しみず・けん/元読売テレビアナウンサー。夕方の報道番組のメインキャスターを務め、現在はフリーアナウンサーとして幅広い分野で活動。著書に『112日間のママ』、『笑顔のママと僕と息子の973日間』(共に小学館)がある。

 最愛の妻・奈緒さんを亡くして11年。幼かった息子をひとりで育てながら、800回を超える講演を続けてきた清水健さん。年月とともに悲しみは小さくなっても、妻に会いたい思いは募るという。今だから語れる後悔、そして大切な人がそばにいる幸せとはーー。

妻との日々を語り続けて誰かの心を開く

「今年2月、妻の11回目の命日を迎えました。悲しい気持ちはなくならないけど、小さくなっています。でも、妻に会いたい思いは昔以上に増しているんです。息子が大きくなって『進学どうしようか?』などと相談したかったし、何よりもっと一緒にいたかったなあって」

 と語る、最愛の妻・奈緒さんを乳がんで亡くしたフリーアナウンサーの清水健さん。突然のがん判明は妊娠直後だった。出産することを夫婦で決意し、無事子どもは生まれるものの、がんが転移。出産後、奈緒さんは帰らぬ人に。当時、清水さんは読売テレビに在籍し、報道番組のメインキャスターを務めていた。

「妻は僕の担当した番組のスタイリストで、それが出会いになります。キャスターとしての責任感やプレッシャーに押し潰されそうな日々を支えてくれました。約2年の交際を経て2013年に結婚し、出産。がんにより、妻がママでいられたのは112日、僕との結婚生活は1年9か月でした」(清水さん、以下同)

出産直後の奈緒さん。この後、乳がんの転移が明らかになる

 享年29。あまりにも早すぎる死だった。奈緒さんとの闘病の記録を、家族3人の生きる証しとして綴った『112日間のママ』は15万部を超えるベストセラーとなり、今なお版を重ねている。同書発刊以降、清水さんのもとへ講演依頼が殺到するようになった。

「現在、講演は通算800回を超えています」

 講演の際、準備はするが原稿は作らない。聴衆の前に立ち、会場の空気を感じながら、自身の経験や思いを口にする。言葉に詰まることもある。次の言葉が出てこなくて、間が空いてしまうこともある。しかし、それをよしとしている。

「僕の“ありのまま”を見てほしいし、それが“今”だからです。自分の素をさらけ出し、今という時間を共有することで、何かが伝わる。そう思っているんです」

 講演終了後、清水さんは会場に来た人たちと接する機会を設けている。その場で、それぞれが抱える苦しみや悲しみを幾度となく共有し合っている。

「ご主人を病気で失った奥様は、息子の前では涙を見せられず、『今日久しぶりに泣くことができました』と、ホッとした顔をされた。また、母親の病気を告白してくれた高校生の女の子は、『だから私が頑張らないといけないんです』と目を潤ませていた。このように、誰にも言えなかった想いを吐露する後押しができていたら、すごくうれしいですね」

5年目で初めて明かされた父親たちの本音

 清水さんはがん対策、がん検診率向上、難病対策などの支援活動をする一方で、シングルファーザーのオンラインサロンも主宰。今年7月、同サロンは幕を閉じたが、病気で妻を亡くした同じ境遇の仲間が集い、長年、語らいを続けてきた。

「シングルファーザーの会を始めて5年くらいたったころでした。あるとき参加者の一人が、病気と向き合わざるを得なかったつらい闘病生活を口にして、それをきっかけに『うちはこうだった』と、みんなが自身の体験を語り出したんです。

 それまでは日々の暮らしや子どものことなど、たわいない会話に終始していたのが、5年たって初めて互いに本音を明かして話し合うことができました。それだけでも会をやってよかったなあと思っています」

家族3人、竹富島へ。奈緒さんは抗がん剤治療で苦しいはずなのに、笑顔を見せていた。最初で最後の家族旅行に

 なぜ胸の内を5年も隠したままだったのか。そこには知られざる理由があった。

「家族は弱音を吐いてはいけない。苦しくても、つらいなんて口にしてはいけない。みんなそう思っているんです。なぜなら、病気と闘っている本人が一番苦しいし、頑張っているから。

 その姿をそばで目にしているがゆえに、自分の気持ちを抑え込むようになってしまうのかもしれません。これはシングルファーザーに限らず、病気で夫を亡くしたシングルマザーも同じでしょう」

今だから思う「もっと弱音を吐き合えばよかった」

 奈緒さんを失って11年の歳月が経過した。今改めて振り返り、当時こうしておけばよかったということは何か尋ねた。

「妻が自身の悩みや苦しみを、素直に言えるようにしてあげればよかった。妻はがんが転移してつらい状況なのに、僕の前では弱音や涙を見せることはありませんでした。自分が泣いたりしんどい顔をすれば心配をかけると思い、無理して強くいてくれたんです。そうさせたのは僕。

 僕も妻の前では弱音や涙を見せられず、それが結果的に負担をかけることになってしまった。妻は本当は怖かったし、不安な気持ちでいっぱいだったはずです。互いに『しんどいね』『不安だね』と正直な気持ちを言い合えればよかったんだと思います。そうした環境をつくれなかったことが、悔しいです」

 冒頭の言葉にあるように、奈緒さんに会いたい思いは年々募るばかり。でも、その願いは叶わない。

「家に帰り、『今日は疲れたなあ』って口にしますよね。また、仕事で嫌なことがあったとき、愚痴を言ったりしますよね。その言葉を聞いてくれる相手がいるというのはすごく幸せなこと。妻がいなくなってから、そう強く感じます。

 結婚生活が長くなると夫婦の会話は減るようですが、返答がなかったとしても、うなずいてくれる相手がいるというのはめちゃくちゃ幸せなこと。僕自身もですけど、パートナーがいるときはそのありがたみに気づかないんですよね」

現在はシングルファーザーとして子育てに奮闘。息子さんは小学6年生となり、成長を日々実感している

 シングルで子育てしながら、2025年からラジオ番組のパーソナリティーを担当。言葉を伝えるメディアの現場に復帰し、リスナーに価値がある情報を届けている。そんな清水さんから最後にエール。

「僕は『無理せず、がむしゃらに』というのをモットーにしています。むちゃくちゃ矛盾していますよね。でも、両方重要なこと。無理しちゃいけないときがあって、そこでは立ち止まったり休んだりすればいい。一方でがむしゃらに頑張らないといけないときもある。生きたくても生きられない人がいる中、今があることに感謝してやり抜く。だから僕はいつも『一緒に頑張りましょう』と皆さんに声をかけています」

しみず・けん 
元読売テレビアナウンサー。夕方の報道番組のメインキャスターを務め、現在はフリーアナウンサーとして幅広い分野で活動。著書に『112日間のママ』、『笑顔のママと僕と息子の973日間』(共に小学館)がある。

取材・文/百瀬康司