日本女子サッカー・なでしこジャパンを率いてきたレジェンド・澤穂希選手が、8月8日に入籍したことを受けて、日本のメディアが湧いた。しかし、情報番組などでのアスリートとメディアの距離感にフィフィは疑問を持っていた。日本におけるプロスポーツ選手の扱い方、そしてスポーツを取り巻く環境について、来たる東京五輪を見据えながら、その問題点を指摘していく。


 今回の澤選手の結婚報道を見ていて改めて痛感したのは、日本のメディアってプロのアスリートに対して本当に失礼だな、ということ。選手に対する敬意が見受けられない。

 テレビのコメンテーターとかインタビュアーを見ていても、なぜスポーツの本筋から外れた、馬鹿げた質問ばかりするのだろうと思ってしまう。「よく結婚できましたね」ということを遠回しにした発言や、テレビのコーナーとかもありましたね。

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 だいたいね、質問やコメントする側も専門家ではなく、多くの場合がバラエティータレントさんだったりするでしょ。海外ではまずそんなことはあり得ない。選手たちはプロなわけだから、きちんとした専門家が、経験知に基づいた専門的な質問をするわけです。

 でも日本のテレビ番組とかでは、スポーツ選手をバラエティータレントと同じように扱って、いじったりするでしょ。つまり、タレントとアスリートとの区別がしっかりできていないんだよ。だから、ときとして海外からきたスポーツ選手たちを怒らせてしまったりするわけ。記憶に新しいところでは、クリスティアーノ・ロナウドやメッシが日本のマスコミに対して困惑していたようにね。

 なぜ、プロのアスリートたちがタレントのように扱われてしまうのか。その一因として、日本におけるスポーツ環境のあり方が挙げられると思う。

 日本のスポーツの良いところとして、体育教育が良いという点が挙げられるよね。みんなが一通り万遍なく、さまざまなスポーツをすることができるという。だけど、問題はその道のプロを目指してスポーツに集中できる環境が少ない。そして、プロとして活躍した選手が引退した後のサポートも手薄で、充分に稼いでいけないわけです。現役を引退したあとに、スポーツ業界に残って満足に食べていけていける人はごく一部です。

 だから、たとえにわかファンでもいいから、とにかくお金を落としてもらわなくては困る。それぞれの協会を維持していくためにも、お金は必要だからね。そうすると、テレビ番組の構成も、専門的なことではなく、目線を下げて、視聴率を上げること、数字をとることを狙いがちになってしまう。そうするとスポーツ選手たちも、ファンとお金を集めるために、タレントのように振る舞うことを求められ、専門外のことも多くやらなくてはならないという、おかしなことになるわけ。なでしこジャパンのときもそうだったけど、第一線で活躍するアスリートの多くは数字がとれるものだから、あらゆるテレビ番組から引っ張りだこで、いじられていますよね。

日本のスポーツに対するお金の使い道は大丈夫?

 新国立競技場の建設費の問題もありましたけど、まず政府が本当にお金を使うべき場所は、スポーツに携わるアスリートたちの環境そのものです。これは東京でのオリンピックを控えた今、早急に考えなくてはならない問題です。

 先日、プロロードレーサーの狩野智也選手からお話を伺う機会があって。そのとき彼は、自分たちの自転車競技にも、後継者やスポーツ人口を増やすために、お金を使って欲しいと訴えていました。というのも、オリンピックにおいて、そのホスト国は、枠を競い合うことなく、無条件に出場することができるので、マイナーなスポーツをやっている選手たちがアピールするチャンスなんです。それなのに、練習する場所がない、強化に使えるお金がないという状況では、せっかくの出場枠も活かしきれず、良い成績を残してアピールし、その競技の後継者やスポーツ人口を増やせるチャンスを逃してしまうことになる。

 政府のスポーツへのお金の振り分け方ひとつとってもそうだし、視聴率ばかりを優先して敬意を払わない日本メディアのあり方。こういったものが改善されていかないと、いつまでたっても日本のスポーツ界の各種目で選手強化が後手に回るし、アスリートたちの環境が守られないままだと思いますよ。

《構成・文/岸沙織》