子ザルのパンチくん(写真/読者提供)

 2026年の「新語・流行語大賞」にノミネートされ、祝福の声が広がっている市川市動植物園のニホンザル・パンチくん。母親代わりのぬいぐるみを抱く姿で世界的人気者となった一方、ほかのサルとの関係をめぐる騒動や来園者による迷惑行為など、注目度の高まりとともに思わぬトラブルにも見舞われてきた。

 サル山の再開を経て、群れの一員として成長を続けるパンチくんのこれまでを振り返る――。

平坦ではなかった世界的人気者への道

 千葉県の市川市動植物園で暮らすニホンザルのパンチくんが、11月5日に発表された「2026 T&D保険グループ新語・流行語大賞」のノミネート30語に選ばれた。

 オランウータンのぬいぐるみを母親代わりに抱きしめる姿で世界的な人気者となったパンチくん。SNSでは《パンチくんおめでとう!》《パンチくんの存在が世間に認められてうれしい!》など、祝福の声が相次いでいる。だが、その道のりは決して平坦ではなかった。

 パンチくんが生まれたのは2025年7月26日。母ザルが育児をしなかったことから、飼育員による人工哺育が始まった。母親代わりとして与えられたのが、IKEA(イケア)のオランウータンのぬいぐるみ。通称「オランママ」にしがみつきながら歩く愛らしい姿は、やがてパンチくんのトレードマークとなった。

 2026年1月19日には、約60頭が暮らすサル山の群れに合流。2月上旬に動物園の公式Xで紹介されると、ぬいぐるみを抱えながらほかのサルとの関係を築こうとする姿が瞬く間に拡散された。海外メディアも相次いで報道し、世界中から声援が集まることに。IKEAにも反響が広がり、同社からはぬいぐるみ33体が動物園に寄贈された。

ほかのサルに引きずられるパンチくんを見て、3800万円での買取を求めた元キックボクサー(トリスタン・テイト氏のXより)

 その一方で、人気の急上昇は思わぬ騒動も招く。2月19日には、ほかのサルに引きずられる動画が拡散され、パンチくんを心配する声が国内外から殺到。翌20日、動物園は公式に声明を発表した。

 さらに3月10日にも改めて説明し、ニホンザルの群れにおける社会的な行動であり、人間による虐待とは異なるとの見解を示している。

「こうした動画に心配の声が広がる中、元キックボクサーで海外インフルエンサーのトリスタン・テイト氏が25万ドル(当時約3800万円)での買い取り希望をXに投稿。もちろん、動物園が売却に応じたわけではありませんが、この投稿は500万回以上のインプレッションを記録。パンチくんを心配する声は海外にも広がり、思わぬ形でその知名度を示す出来事となりました」(動物ジャーナリスト)

 パンチくんをめぐってのトラブルはこれだけではない。飼育員を装った偽アカウントがパンチくんへの寄付を募る詐欺が発生し、動物園が注意喚起する事態に。

 5月17日には、パンチくんを目当てに来園した米国籍の男性2人がサル山に侵入し、威力業務妨害容疑で逮捕されている。こうした状況を受け、動物園はYouTuberなどから寄せられていた撮影依頼についても、当面の受け付けを保留する対応を取ったのだ。

サル山再開、群れの一員として歩む現在

 その後も来園者の観覧マナーをめぐる問題は続き、6月24日にはサル山にレーザーポインターを照射する動画がYouTubeに投稿されていたことが判明。

 9月からはサル山の工事に伴い観覧を休止。当初の予定から延長されたものの、10月21日にようやく再開を迎えた。撮影エリアの整理券制や観覧時間の制限など、動物たちの生活環境に配慮した新たなルールも導入されている。こうして今年1年間を振り返ってもパンチくんの環境は目まぐるしく変化していったことがわかる。

IKEAジャパンからパンチくんに贈呈されたぬいぐるみの数々(市川市公式Xより)

 かつてはぬいぐるみを抱えて過ごしていたパンチくんも、今ではほかのサルと遊んだり、毛繕いをしたりと、群れの中で過ごす時間が増えている。一部の取材に対し、動物園側は来年以降も群れになじむための挑戦は続くと説明した。

「人工哺育で育ったニホンザルが群れに入るには、ほかの個体との関係を一から築いていく必要があります。パンチくんの場合も、ぬいぐるみが安心できる存在だった一方で、群れの中で過ごす経験を重ねることが重要でした。

 人気が出たことで来園者が増えたのは喜ばしいことですが、何より優先されるべきなのは動物たちの生活環境です。パンチくんだけでなく、群れ全体を温かく見守ってほしいですね」(前出・動物ジャーナリスト)

 母親代わりのぬいぐるみとともに歩み始めた小さな子ザルは、いまや世界中から成長を見守られる存在に。流行語大賞へのノミネートは、そんなパンチくんが多くの人に愛されてきた1年を象徴する出来事といえそうだ。