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 NHKの行ったアンケート調査で、“最も好きな大河ドラマ”として今なおファンの心をつかんで離さない『独眼竜政宗』。

 その脚本を担当したジェームス三木先生が語る、本来の“大河ドラマの魅力”とは。最高視聴率47・8%、歴代ナンバーワンの平均視聴率39・7%の傑作はどうやって生まれたのか?

「‘85 年に放送した朝の連ドラ『澪つくし』の大ヒットを受けて、『独眼竜政宗』の脚本依頼が舞い込んできた。僕は当初、石田三成を題材とした大河ドラマを提案したんだけど、「伊達政宗でお願いします」と頼まれて、しかたなく山岡荘八さんの原作を読み始めた(笑い)」

 原作を読み始め、ヒットの予感を感じたという。

「ところが、読み始めると、政宗という人物がこれまでの大河には出てこないような悪漢気質を持つ主人公であることに気がついた。弟は殺害する、独眼というコンプレックスを持っている、目的のために父を見殺しにする……そういう人物像に魅せられて“これは面白くなるぞ”と予感した」

 脚本を作る上で、大切にしていることがあるそうだ。

「僕はドラマの脚本作りには、ジレンマが大切だと思っている。劣等感と欲望、嫉妬と愛情、挫折と成功、相反する感情がぶつかるからこそ人間として“味”がにじみ出てくる。視聴者はそういう部分に感情移入をして目が離せなくなる」

 実は、それまで視聴者のことを多分に意識して脚本を書いたことはなかったと語る。

「でも、『澪つくし』の反響を受けて、“テレビってすごいな”って痛感したんですよ。映画や舞台って暗い館内の中で集中して見ることができる舞台装置だけど、テレビというのは“ながら見”が当たり前だし、なにより明るい場所で見るでしょう。しかも何百、何千万という人が同時に見ている。以来、テレビの脚本を書くときは、ジレンマを軸に置いて、“見やすさ”と“わかりやすさ”をより心がけるようになったんです」

 三木さんが脚本を引き受けた当時、大河ドラマ存続の危機だった。

「しかもあのときは、『徳川家康』(‘83 年)を最後に3年連続で近代路線シリーズを放送していて、時代劇としての大河ドラマ存続の危機だった。視聴率がふるわなくて、NHK内でも“日曜8時の大河枠は終わるかもしれない”とまことしやかに言われていたらしくてね。4年ぶりに本格時代劇路線に戻ることで捲土重来を期していた。にもかかわらず、NHKは当時新人だった渡辺謙さんを抜擢するなど野心的かつ挑戦的だった。そういう攻める姿勢が、僕の脚本もさることながら、役者やスタッフなど全体の士気を高める結果につながったんだと思う」

 現在も視聴率が振るわず大河ドラマ存続の危機とも言われているが、三木さんはこう語る。

「最近の大河ドラマは低調だと耳にしますが、54年も続いていれば山も谷もあるのは当然。『独眼竜政宗』のときだって“大河は死なず!”と証明できたわけですから、僕は心配していない。NHKには長年培われてきたノウハウと英知があるんですから」