「健さんはよく“筆まめ”と言われましたけども、僕はそうだろうか、と思います。彼にとって、自分の思いを表現するにあたって一番よかったのが、一番しっくりくるものが手紙だったんだと思うんです。大変だったと思いますよ。手紙には、スタイルと丁寧さと礼儀がいるわけじゃないですか。どんなに文章を書いている人間だったとしても、あらためて手紙を書くというのはしんどいんですよ」

 そう話すのは’96 年から’14 年に他界するまでの18年間、高倉健さんと手紙のやりとりをしていた近藤勝重氏。毎日新聞客員編集委員を務めるほか、ラジオにも出演。早稲田大学講師としても学生たちにジャーナリズムを教えている。

「便箋は真っ白で上質なもの。ワープロで打たれた文で、そこに凛とした直筆の黒い自署とスタイルは一貫していますね。“文の庭”と言いますか一種、京都の石庭のような、白い砂に石がポッと置いてある。手紙というよりも作品をいただいたというか、そういう印象を持っていました」

 そんな近藤氏の手元には手紙のほかに年賀状、封書など合わせて50通ほどが保管されているという。その中から手紙を厳選、健さんと触れ合った18年間をまとめた著書『健さんからの手紙 何を求める風の中ゆく』(幻冬舎刊)が2月4日に発売される。

20150217 takakura ken (10) B
健さんの”筆友”近藤重勝氏の著作は、2月4日に発売される

 始まりは『サンデー毎日』編集長として、健さんにインタビュー取材をお願いするために筆をとった近藤氏。学生時代より俳優・高倉健に憧れ、主演映画をむさぼるほどに鑑賞。セリフをソラで言えるほどの“健さん狂”である。そんな思いを込めて丸1日を費やした手紙に、大スターの心が動いたのだ。

 ところが同時期、近藤氏は胃がん宣告を受ける。治療に専念するために編集長を辞職。結局、健さんとの対面もかなわなくなってしまった。しかし、その後も続いた2人の手紙のやりとり。次第に健さんの心も開かれていったのか、

《実は、僕はおしゃべりなんです。他人前に出ると急に無口になりますが、仲間内では、どうしてそんなに疲れないのかといわれるくらい饒舌です。もうこれ以上ヒーローは演じられません》

 “無口な健さん”からの意外な告白が綴られたことも。

「無口ではないですね。言葉の使い手ですよ。言葉の持っている意味を演技で生かそうとするには、饒舌よりも無口が伝わるというのが健さんの考え方なんです。実際は陽気だし、語彙も豊富で本当に面白いこと言いますよ。ただ誰に対してもよくしゃべるのではなくて、同僚や仲間らに対してでしょうね」