紅白が生まれた日
 現在も毎年放送されているNHKの超長寿番組『紅白歌合戦』の前身となったラジオ放送『紅白音楽試合』。

 この番組放送に秘められたさまざまなエピソードをドラマにしたのが『紅白が生まれた日』だ。創作部分も交えているが、膨大な資料をもとに、当時を知る人への取材も重ねて制作。

 調査から脚本の完成までに8か月。撮影も通常の1.5倍の日数を費やしたというから、かなりの気合が感じられる。難易度が高い高画質4Kでの制作も、新たな挑戦となっている。

 “幻の紅白”の異名を取る『紅白音楽試合』は、GHQの検閲が厳しい中で企画。松山ケンイチ演じるディレクターの新藤達也は、番組名を『紅白音楽試合』でなく、最初から『紅白歌合戦』と考えていた。

「ところが“戦争が終わったのに合戦とは何事か”とGHQが却下したのです。そこでバトルではなく、マッチの意味の“試合”を採用したというわけです」(三鬼一希プロデューサー)

 男女を紅白の組に分けて競い合うという形式も、新藤によるアイデア。

「戦後に叫ばれた“男女平等”の精神を、いち早く反映したのです。今の日本人には当たり前になっていますが、男女に分かれて競うのは画期的なものでした。70年たった今でも、世界では珍しいスタイルと驚かれているようです」(三鬼P)

 自局の番組の誕生秘話、先輩の物語をドラマにすることを三鬼プロデューサーは“こそばゆい”と笑うが、当時の資料を調べれば調べるほど、興味深い真実に触れることができたという。

「当時の放送をひと言でいうなら“希望”です。終戦後、昨日までの自分とさよならして、明日に向かって生きようとする人々の気持ちの背中を少しでも押したのが、『紅白』だったのではと思っています。本作は1夜限りの放送ですが、見た後にちょっぴり元気になって明日への希望を感じていただけたらと思います」(三鬼P)