ピアニスト・作曲家の大浦史記(ふみのり)氏は、およそ8年間にわたり、flumpool(フランプール)のギタリスト・阪井一生(かずき)の依頼でドラマの劇中で使用した楽曲(以下、劇伴)を制作してきた。しかし、その楽曲は、大浦氏の名前が表記されないまま世に出ていったという。
flumpool・ギタリストに訴訟問題発生
「当初は口約束に近い形で明確な契約を結んでおらず、ギャラも1曲あたり数千円程度でしたが、自分の名前が出ないことを大きな問題とは捉えていませんでした。作った音楽がテレビから流れてくることが純粋にうれしかったですし、ドラマ音楽の制作に携われる喜びがあったためです」(大浦氏、以下同)
やりがいを感じていた反面、制作した楽曲が世に出ていく中で、自身の権利や実績がまったく残らないことに徐々に疑問や不安を抱くようになる。
そんな中で阪井から依頼を受けたのが、'25年に放送された多部未華子主演のドラマ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(TBS系)の劇判制作だった。
「これまでどおり、ドラマのイメージを伝えられ、16曲を制作してデータを提出しました。その中の1曲が、今回の訴訟の対象となっている『声にならない想い』です。4度目の依頼となる今回こそ、自分の名前を作曲者としてきちんと表記してほしい――。
そんな思いから、楽曲がこれまでと同様に採用されるのであれば、公式サイトのスタッフ欄やドラマのエンドロールに、阪井氏と連名で名前を掲載してほしいと話をしました」
しかし阪井からは、エンドロールや公式サイトに名前を記載することは難しいと説明され、サウンドトラックと配信であれば共作にできるかもしれないと提案を受けた。
「CDの発売が正式に決まったら改めて話し合いましょうと伝えましたが、その後、連絡はなく、'25年4月にSNSを通じて、サウンドトラックが発売されることを知ったのです」
大浦氏が制作に携わった『声にならない想い』が収録されていたこともあり、作曲者としてのクレジット表記を求めたものの、CDはすでに完成してしまったとのことで今回も実現は見送りに。
「JASRAC(日本音楽著作権協会)への作品登録についても調べてみると、過去に自分が作曲したと考えている楽曲が、阪井氏の名義で登録されていることがわかりました」
裁判所が間に入って調停を試みたものの、合意には至らず、'25年9月、阪井を相手に訴訟を提起したのだった――。
阪井一生が法廷で語ったこと
今回の訴訟では『声にならない想い』をめぐる100万円の損害賠償、謝罪文の掲載、『対岸の家事』のサントラCDの在庫破棄と流通停止などが求められている。書面やオンラインでのやり取りが何度か行われた後、10月13日に、東京地裁中目黒庁舎で本人尋問が行われた。
黒いスーツ姿で弁護士とともに出廷した阪井は時折、笑顔を見せる場面もあった。尋問では、作曲家についてどのように考えているか問われると、
「作曲家は音楽監督ともいえます」(阪井、以下同)
また、阪井によれば、
「納品時には各楽器の音を分けたパラデータを用意します。ドラマではピアノだけが使用されることもありましたが、ピアノだけでは楽曲は成立しません」
と、ピアノのデータを作ること自体は作曲には当たらないとの認識も示した。
クレジットの扱いについては、'25年1月18日の時点で名前を掲載できないことを大浦氏に伝えていたと強調。
「過去の『FNS27時間テレビ』の仕事から、クレジットの掲載を求められませんでした。なので大浦氏は今回も名前の表記にこだわっていないと考えました」
著作権などの権利関係については、所属事務所に任せていたと説明した。
「所属事務所と音楽制作会社との間で契約が結ばれていて、正直詳細な契約内容は把握できていませんが、これまでトラブルはありませんでした」
今回の問題については、
「とても悲しいです。調停の際、解決金600万円の支払い命令と、このことを公表するという旨を伝えられたとき、メンバー、スタッフに迷惑をかけてしまうと思いました。『対岸の家事』に関しては、白紙に戻す提案をした段階で引き揚げておけばよかった……」
そう語るのだった。
「和解に応じるつもりはない」
大浦氏は弁護士を立てず、本人訴訟で阪井と争っている。本人尋問では、阪井の性格について“温厚”と評する場面もあったが、尋問を終えた大浦氏の受け止めは厳しいものだった。
「話の筋が通っているのは、こちらです。弁護士に任せきりなのでしょう。阪井氏は今回、初めて出廷しましたが、これまでの裁判の流れを頭に入れていないのだろうと感じました。反省していないし、嘘をついているんです」(大浦氏)
阪井の代理人弁護士に楽曲の制作過程や作曲者としてのクレジット表記をめぐる問題について聞くと、
《ご質問に関連する事件は、現在、未だ訴訟係属中のため、詳細についてのご回答は差し控えさせていただきます。制作過程において双方に誤解が生じたことは事実ですが、通知人(阪井一生)において誠意をもって対処しており、今後も早期解決に向けて対応して参る所存です》
との回答があった。
「本人尋問後、和解について話がありましたが、私は断りました。ただ、裁判所からは改めて和解の場を設けると言われています。解決金の支払いや謝罪文の掲載について、阪井氏側に掛け合うとも言ってくれましたが、今のところ、和解に応じるつもりはありません」(大浦氏)
大浦氏が求めているのは、金銭的な補償ではなく、自らが手がけた楽曲の作曲者として、正当に評価されることだという。はたして、裁判所はどのような判断を下すのか。
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