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日本年金機構(東京都杉並区)は1日、個人情報の一部が流出したと発表。

 同機構によると、今回流出した個人情報は約125万件。最も多いパターンは「基礎年金番号と氏名、生年月日」の組み合わせで約116万7000件、「基礎年金番号と氏名、生年月日、住所」が約5万2000件、「基礎年金番号と氏名」が約3万1000件となっている。被害はさらに増える可能性がある。

 年金にかかわる個人情報の大量流出で、どのような被害を受けることになるのか。

 流出情報で最も懸念されるのは「基礎年金番号と氏名、生年月日、住所」と4つの情報がそろっているものだ。名簿化されてさまざまな業者の手に渡る危険性がある。

 一定の年齢になると、その年代で必要な商品カタログなどがダイレクトメール(DM)で送られてくることがある。それだけならまだいい。名前と住所がわかれば、電話番号案内などで自宅の固定電話の番号がわかる場合がある。

 名簿業者の実態に詳しい調査会社『オハラ調査事務所』の小原誠所長は、高齢者の個人情報が悪用されることを心配する。

「高齢者のうち、金銭面で余裕がありそうなマンション・別荘所有者やデパート外商のお得意さま、馬主、ゴルフ会員権所有者のリストなどは高値がつく。住所がわかれば現地まで行かなくても、グーグルマップを使って豪邸かどうかぐらいはすぐわかってしまいます。高齢者はオレオレ詐欺などにだまされやすい。流出情報の中には、認知症の方もいるかもしれません。必要のない高額商品を売りつける悪徳訪問販売業者などが1度目をつけたら、何度でも搾取されてしまう」(小原所長)

 最初はバラバラの情報でも、居住地域や年齢、誕生日などでまとめたり、情報源を隠すためほかの名簿をまぜて加工されることもあるという。

 悪徳商法に詳しいジャーナリストは「インチキ宗教の勧誘に使われかねない」と話す。

「勧誘する側からすれば、個人資産の少ない若者よりも、老後の蓄えがある高齢者のほうが“お布施”額は大きくなりますからね。パートナーが先に亡くなったりすると、怪しい“救いの言葉”にすがりたくなるんです。あるいは長生きできたときのお金が心配だからと、マルチ商法にハマることもある。健康食品や老人ホームの案内、お墓などのしつこい迷惑DMが届く可能性もある」

 日本年金機構はホームページで、個人情報の流出について「お客様の年金を守ることをお約束します」と宣言。被害者の基礎年金番号を変更するとしている。

「番号変更には3か月かかるという。本来、番号と氏名と生年月日の3つの情報があれば住所変更はできる。なりすましの第三者がニセの新住所で年金記録などを入手するかもしれない。機構は、流出者の住所変更時には本人確認を徹底するとしているが、絶対安心とは言えない」(全国紙社会部記者)

 ちなみに振り込み口座の変更には銀行の証明印や年金種別を示す年金コードが必要。年金相談時には写真つきの身分証明書で本人確認しているというが「偽造身分証を使われたらアウト」(同記者)だ。

 また、個人情報流出が発表された1日以降、全国で不審な電話が相次いでいる。

 国民生活センターによると、今回の情報流出に関連して不審な勧誘があったとする相談件数は、5日午後5時までに全国の消費生活センターに22件あった。

北陸地方の女性宅には「あなたの年金情報が流出している。ほかにも流出しているかもしれないので詳しく教えてほしい」と電話があった。女性が「書面で送って」と伝えると電話が切れた。

 北関東の70代女性宅には、「年金情報の流出で、空き巣が入りやすくなっている。流出した年金情報を無料で削除することができる」と電話があった。女性は怪しいと思って電話を切ったという。同センターは、

「公的機関が、個人情報を削除してあげると電話してくることは絶対にない。話を少しでも聞いてしまうと、相手のペースに巻き込まれる危険性がある。次から次へと業者が登場し、最終的にはお金をだまし取られる」(相談情報部)

 と注意を促す。同機構は「電話やメールで連絡をしたり、金銭を求めることは絶対にない」としている。

 不審な電話やメール、訪問があったときは、できるだけひとりで対応せず相手の名前、所属、用件を聞き、家族と相談すること、また怪しいと感じたら、現金振り込みをしないように呼びかけている。

 消費者庁も注意喚起する。

「昨年7月に通信教育大手『ベネッセ』の顧客情報が大量流出したとき、“流出した個人情報を削除する”と持ちかける詐欺が発生。このような電話があったら詐欺ですので、相手にせず、すぐに電話を切ってください」(広報室)

 便乗犯を含め、犯罪集団に格好の材料を提供してしまったことは間違いない。

<ジャーナリスト・渋井哲也+編集部取材班>