中日ドラゴンズ監督に就任した工藤公康氏 写真/共同通信社

 中日ドラゴンズ新監督の就任会見に臨んだ10月15日、工藤公康監督はその足でチームが秋季練習に取り組んでいるナゴヤ球場入り。新監督に身構えるナインを前に、“所信表明”と訓示を述べた。

「毎年必ず皆さんも見たと思いますけど、選手が辞めていきます。辞めていった選手のことを見てください。自分には関係ないとは思わないでください。ああならないために、悔いが残らないために、自分たちのすべきことをしっかり僕はやってほしいと思っています」

 結果が伴わなければ来年にも“クビ”が宣告される仕事場だけに、新しく“部下”となる選手に対して、日々のプレーと共にプロ野球選手としての自覚と覚悟を持って取り組むことを求めた。

 福岡ソフトバンクホークス監督時代には、チームを3度のパ・リーグ優勝と5度の日本一に導いた名将。そんな工藤流が顕著に現れたのが当時、ソフトバンク選手らに課した「禁止令」だった。2015年の就任当初、工藤監督がナインに求めたのは「ガム」と「唾吐き」の禁止。“唾吐き”はともかく、試合中にガムを噛む選手は珍しくはない。

 メジャーリーグではかねてより「集中力アップ」や「リラックス効果」が期待できることから試合中にガムを噛む選手も多く、プレーのパフォーマンス向上を目的とされてきた。しかしながら、工藤監督の考え方は異なる。

ガムや唾吐き禁止の理由

 8月28日に『西スポWEB OTTO!』が配信した連載記事によると、当時のガム・唾吐き禁止について、あくまでも【グラウンドは大切な職場】とした上で、さらにプロ野球ナイターが始まる時間帯はーー、

【家庭では夕食を作り、一家で食卓を囲む時間帯でしょう。ガムをクチャクチャとかみ、風船を大きくふくらませ、グラウンドに唾をペッペッペと吐く-。そんなプロ野球選手の姿がテレビに映ったら、皆さんどう感じますか。そんな光景を見ながら食事を楽しみたいでしょうか。】

 ファンにとって“憧れの存在”であり続けるにはやはり相応しくない行為として、ソフトバンク選手には「プロの立ち振る舞い」を求めて禁止を言い渡していた。

就任会見を終え、ナゴヤ球場で選手たちへの訓示を行った工藤監督(中日ドラゴンズ公式チャンネルより)

 2026年9月21日、バンテリンドームナゴヤでのホーム最終戦セレモニーで、一部選手がファン挨拶の際にガムを噛みながらグラウンド整列したことで物議を醸した。かつて立浪和義前監督の元でヘッドコーチを務めた片岡篤史氏も、自身のYouTubeで言及。

「たとえば皆さんが年末年始ご挨拶に行くのにガムをかんで行くのかって。そういうところにはガムをかんだらいけないと各選手が自分たちで認識しないといけないんちゃう?」

 プレーに集中するためにガムを噛むことは別として、中日選手らが「ガムを噛んで良い、悪い場面の区別」ができていない、社会人としてTPOを弁えない意識に苦言を呈していた。工藤監督もセレモニーを同様に見ていた可能性もあるが、ソフトバンク監督としてガムを全面的に禁止したわけではない。

 やはりガムを自身の“ルーティン”として、重要なプレーアイテムと持ち込んでいた選手もおり、ベテラン主力選手から「ガムを認めてほしい」との直談判もあったという。すると工藤監督は、

口を開けずに、かんでくれ

【「君たちがガムをかんでリラックスしたい気持ちは分かった。だったら口を開けずに、かんでくれ」】(『西スポWEB OTTO!』より)

 選手からの要望をにべもなく断るのではなく、ならば「ガムをくちゃくちゃさせるのではなく、口を開けずに噛む」という“代替案”を提示したのだ。

 ちなみに「禁止令」といえば2023年、立浪前監督の指示のもとでベンチ裏の食堂から炊飯器が消えたことがある。当時は「米禁止」「令和の米騒動」などと一部メディアやネットで囃し立てられたが、実際には炭水化物の過剰摂取でプレーに支障が出ることを懸念し、試合前の“丼ご飯”をやめたもので、実際には“代替案”として「おにぎり」を提供していた。

 低迷していたチーム状況と選手意識を変えるため、部下である選手のパフォーマンス向上のために考案した、立浪前監督による時代に沿わせた「働き方改革」でもあったのだ。

「米禁止」に続いて「ガム禁止」ともなれば、中日選手の中にも異論を唱えるものもいるかもしれない。それでも自身はプロで実働29年間、48歳まで現役でプレーした監督だからこそ、プロとして部下に「すべきこと」を説いているのだろう。