“最後のドン”といわれる元自民党総務会長・笹川堯氏が上梓した『内憂外患 日本よどこへゆく』(青志社)が話題だ。“日本のドン”と呼ばれた笹川良一氏の次男でもある笹川氏は、経営者・政治家としての豊富な経験に基づいて、国内外のさまざまな課題について解決策を示している。
一方、発足から1年を迎えた高市早苗内閣は高支持率をキープしているが、人気にやや陰りも見え始めた。日本は正しい方向に進んでいるのか? 高市政権に任せて大丈夫なのか? 笹川氏に、思うところを聞いてみた。
皇室問題は「皇族の方々のご意見も聞くべき」
─「対立候補を支援した自治体の予算はカットした」との発言などが問題になった簗和生農林水産大臣が辞任しました。
簗さんは、まだ選挙民の信用が薄かったんでしょうね。今年2月の総選挙でも、選挙区では負けて比例復活した。それで腹立ちまぎれにあんな発言をしたんでしょう。とはいえ、失敗は誰にでもあります。大切なのは、失敗への向き合い方。政治家の出処進退を決めるのは政治家自身ですから、自ら決断されたことはよかったと思います。
─高市早苗首相の任命責任は。
それはあります。総理は閣僚の任命権者ですから。高市さんは当初、簗さんをかばった。大臣に選んだ以上、「一生懸命やってくれ」と言わざるを得なかったんでしょう。批判を受けたのは閣僚になる前の発言で、農林水産大臣として何か問題を起こしたわけではなかったし。ただ、野党に責め立てられて国会運営が止まったら、重要法案の審議が進まなくなる。そうなると、一閣僚の問題では済まなくなるから、ちょうど引き際だったと思います。
─簗前農林水産大臣は安倍派の裏金議員でもありました。
裏金議員の入閣に関する高市さんの姿勢は、選挙でみそぎを受けたから問題ない、ということなんでしょうね。国民の信を受けたからこそ当選した、受けていないなら落選している、という考え方。それも一理あると思います。選挙を経て、有権者の審判も受けたのに、いつまでも裏金議員はダメだ、と言い続けるのもよくない。前科のある人は永遠にダメなのかという議論と同じです。
─先の通常国会では皇室典範が改正されましたが、皇室についてのお考えは。
今や男女平等の世の中です。憲法もそう唱えています。それに「皇位は男系男子に限る」と定められたのは明治以降で、その前は8人の女性天皇がいました。ですから今後、女性天皇を認めてもよいと思います。ただ、過去に一例もない女系天皇はどうか。可能性は排除すべきではないけど、慎重に考えるべきでしょう。
─国民の中には「愛子天皇」を望む声もありました。
現時点では、愛子さまが天皇になる可能性はありません。悠仁さままでの皇位継承順位は決まっていますから。皇室の問題は、今後数十年かけてじっくり議論をしていけばいい。できればね、皇族の方々のご意見も聞くべきですよ。
物価高対策の一番の解決策は
消費税減税、定数是正……今度の臨時国会では、高市首相の前に多くの難題が待ち受けている。アメリカや中国との関係など、外交面でも難しいかじ取りが続く。
─今の臨時国会では、消費税の減税法案が焦点です。
私は消費税の減税より、現金給付をすべきだと思います。そもそも、食料品の消費税を8%から1%に下げる目的は何か? 食料品が値上がりする一方だから、政府が家計を助けましょうという話でしょ。それならば、物価高に最も苦しんでいる所得の低い方々に向けて、現金給付をするほうが効率的です。減税より即効性も高い。
減税の場合、1匹1万円もする鯛を買うような富裕層を優遇することになるし、税率を戻すのも大変。だけど物価高対策の一番の解決策は、今の円安を円高にもっていくことですよ。
─やはり為替は最重要ですか。
もちろん。円安になると、原材料を含む輸入品価格が値上がりして、さまざまな商品の価格を押し上げます。日本は輸入依存度が高いので、円安は物価高の要因になる。ですからこの円安を是正して、円高にするようにしなければ、物価は下がらないと思います。しかし、為替介入といった小手先の方策では、円高にするのは難しいでしょう。
─為替を安定させるための根本的な方策は。
やはり国力をつけることですよ。国力イコール生産力。つまりモノをつくる能力こそ、国力なんです。かつて日本の技術は世界をリードしていたけど、今はどんどん落ちている。それが円安という結果に反映されています。近頃の若い経営者の中には、モノづくりでなくM&Aで儲けている人もいますよね。賢いとは思うけど、そういうやり方では生産力がつかない。
─外交に目を向けると、高市首相の台湾有事発言以降、中国との関係が難しくなっています。
この前、前外務大臣の岩屋毅君が中国へ行った。あれは良かったと思います。あの国は面子を重んじるから、向こうからは絶対来ない。自分たちが覇権主義で軍拡してるのに、日本がちょっと防衛がらみの審議をすると、「軍国主義だ」と騒ぐ。
だけど、そこは大人になって、こちらから出向いて話し合うことです。動かなければ現状は変わらないんだから。茂木敏充外務大臣も行けばいい。
─トランプ米大統領と高市首相の関係については。
私は経営者としても政治家としても、何度もアメリカへ行ったけど、あの国はビジネスライクです。何事もサインが必要だし、お金で物事を解決するのが当たり前。日本と違って口約束は通用しないし、感謝とか信義とかはあまりないですよ。血を流して戦争に貢献すれば別だけど。トランプさんもビジネスマンだし、よく意見が変わるからね。
─高市首相がトランプ大統領に、「米朝首脳会談が行われた場合、金正恩総書記に日朝首脳会談に応じるよう伝えてほしい」と依頼したと報じられました。
北朝鮮の拉致事件は、もうかわいそうで眠れないですよ。これは歴代内閣の、いや全国民の引き継ぎ事項です。かつて、小泉純一郎元首相は5人の拉致被害者を「また北朝鮮へ戻す」と約束して日本へ帰国させた。でも結局戻さなかった。それで北朝鮮は怒ったけど、高市さんもあらゆる手段を尽くして、被害者の皆さんを取り戻してほしい。
─最後、高市首相にこれだけは言いたい、ということは。
高市さんは女性初の総理大臣。みんな期待しているし、私も期待しています。「日々これ新たなり」というように、毎日状況が変わるのが政治。特に現在は、私の新刊でも書いたように、課題が山積しています。ですから公約に過度にとらわれず、情勢をよく見ながら柔軟に仕事をすべきです。一内閣一仕事でいいんですよ。田中角栄さんは日中国交回復をやり、中曽根康弘さんは国鉄民営化をやりました。高市さんにも何かレガシーを残してほしい。
取材・文/栗原直樹 撮影/佐藤靖彦(笹川氏)

