10月24日、改正皇室典範が施行される。現行の典範が昭和22年に施行されて以降、抜本的な制度改定が行われるのは史上初となる。新たな枠組みでは、(1)女性皇族が婚姻後も皇室に残ること、(2)旧宮家の男系男子の養子に迎えること、が盛り込まれた。
養子に男児が生まれた場合、継承資格を付与することが盛り込まれた
喫緊の課題であった皇族数の維持を目的とした今回の法改正でしたが、立法プロセスや制度設計には少なくない瑕疵が指摘されている。皇室ジャーナリストは次のように指摘する。
「最大の論点は、事前の有識者会議や各党協議で十分な議論が尽くされていなかった『迎え入れた養子に男児が生まれた場合、継承資格を付与する』という部分が盛り込まれた点です。立法府全体の一致点とは言い難く、拙速な判断に対する反発は根強い。また、女性皇族が皇室に残る一方、その夫や子どもには皇族の身分を与えないとされたことで、同一世帯内で身分が分断されるという不合理な家族関係が生じることになります」
男系男子継承の維持を最優先とした結果、随所に軋みが生じている今回の法制度。2021年の政府有識者会議でヒアリングに応じた東京大学の本郷恵子名誉教授に、制度のはらむリスクについて見解を尋ねた。
今回の改正論議はその流れに逆行するもの
いよいよ改正皇室典範が施行されますが、その内容や決定プロセスに対しては強い疑問と懸念が拭えません。本来、皇室のあり方は国民的な合意のもとで慎重に議論されるべき事柄です。十分な情報開示や国民への説明がないまま進められたプロセスは、積み重ねてきた民主主義の精神を損なうものと言わざるを得ません。
今回の動きを巡り「愛子さまを天皇に」と望む国民の声が広がっていることは、男性中心の価値観が根強かった昭和の時代には見られなかった現象です。男女共同参画が当然となった現代において、国民の意識が大きく変化したことの表れでしょう。かつてのように本人の意思とは無関係に生き方を制限される時代ではなくなり「皇族だから基本的な人権が制限されても仕方ない」という論理に対し、多くの国民が違和感を抱くのは自然な感覚でしょう。
昭和の時代、女性皇族は20代前半で結婚され、公務に長く従事する前に皇室を離れるのが通例でした。しかし、現代の女性皇族方は大学に進学され、成年後は精力的に公務に励まれるお姿を日々目にします。男性皇族と同様の教育を受け、公務の担い手としての責務を果たされている以上、女性であるという理由だけで皇位継承資格が認められない根拠は見いだしがたいのではないでしょうか。仮に「男系」という要素を見直したとしても天皇家が連綿と受け継いできた歴史と重みが失われるわけではありません。象徴天皇制を健全に次代へ存続させるためにも、女性天皇・女系天皇の容認は自然な選択肢であるはずですが、今回の改正論議はその流れに逆行するものとなっています。
特に懸念されるのが、いわゆる「旧宮家からの養子案」です。明治の皇室典範で養子が明確に禁止された経緯を踏まえれば、血統的に36〜38親等も離れた民間出身の男性を皇室に迎え入れるという手法は極めて不自然です。男系男子支持者からは「理屈ではなく伝統だ」との主張もなされますが、これでは理性的な議論の放棄に等しい状況です。直系長子である愛子内親王をはじめとする近い血統が存在するにもかかわらず、なぜ遠い血縁の民間人を迎えてまで男系男子に固執するのか、理解に苦しみます。
施行翌日には養子候補が出てきてもおかしくない
政府は「養子と養親双方の自由な意思に基づき行われる」と説明しますが、そもそも個人の自由意思によって皇族の身分を取得できるのかという根本的な問いが残ります。入る権利は自由意思で認められながら、離脱の自由は制限されるのか。こうしたさまざまな問題を抱えている養子案ですが、10月24日に施行されるので、その翌日には養子候補が出てきてもおかしくないわけです。
さらに女性皇族が結婚後も皇室に残る案についても、配偶者や子には皇族の身分も継承権も与えない「一代限り」の措置にとどまっています。これは「公務の担い手としての役割は求めるが、血統としての家系は認めない」という極めて不自然な制度設計で、いびつな家庭形態を強いることになりかねません。象徴天皇制の根幹を支えるのは、国民の深い理解と敬愛、そして共感です。幼少期から歩みを見守ってきた皇族方とは異なり、不透明なプロセスの末に突如現れた方を、国民が心から受け入れることは容易ではなく、長年培われてきた皇室の権威そのものを揺るがしかねません。
直系長子への継承を重んじる「性別を問わない長子継承」の確立こそが、最も明快で国民の共感を得やすい解決策ではないでしょうか。女性皇族が築かれるご家庭にも継承権を認めることこそが、開かれた持続可能な皇室の存続につながります。今回の議論を機に、天皇制の未来を国民が「自分事」として捉え、より開かれた議論を深めていくことが不可欠です。
本郷恵子 東京大学名誉教授。元東京大学史料編纂所所長。日本中世史を専門とし、著書には『院政 天皇と上皇の日本史』(講談社)『天皇家の存続と継承:中世の転換から現代へ』(吉川弘文館)など
