「私もスナックの常連だったのですが、まさか彼が保険金殺人をやっていたとはねぇ」

 と、近所の男性は当時を振り返った。

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「取材をするなら金を出せ!」。八木死刑囚はとことんがめつかった

 ’99年7月、埼玉県本庄市で、保険金殺人疑惑が持ち上がり、金融業・八木茂死刑囚の周辺がにわかに騒がしくなった。同死刑囚がオーナーを務めていたカラオケスナックと居酒屋には彼が逮捕されるまでの約8か月間、連日のように多数のマスコミが押しかけ、異例の有料会見が行われた。その回数はゆうに200回を超えた。テレビのワイドショーにも出演した。

 翌年3月、彼と愛人関係にあった3人の女性、すなわち武まゆみ(当時32)、森田考子(同38)、アナリエ・サトウ・カワムラ(同34)が公正証書原本不実記載の容疑で逮捕された。容疑はのちに詐欺、殺人、殺人未遂に切り替わった。

 その中身はこうだ。

 森田考子とアナリエ・サトウ・カワムラは、八木死刑囚の指示で偽装結婚し、夫に多額の保険金をかけた。アナリエは前夫に毒物のトリカブトを飲ませたうえで、利根川で水死させ約3億円の保険金を得ている。続いて当時の夫を薬物依存症に。かけていた保険金は約9億円だった。

 森田考子は、夫に風邪薬と酒を一緒に飲ませて急死させ、約1億7000万円の保険金を取得している。八木死刑囚の周辺ではこのほかにも8人について、合計約24億円にものぼる保険金がかけられていた。

 こうしたすべての犯行の主犯が八木死刑囚で、残る愛人の武まゆみも犯行をサポートする構図だった。彼女が口を割ったことで全貌が明らかになった。

「八木死刑囚は、年がいった独身男性、しかもスナックのツケや金を貸しつけている男性を狙って、愛人と偽装結婚させ、殺そうとした。保険金をだまし取るためにね」

 と前出の近所の男性。

 武まゆみは無期懲役、森田考子は懲役12年、アナリエ・サトウ・カワムラは懲役15年の判決を受けた。

 一方、八木死刑囚は2件の殺人と1件の殺人未遂で’08年、最高裁で死刑が確定した。しかし、「女性たちの証言は警察に誘導されたもの」などと冤罪を主張。この再審請求即時抗告について東京高裁は7月31日、再審を認めない決定を下したばかり。

 事件の現場周辺は一変した。八木死刑囚が経営していた金融店舗と居酒屋は更地だった。

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一時は有料記者会見場になったスナック。現在は倉庫がわりに

「スナックは逮捕後、しばらくして閉店。いまは買い取った不動産店が倉庫として利用しているようです」

 と近所の住人。

 八木死刑囚宅は空き家状態。

「母屋の隣に増設された2階には一時、フィリピン人女性が5人ぐらい住んでいたけれど、事件の後いなくなった。子ども2人はすでに独立しているし、ひとりで住んでいた奥さんはずっと人工透析を受けていましたが、4、5年前に病気で亡くなりました」

 と近所の主婦は話す。複数の愛人との犯行劇が暴かれていくのを、夫人はどんな思いで見ていたのだろうか。

「奥さんは、八木死刑囚が逮捕されたあとも、取り乱すことなく淡々と暮らしていた。グチることもありませんでした。ただ、葬儀は家族だけで行われました」(近所の男性)

 加害者家族の苦しみなどを聞くため、八木死刑囚の息子と連絡をとった。父親の犯行をどう思っているのか。

「いや、僕はまったく関係ないんで、すいませんが、切ります」

 と電話を切られてしまった。