鎮目博道(しずめ・ひろみち)/1969年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒。1992年、テレビ朝日入社。社会部記者の後、『スーパーJチャンネル』『スーパーモーニング』『報道ステーション』などのディレクター・ニュースデスクを経てプロデューサーに。ABEMAの立ち上げに参画し、『AbemaPrime』『Wの悲喜劇』などを企画・プロデュース。2019年に独立して「シーズメディア」代表に。全国の「顔ハメパネル」を巡るライフワークも

「戦争を経験した人から直接お話を聞けるのは、今がラストチャンス。だからこそ、形に残したかったんです」自身2冊目となる絵本『うんこのてんし』(絵・松本えつを/CHICORA BOOKS)を、10月10日に出版した鎮目博道(しずめ・ひろみち)さん。

 映像プロデューサーやライターとして活躍する鎮目さんが、なぜ子ども向け絵本を作ったのか。作品に込めた想いを聞いた。

父が体験した「奇跡の実話」を絵本に――戦争経験を語り継ぐ

 物語の舞台は、1945年の山梨・甲府。7月6日深夜から7月7日にかけて起きた『甲府空襲(たなばた空襲)』。防空壕に隠れていた少年が「うんこ」をしたくなって自宅に戻り、再び防空壕へ戻ると、そこは爆弾の直撃を受けていた……というストーリーだ。

――今回の絵本『うんこのてんし』は、鎮目さんのお父様の体験がもとになっている?

「そうなんです。この絵本を作ることになったきっかけは、私の息子が、生前の父から“甲府に疎開していた際、うんこがしたくなって防空壕を出たら、直後に防空壕が爆撃された”という話を聞いていた、というのを知ったこと。

 もし、父がうんこをしに家に戻らなければ父は亡くなっており、私も今ここにいないという不思議な気持ちになりました」

――鎮目さんご自身は、お父様からその話を聞いたことはなかった?

「ええ。私や弟も、その話を聞いたことがありませんでした。“なんで息子である僕らには言わなかったんだろう”と思ったのと同時に、いくら親しい間柄でも、戦争を経験した人は自分から進んで体験を語らないものなんだ、と痛感しました。

 だからこそ、戦争を経験した人たちが生きているうちに、ちゃんと話を聞いて、“何らかの形で残せたらいいな”と考えたんです」

子どもたちが自ら考えるきっかけになる絵本を

――子どもたちに戦争を伝えるにあたり、意識された点は?

「企画を進める中で、幼少期に戦争を題材にした作品を見たせいでトラウマになったという声を耳にしました。なので、怖い話にするのではなく、“うんこの話だよ”とアプローチすることにしました。

 小学生で、特に男の子は、うんこの話が大好きじゃないですか(笑)。気軽に読み始めたら、実は戦争の話で、子どもたちが自然と戦争について考えられる。そんな本を目指して、残酷な描写があまり出てこない、かわいい絵で読みやすい絵本にしました」

――いちばんこだわったポイントは?

「子どもたちに“面白そうだな”と自主的に読んでもらったうえで“なんで戦争ってやるんだろう?”という疑問を自分で考えてほしい、ということ。テレビのニュースで戦争の映像を見ても、子どもには現実味がない感じに映ることもあると思うんです。でも、自分のおじいちゃん、ひいおじいちゃん世代は日本で戦争を経験している。

 テレビに映っている海外の戦争では、自分と同世代の子どもが亡くなっているかもしれない。子どもたちが現実味を持ってニュースを見るようになってほしい、という思いを込めました。

 大事なのは、戦争を経験した人の話を聞いて、怖さを“自分事”にすること。戦争は“やらなきゃ誰も死なないのに、なんでやるのか”という原因を考えることでしか、防げない気がするんです。この2つのメッセージが、絵本を通して伝わればいいなと思っています」

――作画を担当された松本さんの絵にも、こだわりが詰まっている?

「そうなんです。白に塗った木板に、水彩やアクリル絵の具で下絵を描き、それを撮影してパソコンのソフトに取り込んだ後、デジタル上で重ね描きをして仕上げるという、アナログ絵画とデジタル制作を融合させた技法を用いています。

 その結果、温かみがあり、どこか懐かしい雰囲気を出しつつ、キャラクターは可愛らしく仕上がりました。子どもが夢中になって読んでくれるよう、かなり凝った作画をしてくださいました」

――出版してからの反響は?

「絵本を制作するにあたって、甲府で暮らす親戚やその知り合いに話を聞いたんです。甲府空襲では、町の約7割が焼けて1,000人以上が亡くなったのですが、メディアなどで取り上げられる機会は、ほとんどないんです。

 そのため、地元の方からは“甲府空襲のことが絵本に残ってうれしい”と言っていただきました。実際に空襲を経験された方に喜んでいただけて、作ってよかったと強く実感しました」

テレビプロデューサーから絵本作家へ

――長年、テレビ業界で番組制作に携わってきた鎮目さんが、なぜ絵本を?

「テレビ局で働いていた時代は、ニュース番組を中心に担当していました。しかし、いくらテレビや配信で戦争について取り上げても、若い人たちにはなかなか伝わらないという悩みを抱えていました。若者や子どもに向けてメッセージを伝えることに限界を感じていたんです。そんなとき、絵本作家の松本えつをさんと出会って、意気投合しました。

 “一緒に絵本を作りませんか?”と私からお声がけして、メディアリテラシーをテーマにした1作目『それウソかもよ? うちゅうじんがやってきた! のまき』を出版しました。絵本だったら子どもに読んでもらえるんじゃないか、伝わるのではないかという想いで制作しました」

鎮目博道(しずめ・ひろみち)/1969年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒。1992年、テレビ朝日入社。社会部記者の後、『スーパーJチャンネル』『スーパーモーニング』『報道ステーション』などのディレクター・ニュースデスクを経てプロデューサーに。ABEMAの立ち上げに参画し、『AbemaPrime』『Wの悲喜劇』などを企画・プロデュース。2019年に独立して「シーズメディア」代表に。全国の「顔ハメパネル」を巡るライフワークも

――映像と絵本では、制作過程で異なる部分も多い?

「限られたページ数の中で、どういう絵を描いて、そこにどれくらい文章を乗せると読みやすいのか。対象年齢によって、漢字はどれくらい使えるか。

 表現の噛みくだき方も含めて、想像していた以上に時間がかかりましたね。試行錯誤を繰り返して、最初のパイロット版から何度も作り直したので、制作期間は1年ほど。映像制作とは違った大変さがありました」

――次回作の構想も?

「松本さんとは“3作目はどうしようか”と話しています。基本的には“子どもに今いちばん将来のために知っておいてほしいことシリーズ”だと思っているので、子どもに考えてほしい、伝わりやすいテーマを模索しているところです」

絵本制作で感じた喜び

――今後の目標と、クリエイターとしての夢は?

「私は、これまでテレビ番組を作ってきましたが、番組を見ている人の反応は、あまり見たことがなかったんですよね。自分が作ったものは、たくさんの人に届いているはずなんだけど、視聴者はどんな顔をしているのか全然わからないっていう、不思議な仕事なんです。

 だから、絵本を作ってみて、子どもに“読んでみて”と手渡すと、面白そうな顔をしたり、つまらなさそうにしたり、笑ったりという、すぐに反応がわかるのがすごく面白かったんです。受け手の反応が、すぐにわかる仕事はやりがいがあると思いました。

 人前で話をする講演会もさせていただくこともありますが、“届く人数は少なくても、目の前の人に直接伝えられるもの”をクリエイターとして今後作っていきたいと思っています」

――最後に、子どもたちの保護者にメッセージを。

「今は、時代の変化が大きすぎて、現実に絶望したり、戸惑ったりする大人も多いと思います。だからこそ、これからの時代を作っていく子どもたちに、ちゃんと考えてもらいたいんです。

 大人にできることは、子どもにいろんなことを伝えて、ちゃんと考えてもらう機会を作ること。子どもに何を伝えられるか、何を残せるかということを、変化の大きい時代だからこそ一緒に考えてほしいですね」

鎮目博道(しずめ・ひろみち)/1969年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒。1992年、テレビ朝日入社。社会部記者の後、『スーパーJチャンネル』『スーパーモーニング』『報道ステーション』などのディレクター・ニュースデスクを経てプロデューサーに。ABEMAの立ち上げに参画し、『AbemaPrime』『Wの悲喜劇』などを企画・プロデュース。2019年に独立して「シーズメディア」代表に。全国の「顔ハメパネル」を巡るライフワークも
鎮目博道(しずめ・ひろみち)
1969年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒。1992年、テレビ朝日入社。社会部記者の後、『スーパーJチャンネル』『スーパーモーニング』『報道ステーション』などのディレクター・ニュースデスクを経てプロデューサーに。ABEMAの立ち上げに参画し、『AbemaPrime』『Wの悲喜劇』などを企画・プロデュース。2019年に独立して「シーズメディア」代表に。全国の「顔ハメパネル」を巡るライフワークも