日本野球界に大きなニュースが飛び込んできた。巨人の新監督に就任したのは、長年ファンが待ち望んできた松井秀喜氏だ。日米通算507本塁打のレジェンドは、どのようなチームづくりを目指すのか。
「私は指導者の経験はほぼありません。そこが私が12球団の監督の中で一番劣っている部分であると自覚しています。そのことを自覚し、選手とともに伴走し、一緒に成長したい」
10月23日の就任会見で、松井新監督は自身の課題と目指すチーム像をこう語った。
そんな松井氏の考え方を知る手がかりとなるのが、過去に上梓した2冊の自著だ。『不動心』(2007年・新潮社)と『エキストラ・イニングス 僕の野球論』(2015年・文藝春秋)には、理想のリーダー像や選手の心を動かすための考え方が記されている。
「怒る」ではなく「叱る」リーダー像
「『不動心』は、2006年5月に左手首を骨折し、長期離脱を余儀なくされた経験を出発点とする一冊です。『コントロールできること、できないこと』『努力できることが才能である』『思考で素質をおぎなう』といった考え方を紹介。人の心についても『絶対にコントロール不能なもの』と記し、相手の気持ちを思いどおりに変えることはできなくても、自分の行動によって相手の心を動かすことはできるという考え方を示しています。
松井監督のリーダー像が表れているのは、感情をぶつける『怒る』ではなく、本人の気づきを促す『叱る』という一線です。ミスそのものを責めて萎縮させるのではなく、『変えられない過去(失敗)』ではなく『変えられる未来(次の打席やプレー)』に選手の目を向けさせる。本人が課題を自覚し、自ら前を向いて改善に向かえるように背中を押す。この『不動心』に流れる育成方針は、新監督として若い選手たちを導くうえで大きな強みになるのではないでしょうか」(スポーツライター)
一方、『エキストラ・イニングス 僕の野球論』は、松井氏が引退後初めて刊行した著書だ。長嶋茂雄氏や落合博満氏、高橋由伸氏、イチロー氏、デレク・ジーター氏ら野球人について語るほか、大谷翔平選手の二刀流、メジャーリーグの移籍、スランプ脱出法、ヤンキースの規律、高校野球の連投問題など幅広いテーマを扱っている。
同書で特に手がかりとなるのが、ヤンキース1年目の2003年6月、打撃不振に陥った松井氏とトーリ監督のやり取りだ。トーリ監督は、結果が出ていなくても仕事ぶりには満足していると伝えたうえで、打席での立ち位置をホームベースに近づけるよう助言。その日、松井氏は二塁打3本と本塁打を放ったという。
「このエピソードから読み取れるのは、トーリ監督が結果だけで選手を評価せず、取り組む姿勢を認めながら、改善につながる具体的な助言をしたことです。不振の選手に結果ばかりを求めれば、焦りを強める可能性もあります。まず努力を認め、そのうえで修正点を伝える。選手の自信を支えながら、次の行動を促す接し方です。松井氏が監督として選手と向き合う際にも、こうした経験は参考になるはずです」(出版関係者)
長嶋氏との打撃練習では、素振りの際にボールを捉えるポイントで短い音を出し、その音を繰り返せるようになるまで練習したという。ここからも、ただ指示を出すのではなく、選手自身が感覚をつかみ、納得して身につけるまで導く指導のあり方がうかがえる。
OBが指摘する松井監督の“不安材料”
ネット上では、松井氏の監督像について、《選手の気持ちを大切にしながら、一人ひとりの力を引き出すチームになりそう》《名将から学んだ選手との接し方を、巨人でどう生かすのか気になります》《選手と一緒に成長するという言葉どおり、若手を育ててほしいです》といった声が聞かれる。
「巨人OBの髙橋尚成氏も、松井氏について『監督がすごく目線を下げて、選手に寄り添ってコミュニケーションを取っていくような、そんなチーム作りをするんじゃないかなと思う』と語り、トーリ監督から学んだ手法を取り入れるのでは、と推察しています。一方、巨人で松井監督とチームメイトだった野球解説者の広澤克実氏は、監督に必要なのは『勝負勘』だと指摘しつつ、それを養うには『ギャンブルを楽しむしかない』との持論を展開。実際、野村克也氏、星野仙一氏、長嶋氏、王貞治氏も麻雀好きであることを挙げ、不安材料があるとすれば、松井氏の真面目な性格を挙げています」(スポーツ紙記者)
選手の努力を認め、課題を伝え、自ら考えて成長できるように導く。2冊の著書から見える松井氏の考え方が、巨人のチームづくりにどう生かされるのか。
