭小空間で夜を過ごさなければなりません。冬は寒いですが、防寒着もないので、下着を着込むしかないんです」

 塀の中では最も大切なもののひとつが「ちり紙」だ。

「刑務所のトイレにはトイレットペーパーがなく、行くたびに使う分だけちり紙を持参するのがルールです。支給されるちり紙はゴワゴワで質が悪く、2週間に1度、約500枚と決まっています。それを切らさないように使わなければいけません」

 排泄時だけでなく、鼻をかんだり、口元を拭いたりするときにも必要なので、計画的に使わないとすぐに使い切ってしまう。不足して追加申請すると厳しく注意を受けることになる。

「ちり紙1枚でも他人に渡すと不正授受で懲罰対象になります。過去にちり紙を喉に詰めて自死した受刑者がいたため、厳しく管理されているのです。私のちり紙が盗まれたこともありましたが、人によって折り方が違うので、犯人がすぐにわかりました。出所後に駅のトイレに入った際、トイレットペーパーが自由に使えて感動したのを覚えています」

 排泄といえば、多くの受刑者を悩ませていたのが便秘だ。食生活やストレス、運動不足など、刑務所には便秘になりやすい要因がそろっている。

「薬はよほどの場合でないともらえず、もらってもあまり効き目がないんです。食事で出される納豆が便秘解消になるとのことで、外国人受刑者が1年かけて納豆嫌いを克服し、食べられるようになったという話も聞きました」

『女子刑務所に2度入りました』(竹書房 税込み1430円)より(マンガ/小池恵子)

 一方、余暇の時間もあり、居室にあるテレビを見たり、ラジオを聴いたり、読書をしたり、日記や手紙を書く人が多い。

「新聞を回し読みすることができました。また、本を購入することができ、『週刊女性』も買えました。おいしそうな料理がのったレストランの記事を見て、『出所したらここに行きたい!』と思うことがみんなの希望になっていました」

 その余暇の時間に大人気だったのが意外にも「写経」だ。

「写経用の本や用紙は無料で支給されるんです。写経をすると仮釈放が早くなるといった噂もあったので、多くの受刑者が取り組んでいました。毎日書き続けるうちに習慣となり、書かないと落ち着かなくなる人もいるほどでした。

 居室でどう過ごせばいいかわからないときやイライラしたときに集中して書くことで、心が落ち着き、気持ちが楽になる効果を実感していました」

ふとした瞬間に蘇る「堀の中」の記憶

 最上さんは出所後、脳梗塞を患い、現在は左半身に麻痺が残っている。それでも「脳梗塞での生活のほうが刑務所よりずっといい」と語る。

「今は具合が悪くなればすぐに救急車を呼べます。刑務所だと、どんなに体調が悪くても刑務官の許可を待たなければならず、診察を受けるまでが大変でした。今、病気でも頑張れているのは、刑務所でいじめに遭っても、両親や娘の手紙・写真を見て踏ん張った経験があるからだと思います」

 日常生活での何げない光景から、刑務所での生活を思い出すことも多い。

「刑務所では日曜日の午後に福山雅治や山下達郎のラジオ番組が流れていて、今もラジオから流れてくる声や音楽を耳にすると、『ああ、あの場所にいたな』と当時の記憶が蘇えります。

 刑務所の作業で、下着専門店の下着や百貨店の紙袋を作っていたので、外で目にした瞬間に、単調で厳しい作業を思い出すことも。警察官やパトカーを見ると、悪いことをしていなくても今でもドキドキして不安になります。

 振り返ると刑務所にいた3年半は、キツくてしんどいことだらけの時間でした。だからこそ、今こうして自分で自由に歩き、物を選べることのありがたみを感じずにはいられません」

 最上さんは知られざる女子刑務所の実態を語ることで、「絶対にここに入るようなことはしてはいけない」と教えてくれているのだ。

最上六花さん
会社の指示で有印私文書偽造と詐欺幇助を行い、2回収監された元女子受刑者。約3年半の女子刑務所での体験を漫画家の小池恵子氏に伝えて漫画制作に協力。『女子刑務所はこわいよ』『女子刑務所に2度入りました』(共に竹書房)を出版。現在は夫と子どもと穏やかに暮らしている。

取材・文/紀和 静 マンガ/小池恵子