9月11日、紀子さまの60歳の誕生日のお祝いの挨拶のため赤坂御所を訪れた愛子さま

 10月24日、改正皇室典範が施行された。その改正議論の高まりを背景に、発売から半年もたたずに8万部を超えるベストセラーになっているのが『継体天皇 六世紀に現れた世襲王権の「始祖王」』(中公新書)だ。

「同書は『古事記』や『日本書紀』を批判的に読み解き、天皇制の要となっている血統による世襲制度は、約1500年前に即位した第26代・継体天皇以降とする説を唱えて“万世一系”に一石を投じる画期的な一冊です。反響の背景には、やはり7月に成立した改正皇室典範の存在があるのでしょう」(皇室担当記者)

“なぜ女系天皇ではいけないのか”という合理的な説明がされていない

 著者は日本古代史研究を専門とする関東学院大学の河内春人教授。皇室典範は1889年に初めて制定され、1947年に改正後、今回は79年ぶりの改正となり、主に(1)女性皇族が結婚後も皇室に残ること、(2)旧宮家の男系男子を養子に迎えることが可能となった。そんな改正皇室典範について、河内教授に話を聞いた。

「何より必要だったのは“皇室典範とはどういうルールか”を考え直すことだったのではないでしょうか。男系男子への限定は“そう書いてあるから”と押し通された印象ですが、明治時代につくられた旧皇室典範の内容を現憲法下でそのまま維持することには違和感があります。皇位継承のあり方は歴史的にも社会情勢に応じて変化してきたものであり、固定化すべきものではありません。男女平等を掲げる現代において、その象徴たる天皇にも社会のありようが反映されるべきではないでしょうか」(河内教授、以下同)

 また、女性・女系天皇を巡る議論も尽くされていないと続ける。

「社会構造が異なる古代と現代を単純比較することは避けるべきですが、過去に女性天皇が存在した実績を踏まえた上で、“なぜ現代では男性天皇限定なのか”という本質的な議論が深まっていません。また、“男系女子”と“女系”の議論が混同されがちな点も整理が必要です。そもそも“なぜ女系ではいけないのか”という合理的な説明がなされておらず、学問的見地からも現代社会の課題としても、さらなる検討が求められます」

 さらに、歴史的に重要な一件が“素通り”されているのでは、との懸念を示す。

皇室典範の再改正に向け議論の余地は十二分にあり

「江戸時代、閑院宮家から即位した光格天皇が実父・典仁親王に称号を贈ろうとして幕

2026年4月29日、日本武道館で開催された昭和100年記念式典にご臨席された天皇、皇后両陛下

府と対立した『尊号一件』という政治トラブルがあります。今回、議論されている旧宮家養子案でも、その子どもが即位した際、養子となった父親の身分の扱いを巡って同様のトラブルが生じる懸念があります。こうした歴史的な経緯は、有識者が知識を提供し、説明しなければなりません」

 

 皇室の将来について、国民が関与できることも少なくない。

「直面している最大の問題は、直系継承を続けることが物理的に困難になっている点です。皇位の正当性やルールも時代に応じて変化してきた歴史がありますが、現代の主権者は国民です。議論から国民が置き去りにされている感覚があるのは問題でしょう」

 男系男子派の一部は、男系継承の根拠に“2600年の伝統”を主張しているが、冷静な視点が必要だという。

「政治家が主張する歴史と歴史的事実は別問題です。例えば“神武天皇以来の世襲”というのは学問的にはフィクションの領域で、それを事実とするのは危険でしょう。“伝統”という言葉をそのままうのみにするのではなく、それはいつの時代を指すか、事実に基づく検証が必要です。そもそも旧皇室典範の制定からはまだ137年であり、歴史的にも長くはありません。“伝統”が建前となる裏にどんな意図が隠れているか、考え続ける必要があると思います」

“改悪”とも批判される改正皇室典範。再改正に向け議論の余地は十二分にあり、主権者である国民のリテラシーも求められている。

河内春人(こうち・はるひと) 関東学院大学経済学部教授。明治大学大学院博士後期課程中退。史学博士。日本・東アジア古代史研究を専門とする。著書に『継体天皇 六世紀に現れた世襲王権の「始祖王」』『倭の五王』(共に中公新書)など