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 今井雅之さんのライフワークともいえる舞台『THE WINDS OF GOD』で、今井さんの代役を務めた重松隆志。今井さんとの思い出を振り返ってくれた。ふたりの出会いは’05 年にさかのぼる。

「友人に紹介してもらったのがきっかけでした。その年の『THE WINDS OF GOD』を見に行った後に楽屋に挨拶に行ったんですが、僕を見た第一声は“こいつ誰?”って。怖かったですよ。ほどなくして友人も交えて飲みに行く段取りになったんですが、ルールがあったんです。

 “今井さんより先に帰らない”“誘われたら絶対に断らない”というものでした。忠実にその2つを守っていたら、気に入ってもらえたんでしょうね。その後もたびたび食事に誘ってもらえるようになったんです」

 数か月後『THE WINDS OF GOD』の正式メンバーとして直々に指名され、そこからはプライベートだけでなく仕事のうえでも関わりを持つようになる。

 とはいえ、芸能界に星の数ほどいる俳優の中で、なぜ彼が今回、主演の代役に抜擢されたのだろうか。

「実は、’09 年から今年までずっと『THE WINDS OF GOD』の稽古では僕が代役をやっていたんです。なぜなら、今井さんが作・演出・主演だから、稽古のときは演出家の立場で指導をしないといけなかった。

 だから、今井さんの動きを完全にコピーした影武者が必要だったんです。お客さんには1度も見せたことはありませんでしたが、動きは完璧に覚えていましたよ。だから、今回も“シゲ、お前ならこの役の重みやツラさがわかるよな”ってことで代役を任せてもらえたんだと思います」

 そう考えると、彼にしか代役は務まらなかったのかもしれない。電話でこのことを伝えられたときは跳び上がるほどうれしかったそうだが、それは同時に悲しい知らせでもあった。

「初めは“どうも体調が悪いから、東京公演の1日だけ代役をやってほしい”と言われたんです。でも4月2日に“やっぱり無理そうだから全公演お前がやってくれ”ってもう1度電話がありました。

 そのときに病気のことや状況を詳しく聞いたんですが、電話口で今井さんがボロ泣きしているんですよ。10年くらいお付き合いしてきましたけど、あんな様子は初めてでした。電話の最後に“もし奇跡が起きるなら、沖縄公演の3分だけでいいから俺を舞台に立たせてほしい”と言っていたので、本当に沖縄への思いは特別だったんでしょうね」

 4月中旬から始まった稽古にも今井さんは毎日、顔を出してくれた。しかし、複雑な思いもあったという。

「1日ごとに容体が悪くなっていくのが目に見えてわかるんですよ。だから、どこかで奇跡を信じながらも、覚悟をしないといけないという日々でした。元気だったころとのあまりの変化に僕らも目を合わせられなかった。稽古中も意識が朦朧としているときがあったんですが、ふとわれに返ると“シゲ、そこは違う。もっと顔を上げないと見えないから”と精いっぱい声を張り上げて指導してくれました」

 師匠が役者魂を捧げた『THE WINDS OF GOD』は、今後どうなっていくのだろうか。

「今井さんが遺してくれた作品だから、やれるものならぜひやりたいですよね。舞台の名作って語り継がれていくものじゃないですか。だから、次はほかの方が主演をやられても全然いいと思うんです。僕は全力で応援したいですし。今井さんとこれからも関わっていけると思うと、うれしくてしょうがないですから」