「残念な夫」を作り出す産後クライシス問題について、産後女性の心と身体の健康をサポートする『NPO法人マドレボニータ』のインストラクター・吉田紫磨子さんに取材しました。

■母性に頼る男性が多い

「結婚当初から夫に対する“残念!”が積もり、産後クライシスで爆発。私の体感では、ほぼ100%の夫婦がこのパターンです。原因は、まず赤ちゃんの世話は男性も女性も同じく初心者なのに、母性に頼る男性が多いこと。女性側は母性を信じすぎてしまい“母親だから頑張らなければ”という気持ちで無理をしすぎてしまいます」

 里帰り出産がいまだ根づいている影響も大きい。

「里帰り出産は、子どもが生まれていちばん大変な最初の1か月を夫婦別々に過ごすことになります。2人で乗り越えるべき大事な時間にバラバラでいると、その延長で“夫の仕事に響くから”と寝室が別々になる夫婦も多い。夜の授乳や抱っこの大変さすら共有できないまま育児を進めていくことになります」

 夫に遠慮をし、言葉をのみ込みがちになるのも大きな原因のひとつだという。

「夫に自分の気持ちを伝えられない。だから“夫にわかってもらえない”という残念感や不満が積もって、産後クライシスになります」

 産後、妻と夫の間にできる大きな溝——。どうすれば埋められるのか?

「自分の思いを素直に口にして、夫婦でシェアする機会を持っていくこと。それが産後クライシスから脱却する近道だと思っています」

 しかし、妻が育児に関する会話をすると、不機嫌で返す夫も多い……。

「男性は育児に関する言葉を持っていません。女性のように、友達と集まっても育児や家族の話をする男性は少ないですね。つまり発する場がないからいつまでたっても言葉を持てないのです。これは考える機会を持たないのと同じ。妊娠や出産を機に、生き方を考え直さざるをえない女性とすれ違うのは当たり前。理解し合えない部分を夫婦で話し合い、調整していくことが大切なんです」

■無意識に刷り込まれてきたもの

 夫が“残念!”に陥るのは、夫個人の資質とは別のところにも原因があると吉田さん。

「“家事・育児は女の仕事”という概念は、無意識に刷り込まれてきたもの。夫たちに悪気はないのです。国際的に見て男女平等が進んで出生率も上がっているスウェーデンも、男女平等が根づくのに30年かかったといわれています」

 会社でも上司が変わらないと部下は変わらない。子どもが生まれたばかりの部下に「飲みに行こう」と、帰り際に声をかける上司がいる限り、妻の残念感はなくならない。

「個人、会社が変わり、社会が変わる。草の根活動ですが、私たちの活動が、まずは個人への働きかけになればと思っています」

イラスト/すぎうら ゆう
イラスト/すぎうら ゆう

【この人に聞きました】

吉田紫磨子さん/NPO法人マドレボニータのインストラクター。4児の母で、長女出産後に産後うつになり、苦しんだ経験から現職に就き活躍中。