今や予備軍を含め65歳以上の4人に1人は認知症といわれる時代。先日、認知症で闘病中であることが明らかになった大山のぶ代さんの症状は他人事ではない。対処方法は人それぞれだが、認知症患者に接するための基本中の基本は同じ。3人の専門医が解説する。
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■まず、肝に銘じておくべき3か条

 とにかく、まず認知症について正しい理解をすることが何よりも重要だと言うのは川崎幸クリニックの杉山孝博院長。

「認知症だからといって、その人は何もできない、感情がなくなった、なんてことはまったくありません」

 と前置きし、こう続ける。

「覚えておくことは、“認知症でもたくさんできることはある。ただ、ミスが増え動作が遅くなることもある”ということです。接する際は、①本人の記憶になければ事実ではない、②本人の思ったことは絶対的事実である、③本人にはプライドがある、という3点を肝に銘じてください」

■得意なことをやらせて褒める。バカにするのはタブー

 杉山院長は、進行を遅らせるためにも、「本人の感情や興味に合わせて相性がいいことをやらせてあげるべき」と、自主性を尊重するよう呼びかける。

「長年慣れ親しんできたことや本人の好きなことをさせ、成功すれば褒めたり、相手を認めてあげること。反対に“どうしてこんなことできないの”と怒鳴ったりバカにしたりするのはタブーですよ」

 子どものころ覚えた童謡を歌う、自転車に乗る、長年、裁縫をやってきた人は針仕事ができるなど、認知症が進行しても忘れないことも多い。

 たかせクリニックの高瀬義昌院長も、

「五感や六感に訴える趣味をやらせるのがいいと思います。うまくいったときには、“すごい”“おかげで助かったよ”と心からの言葉をかけること。表彰状をあげたり、プレゼントをするのも有効」

 と患者を気分よくさせてあげることの重要性を説く。

 武里病院の大野智之院長も同意見で、

「重要なのは怒らないことと“何でできないの”“いつも忘れて”“さっき言ったでしょ”などと言わないこと。何を怒られたかは忘れても、気分が悪くなったことはよく覚えていますから。正論を言うと、そのときは気持ちがいいですが、後からツケがまわってきます。相手に合わせ、うまく役者になって接してみてください」

 とアドバイスする。

■新しいことは覚えられない

 逆にできないことは「新しいことは絶対に覚えられなくなっていきます」という大野院長。

「連続する動作、複雑な動きはできなくなるので、料理や車の運転は難しい。家族が火事を心配してIHコンロにしても、使い方がのみ込めない」

 大山のぶ代さんも得意だった料理ができなくなり、洗い物をするときに洗剤をつけ忘れるなどの症状が出ているという。

■ドクター選びも大切

 患者のクオリティー・オブ・ライフを常に優先するという高瀬院長は、

「ドクター選びは大切だと思います。家庭レベルで医療機関にむやみに薬を求めないことから始めていってください。1日に15種類27錠を飲んでいた寝たきりの女性が、薬を5種類7錠に変更したら、数日後には歩けるようになり、暴言や暴力もおさまったという実例もあります」

〈プロフィール〉

◎武里病院(埼玉)・大野智之院長

「医療・看護・介護の視点から認知症へのトータルケアを実践する」という理念のもと多くの認知症患者を治療。

◎たかせクリニック(東京)・高瀬義昌院長

在宅療養支援の第一人者として朝から晩まで訪問診療に精を出す。認知症患者を地域で見守る環境作りにも尽力。

◎川崎幸クリニック(神奈川)・杉山孝博院長

思いやりのある手厚い医療サービスに定評があり、遠方からの患者さんも多い。認知症に関する著書も多数出版。