『あしたのジョー』をはじめ、『おれは鉄兵』『のたり松太郎』などの名作を世に送り出し、日本の漫画界を牽引し続けてきた、ちばてつやさんが10月22日、87歳で旅立った。2024年には漫画家として初めて文化勲章を受章。名実ともに日本を代表する表現者として駆け抜けた生涯だった。
天皇、皇后両陛下へ直接「ありがとう」の想いを届けた
そんなちばさんが、心からの感謝と想いを寄せていたのが、天皇、皇后両陛下、そして愛子さまをはじめとする皇室の方々との絆だった。
ちばさんの原点には戦争体験がある。幼少期を過ごした旧満州で終戦を迎え、命からがら日本へ引き揚げてきた。その歩みの中で、皇室への感謝の念を噛みしめる瞬間が、2025年4月に開かれた「春の園遊会」で訪れていた。
翌日の自身のブログで、ちばさんは感激の面持ちでこう振り返っている。
《天皇陛下ご夫妻や、可愛い愛子さま、秋篠宮さまご夫妻たち 皇室の方々と、いろいろ くわしくマンガのお話ができて》
《終戦直後の話し、ワシが七歳で中国から命からがら帰国した時に 昭和天皇の皇后さまから、・・空腹で死にそうだった我々引き揚げ者たちに、真っ白いおにぎりを ひとり一つずつ、いただいたことのお礼を、79年ぶりに伝えられたことが、とっても有難かったです。ああ、しみじみ 86歳まで生きてきて よかったなーと》
飢えに苦しんでいたときに救ってくれた香淳皇后による慈愛。79年という歳月を経て、天皇、皇后両陛下へ直接「ありがとう」の想いを届けることができたという。
「公務で疲れたときに読むとリラックスできる」と天皇陛下
園遊会では、愛子さまとの心温まる“漫画談義”も話題になった。
愛子さまは、ちばさんに「『あしたのジョー』を読みました」「漫画を描くというのは、お話を作り、絵も描き、登場人物の衣装なども考えなければならず大変ですね」と、微笑みながらお話しになったという。
愛子さまの鋭い“作品への着眼点”に、ちばさんは「“コマ割りが素晴らしい”とか“間がとても素敵ですね”なんてことまでおっしゃり、優秀な編集者のようでビックリしてしまいました」と、報道陣を前に目を丸くしながら告白。
「演出を考えてやっていることを、すごく深読みされていて、ちょっとびっくりしましたけど、とても嬉しかったです」
と、愛子さまの真摯な読書ぶりに感激しきりだった。
ちばさんは、2024年11月の宮中茶会でも愛子さまと対面している。
その際、目が合った瞬間に「おおっ、ますますおキレイになって」と、思わず口にしてしまったそうで、「すると愛子さまは、照れくさそうに首を振っていらして、とてもかわいらしかった。1年の間に2度もお会いできるなんて、私はとてもラッキー」と、親しみと敬愛を込めて振り返っていた。
2013年秋の園遊会でも、ちばさんが「皇室の方も漫画を読まれるのですか?」と尋ねると、陛下(当時は皇太子さま)は「結構みんな、読んでいますよ」「公務で疲れたときに読むとリラックスできる」と気さくに明かされている。
陛下ご自身も『あしたのジョー』を読まれており、「医学だとか歴史だとかを、漫画が表現してくれるので、勉強になります」「日本の漫画やアニメーションが世界中で認められて、すごくいい文化に育ててくださいましたね」と、ちばさんらの功績を労われていた。
戦後のどん底から這い上がり、昭和、平成、令和と、ペン一本で人々に希望を灯し続けてきたちばさん。両陛下や愛子さまと笑顔で交わした言葉の数々は、ちばさんの晩年をひときわ明るく照らしたに違いない。
