11月にかけて国民ひとりひとりに“マイナンバー”の記載された通知が届けられる。果たして個人情報はどのように管理されるのだろうか?

20151013mynumberhonbun (31)

 改正法で決まったのは「予防接種歴」や、全自治体で実施する「特定健康診査」、いわゆる“メタボ健診”への個人番号のひも付けだ。これらの情報から保健指導を行い、医療費抑制に努めるというのが建前だ。

 『共通番号・カードの廃止をめざす市民連絡会』の白石孝さんとともに『共通番号の危険な使われ方』を著した神奈川県保険医協会・事務局主幹の知念哲さんは、強い懸念を抱く。

「メタボ健診は、がんや糖尿病などの生活習慣病の前段階にあたるメタボ状態を発見し、改善指導して発病を予防するとの政策です。ところが、もし成人病になってメタボ健診を受けていないのがマイナンバーで判明したら“自己責任です”とされてしまい、治療に必要な公的補助が受けられないことも想定されます」(知念さん)

 さらに知念さんが恐れるのが、個人番号カードと健康保険証を一体化させようという政府の方針だ。

「一体化されたら、健康保険番号の読み取り機を医療機関の受付に設置しなければなりません。それは、市町村や協会けんぽなどの保険者とオンラインでの常時接続を意味します。となるとマイナンバーは患者のレセプト(診療報酬請求)やカルテ情報を収めた医事コンピューターと連携し、どんな病気をどこで治療したかが明るみになります。

 人によっては、(難病や精神疾患、HIVなど)隠したい病歴もあります。でも、それらの情報は産業界では“お宝情報”。不正アクセスや内部からの情報漏洩は、おそらくある。すると、その個人に製薬会社や食品会社が群がり、就職・結婚差別が起こるかもしれません」(知念さん)

 日本医師会は政府案に猛反対しているため、同一化はまだ検討中であるが「油断できない」(知念さん)。

 健康保険証との同一化は政府がどうしてもやりたいことだ。前述のとおり個人番号カードの所有は任意。だが、健康保険証と同一化されると、私たちはカードを持たざるをえなくなる。

 さらに知念さんが懸念する情報漏洩は、国民背番号制を施行しているアメリカや韓国では「メチャクチャだ」(白石さん)。両国では毎年、不正アクセスや内部からの情報漏洩が実際に起きている。

「日本でも昨年、通信教育を手がけるベネッセコーポレーションの関連社員が金目的で900万件の個人情報を流しました。マイナンバーに基本4情報や預金、医療情報、クレジットカードなどがひも付けされるとその情報は垂涎の的。絶対に狙われる」(白石さん)

 個人番号カードに格納されるICチップには、自治体が独自の機能を入れていいことになっている。

 例えば、千葉県千葉市は「図書館カードや公立病院の診察券などの機能をもたせ、市民からマイナンバーがあってよかったと言われるものを作ります」(総務局情報経営部業務改革推進課)と、システム設計に前向きだ。学生証や社員証の機能をもたせようとする自治体もある。

 また、IT総合戦略本部は、戸籍事務や介護情報などへのひも付けも検討。今後、カードが多機能化すれば、誰もが当たり前に所有するかもしれない。

 だが、白石さんが「恐ろしい」と主張するのが、改正法の付帯決議で「生体認証の導入」が決まったことだ。具体的には、指紋や虹彩、顔情報をカードに入れる。それを、例えば東京オリンピックでの入場時に照合して「テロリストではない」ことを確認する。

「ロードマップ案を見ると、マイナンバーの目的にテロ対策が加わったことがわかります。さらに、生体情報という究極の個人情報を国が管理する。これは人権侵害です」(白石さん)

 この杞憂は白石さんだけのものではない。8月28日、参議院議員会館で開催された『共通番号全国交流討論集会』で登壇した水永誠二弁護士は、「マイナンバーで社会保障の推進はウソ。高齢者への詐欺は必ず起こるし、私たちは個人情報を国に利活用され、監視されるだけ」と訴えた。

 人格権に基づき、マイナンバーの利用差し止めを求める裁判を全国7か所で起こす予定があると明らかにしている。マイナンバーは必要なのか? 個人番号カードの所有は任意だ。内閣官房に問い合わせても「カードがなくても役所での手続きは従来どおりにできる」のだ。では誰が得をするのか?

 マイナンバーの‘14年度・‘15年度の政府予算は2000億円超。マイナンバー運用のため、自治体は国と常時オンライン接続するが、システム構築の予算は、その2000億円超からあてがわれる。

 一方、同じようにシステム構築しなければならない法人は全額を自前で整備しなければならない。組織の規模にもよるが、百万円単位や千万円単位の費用がIT業者の言い値になるのは間違いない。

 すなわち、ちょっとしたITバブルが起こる。さらに生体情報や健康保険証情報などが加われば、ビジネス利用に拍車がかかる。これもアベノミクスの成果とされるのだろうか。

 白石さんは訴える。

「マイナンバーは、不要かつ危険な制度です。国や政府、自分の自治体に意見を上げて世論が盛り上がれば、運用の見直しにもつながります。国民的な運動にしていきたい」