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 心臓の筋肉がどんどん硬くなる難病「拘束型心筋症」。治療法は見つかっていない。そんな難病におかされてしまったのが、1歳7か月の佳代ちゃん。助かる道は、事実上、海外での心臓移植しかない。

「娘はアンパンマンが大好きなんです。ナースステーションでアニメを見せてもらってからハマったみたいで、アンパンマンの歌に合わせて一緒に踊るんです。てんどんまんの♪テンテン、ドンドンというリズムに乗ったり。歌って踊るのが本当に好きで……」

 難病と闘う千葉県流山市の金澤佳代ちゃん(1歳7か月)の母・亜矢子さん(38)は、つかの間、笑顔を取り戻してそう話した。隣で父・輝宏さん(38)の目が赤くなった。

 佳代ちゃんを襲ったのは難病指定されている「拘束型心筋症」。心臓の大きさや動きは正常なのに、心室が硬くなって広がりにくくなり、やがて心不全などを引き起こして死に至る怖い病気だ。罹患率は50万人に1人という。

「先生(医師)の説明では、自力で完治することはない。治療法も薬もない。助かる方法は心臓移植しかないという。最初に聞いたときはあまりにショックで、内容がまったく頭に入りませんでした。冷静になってからもう1度説明してもらいました」(輝宏さん)

 東京女子医大の主治医が両親に説明したところによると、乳幼児の1年以内の生存率は約50%。急変しやすく、いったん病状が悪化するとリスクが大きくなる。

 さらに、いつ、何がきっかけで病状が悪化するかわからない。つまり佳代ちゃんの命は今も脅かされているということ。両親に示された選択肢は2つ。

「天命と思って対症療法を続ける」

「心臓移植をする」

 主治医は「ただし……」とつけ加えた。

「移植を決断する場合、相当な覚悟が必要だ。これまでの日常を捨てることになる。2人でどうにかできる話ではない。時間もない。すべてをのみ込んだうえでそれでも移植を望むのか、よく考えてほしい」

 国内では、乳幼児を含む子どもの臓器移植の道は事実上閉ざされている。15歳未満の脳死ドナー(臓器提供者)は認められておらず、子どものからだに合う心臓や肺の提供が見込めないからだ。

 米国など海外で臓器移植を受けるしか手段はない。しかし、莫大な手術費や渡航費がかかる。佳代ちゃんのケースでは2億4500万円が必要だ。会社勤めの両親にそんな余裕はない。両親は話し合った。答えは同じだった。

「これが佳代の運命だとは思えない。あとどれくらい生きられるかわからないけど見守っていこう、と納得するなんて無理だ。助かる道があるならばなんとかしてやりたい、と決断しました」と輝宏さん。

 2人は職場で知り合い’05 年に結婚。’13 年9月30日、佳代ちゃんは生まれた。2521グラムの小さなからだ。出生前の検査で心臓病があることが判明し、生まれたその日に肺静脈と心臓をつなぐ緊急手術を受けた。佳代ちゃんはそれを乗り越えた。

「初めて抱っこしたのは生後1か月以上たってから。うれしかったです。子どもを産んで、目の前に子どもがいるのに抱っこできないのはつらかった。看護師さんに“いつ抱っこできますか?”と何度も聞いていました。見た目が小さいので軽いことは想像していたけれど、やっと抱っこできた感触は特別でした」 (亜矢子さん)

 術後の経過は順調だった。輝宏さんは、生まれる前から心臓病を抱えた愛娘のために健康運のいい画数を選んで名前を決めた。命名本を買い、インターネットでも調べ、ときに混乱しながらもできるだけ健康運がいいように。

 ほかの子に比べれば発達はやや遅い。しかし、亜矢子さんは「生きる力はすごく感じる」と話す。

「からだは小さくて体力もないのに何にでも果敢に取り組むんです。目ヂカラがあって意志が強い。薄いピンク色が好きで、ピンクのお皿はつかんで離さない。白いお皿には見向きもしない。ピンクのお皿でご飯を食べる練習をしています」(亜矢子さん)