高齢者のイメージ写真

 安心安全なはずの住み慣れた自宅。でも、実は自宅での死亡事故は年々増加傾向にある。原因は、気づかないうちに始まっている身体や認知機能の衰えと、「自分は大丈夫!」という過信。何げない日常の中に潜む危険の見極め方、防ぎ方、自宅を安全な場所にするポイントを知っておこう。

自宅内での転倒や転落による死亡者数は交通事故の約4倍

「自分はまだまだ若くて元気だし、足腰にも自信がある」

 そう思っているシニア層ほど、実は思わぬ落とし穴に陥りがちだ。65歳以上の自宅内での転倒や転落による死亡者数は、実に交通事故の約4倍にも上る。

 死を免れても、約8割が通院や入院を余儀なくされている。なぜ、最も安全であるはずのわが家で命を落とすような事故が多発するのだろうか。

「背景にあるのは、50代から静かに始まる身体や認知機能の衰えと、自分は大丈夫という過信です」

 そう話すのは危機管理アドバイザーの国崎信江さん。

「見た目や気持ちが若々しくても、足が上がりにくくなったり、耳が聞こえづらくなったりと、身体は少しずつ変化しています。些細なきっかけで骨折しやすくなるうえに、若いころより治りが遅いため、入院生活が長引くと一気に筋肉量が減少します。

 高齢者は1日寝たきりで過ごすと1年分の筋肉量が減るともいわれ、そこから運動機能や、心身の機能が落ちたり、認知症を引き起こして要介護や死亡へとつながってしまう。だからこそ、事故を防ぐ意識を持つことが何より大切です」(国崎さん、以下同)

 そこで重要なのが、筋肉をつけること。

「日頃の家事だけに頼らず、椅子に座ったままできる足の上げ下げなど、日常的なストレッチで筋肉量を維持することが10年後の命を守ります。そして何より不可欠なのが、『自分を信じない』という心構え。自分は大丈夫と過信するのではなく、『つまずくかも』『むせて窒息するかも』と最悪のリスクを想像する力を持つことが、事故回避の第一歩です」

 日常のちょっとした不注意をなくすために、自宅や外出先で意識したい予防のポイントを見ていこう。慣れた自宅内で最も多い事故が、つまずきや転倒だ。

「物が多い家ほどケガのリスクが高まるため、60代になったら意識して物を減らすことが重要です。床に置きっぱなしの荷物をなくし、裾や足元に引っかかりやすい衣類も避けましょう。滑り止めとしては、めくれやすいラグよりもクッション性のある絨毯を敷くのが効果的です」

 ケガをしにくくする対策に加え、軽傷で済むような対策も大事。階段や廊下での転倒対策としての手すりは、とっさにどちらの手が出るかわからないため、両側に設置するのが望ましい。

家の中での閉じ込め事故にも注意

 次に浴室や洗面台。冬場に多発するヒートショックは、暖まった浴室から冷えた脱衣所や廊下へ出る瞬間に倒れるケースが多い。

「血圧の急激な変動を防ぐためにも、浴室内で身体を拭いて着替えてから脱衣所に出る習慣を。転倒しないよう、立ち上がる前に床や足裏についたシャンプーや石鹸の泡をよく洗い流すことも徹底してください」

65歳以上の不慮の事故による死因別死亡数と割合

 キッチンでの大敵は着衣着火と火災。

「コンロ奥に置きがちな収納ラックは、火を使っている最中に奥へ手を伸ばすことになり、服に火が移る危険が。コンロの奥には絶対に物を置かないでください」

 屋外では、横断歩道のない場所を渡ったり、赤信号で横断したりするシニア世代の危険行動が目立つ。

「歩行速度や聴力、視野が低下していることを自覚して、小学生のころに習った交通ルールをいま一度徹底してほしいです。後方から来る自転車や電動キックボードに気づかず接触する事故も増えているため、方向転換の際は振り返って目視確認をすることも大切です」

 最後に、浴室やトイレなど、家の中での閉じ込め事故にも注意が必要だ。

「万が一に備えて、スマホは常備を。周囲に上手に頼れる関係を持つことも大切な安全対策。一人で抱え込まず、日頃からSOSを出せる環境を整えましょう」 

 この機会に足元や生活習慣を見直し、思わぬ事故を減らしていこう。

うっかり事故から命を守る7か条

1「自分は大丈夫」と過信せず危機感を持つ
2「面倒くさい」の後回しが大きな事故を招く
3「もう年だから」と諦めず、できることから始める
4どんな事故や罠があるのか情報をアップデートする
5家族や近所と交流し、頼れる関係をつくっておく
6言い訳を探さず、毎日少しでも身体を動かす
7「こんな時どうする?」とシミュレーションする

場所別の注意ポイントをチェック!

「うっかり」「まさか」で死なないために! 当てはまったらすぐに見直しをしよう。

家の外・移動中 交通事故

□横断歩道のない場所を渡ったり、無理な横断をすることがある
□夜間の外出時、暗い色の服を着て歩いている
□後方を確認せずに、急に曲がったり立ち止まったりする
□最新の交通ルール(自転車の罰則強化やヘルメット着用など)を知らない
□自転車に乗る際、傘さし運転や無灯火、ブレーキの異音を放置している

 交通ルールの再確認を。特に自転車の交通ルールは近年大きく変わっているので注意。方向転換の際は必ず振り返って目視で確認をしよう。自転車も車両としての安全意識と定期点検が必要。

リビング・階段・廊下 転倒や転落

□ラグの端がめくれていたり、わずかな段差がある
□生活動線上に電気コードが通っている
□新聞紙やチラシ、カバン、買い物袋を床に置いている
□滑りやすい靴下やスリッパをはいている
□階段や廊下が暗くて足元が見えにくい

うっかり事故のイメージイラスト

 転倒の原因となる床の上の物は徹底的に排除を。床に物を置かない強制的な習慣として、ロボット掃除機の活用も有効。また、加齢とともに足は上がりにくくなるため、日頃からつま先を意識して上げて歩くことも忘れずに。

浴室・洗面所 入浴事故

□冬場、暖房のない冷え切った脱衣所・浴室で着替えている
□床や足の裏にシャンプー・石鹸の泡が残ったまま立ち上がる
□ドライヤーのコードを本体にきつく巻きつけて収納している
□ドアの取っ手や蝶番にガタつきがある
□冷たい脱衣所で身体を拭いている

 ヒートショック防止のため、プールバッグなどにタオルやバスローブを入れて浴室内に持ち込み、着替えてから脱衣所に出るのが新常識。また、閉じ込め事故に備え、お風呂場に笛を置いておくと安心。飲酒後や食事直後の入浴も控えて。

キッチン 火災

□コンロの奥や周辺に調味料ラックやお玉などを置いている
□鍋を火にかけたまま、その場を離れてしまうことがある
□調理中にひらひらした服や燃えやすい素材の服を着ている
□コンロのすぐ近くに油や布巾、キッチンペーパーを置いている
□コンセントプラグにホコリがたまっている

 着衣着火を防ぐため、コンロ奥に物を置くのは厳禁。タイマーの活用や、自動消火機能付きコンロ・IHへの切り替えの検討も。さらに見落としがちなのが、調理中に床へ落ちた水滴による滑り、転倒。足元の水滴はその都度サッと拭き取る習慣を。

国崎信江著『暮らしのうっかり事故を防ぐ本60歳過ぎたら死なないためにやるべきこと』(宝島社)

国崎信江さん 危機管理アドバイザー。女性や生活者としての視点から、防災・防犯・事故防止など身近に潜む危険と対策を発信。監修書『暮らしのうっかり事故を防ぐ本』(宝島社)では、より詳細な事故対策を豊富に紹介している。