おぎ・なおき ●1947年生まれ。早稲田大学卒業後、私立高校、公立中学校の教師として22年間ユニークな教育を実践。現在、教育評論家、法政大学教職課程センター長・教授、臨床教育研究所「虹」所長として講演やメディア、CMに出演。『尾木ママの「叱らない」子育て論』など著書多数。
おぎ・なおき ●1947年生まれ。早稲田大学卒業後、私立高校、公立中学校の教師として22年間ユニークな教育を実践。現在、教育評論家、法政大学教職課程センター長・教授、臨床教育研究所「虹」所長として講演やメディア、CMに出演。『尾木ママの「叱らない」子育て論』など著書多数。

■自立を妨げる仲よし親子の実態

 10代の子どもを持つ親から、日々たくさんの相談を受けるという“尾木ママ”こと教育評論家の尾木直樹さん。思春期を迎えた子どもの反抗に戸惑いを感じ、途方に暮れる親は多いものですが、それは自立への第一歩であり、喜ばしい現象なのだそうです。

「ところが、このごろ反抗期がない子どもが増加中です。いくつになっても親とラブラブ、“私たちは仲よし親子です”と誇らしげな親が、多数派になりつつあるの。実はこれ、とてもこわいことなんですよ

 反抗期がないということは、自立への一歩が踏み出せないということ。思春期を過ぎて反抗がおさまり、その後に仲よし親子になるのならともかく、ずっと仲よし、ずっと親にとっていい子という関係は、とても危ういものなのです。

 尾木さんの最新著書『親子共依存』では、信じられないような親子の密着ぶり、頼り、頼られすぎの実例が数多く書かれています。特に顕著なもののひとつが、思春期を過ぎても異性の親とお風呂に入るというケース。

「中学2年生の男子の2割が、いまだに母親と一緒にお風呂に入っているというデータがあります。でも、お風呂というのは最もプライベートな空間で、性的な特徴も見えてしまうもの。“同性であっても一緒に入るのはどうかな?”と疑問に思ってほしいですね

 子どもの自立の4つの柱は、性的自立、社会的自立、精神的自立、経済的自立。“一緒にお風呂に入る”という行為は性的自立を妨げるものであり、子どもの性を尊重していないことにつながります。すると、自他の性の尊重や性的アイデンティティーの認識が歪(ゆが)む可能性もあります。

「日本が児童ポルノに甘いのも、子どもの性を尊重していないから。自分の子どもであっても、一個人として見なすべきなんです」

 また大学教授でもある尾木さんは、親にスマホで指示を仰ぐ学生がここ数年で増えてきていることに気がついたといいます。

ランチのメニュー選びから就活セミナー会場への行き方まで、親にLINEで答えをもらっているんです。そもそも今の大学ってすごいんですよ。入学式には親や祖父母がドーンと来るし、どの授業を選択するかを申し込む、履修届にまで口を出す。さらには授業参観をすれば、廊下にまで人があふれるほど親御さんが駆けつけ、息子の発表に親が質問するなんていうことも。これでは精神的自立が果たせませんよね」

 仲よきことは美しきかな——。しかし、やはり過剰なまでの仲のよさは、本のタイトルどおり“共依存”としか思えません。

■共依存の後ろには不確かな社会がある

 共依存の親子関係が生まれた背景には、複合的な原因があります。

「劇的に変わったのは東日本大震災以後。不確かな世の中で、家族の絆(きずな)はよくも悪くもより深まりました。また、女子高生がスマホにつながっている時間は1日平均7時間という調査結果があるのですが、これは仲がいいからではなく、お互いいつ悪口を言われるか、仲間はずれにされないか不安だから。その点、親は絶対に裏切らない存在なので、子は親を頼るしか拠(よ)り所がなくなっているんですね」

 そのほかにも、就職難で子が巣立つことができず依存が高まったり、親自身も自立しておらず、子どもに“自分がいなければダメ”と伝え続けたり……。

「世界中の親が子の自立を望んでいるのに、日本の多くの親が学歴をつけることや、大企業への就職に夢中になってしまい、自立という課題をないがしろにしています。親はいつまでも子どもを守れないので、結局、不幸になるのは子どもです。また自立できない大人が増えたら、日本という国の競争力も衰えてしまいます」

 いまは昔のような地域の目もないので、親が自分の異常さに気づく機会も少なくなりました

「子どもと離れない親って、“毒親”と呼ばれる明らかによくない親よりも、実は悪影響かもしれません。何が起こっても“仲よしだからいいじゃない”という結論に、陥りやすいからです。ただ、危機感を持ってこの本を読んだ親御さんは、たとえその時点で共依存だとしても、自覚して改善してくださる方がほとんどです」

 誰だって、親になるのは人生で初めてですから、完璧はありえません。

「私自身も子育てで失敗したことはあります。でも、大切なのは過ちを認め、子どもに謝り、正しい方向に修正すること。生きるのに難しい世の中ですが、互いを尊重し、親子それぞれが自立した関係が、ベストではないでしょうか」

 もしあなたが、子どもについこと細かに指示してしまっていたり、べったり甘やかしているなら、一気にではなく徐々に距離を取っていくのがポイント、と尾木さん。子どもからの問いかけへの答えは“相談に乗る”にとどめ、決定は子どもにゆだねるのです。

 子どもに反抗された覚えがない、子どもがいい子すぎる、子どもが生きがいだ──これらに当てはまるならば、本書がアナタを救う手助けになるかもしれません。

(取材・文/中尾巴)

『親子共依存』尾木直樹著 780円 ポプラ社
『親子共依存』尾木直樹著 780円 ポプラ社