朝ドラのヒロインたちが2期連続で口ずさんだ『The Water Is Wide』。昔からあるこの曲に日本語詞をつけた『広い河の岸辺』が異例のヒットを記録している。中高年を中心に“希望の歌”として支持されるそのワケとは? 歌い手のクミコと、訳詞を手がけた“やぎりん”が楽曲に込めた思いを明かしてくれた─

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ケーナ奏者で訳詞を手掛けた八木さん

「『花子とアン』が終わった後、今度は『マッサン』でも流れてきてビックリしました。主人公がスコットランド出身とは知っていたけど、まさかまったく同じ曲が流れることはないだろうと思っていましたから。だけど、こういった偶然があるんですね」

 と、語るのは『紅白』出場経験もある歌手のクミコ。人気朝ドラ『花子とアン』と『マッサン』の両方で流れたのは『The Water Is Wide』という曲で、彼女は今、その日本語バージョンを歌っている。

「『花子とアン』ではまず、スコット先生が歌って花子が英語に興味を持つきっかけになります。その後、大人になった花子にスコット先生が『赤毛のアン』の原書を渡す場面でも、ふたりが一緒に歌いました。『マッサン』ではエリーが数回歌っています。マッサンと鴨居商店の大将がともにウイスキーづくりに励んでいこうと決意する局面で流れました」(音楽ライター)

 熱心な朝ドラファンなら、“あぁ、あの曲か”とピンと来たはず。ゆったりとした哀歓あふれるメロディーに日本語詞をつけた歌が『広い河の岸辺』で、昨年末のオリコンチャート演歌・歌謡曲部門で1位を記録するなど、ジワジワとヒットしている。

 もっとも、この日本語版は朝ドラがきっかけで生まれたわけではない。訳詞を手がけたケーナ奏者の“やぎりん”こと八木倫明さんは、次のように語る。

「10年前にそれまで勤めていたオーケストラの広報の仕事をやめました。その後も音楽関連の仕事をしていましたが、’10 年になって音楽家一本でやっていこうと独立したとき、何かCDを作りたいと思ったんです」

 当時、一緒に組んでいた人がハープの弾き語りをしており、この曲がピッタリなのではとひらめいたそうだ。

「その時点でYouTubeでの動画数が1万件もあり、世界中でビートルズやカーペンターズの有名曲と同じくらい支持されていることがわかりました。これをちゃんと訳して出せば、日本人の愛唱歌になると確信したんです」

 原曲はやぎりんいわく、「345年前の1670年ごろに生まれたスコットランド民謡」で、イギリスに支配される民衆の嘆きと、開拓地に渡った彼らのささやかな希望が託されているという。

「訳詞したとき、定職もなく失業保険も切れてお先真っ暗。9歳の息子もいましたが、定収入のない専業音楽家をめざすという無責任な道を選ぼうとしていました。先が見えないながらも、なんとか前に進んでいきたいという状況で、《ふたりの舟は沈みかける》は、まさに自分のことだと思ったんです」