「ぷるぷる~♪」と菜々緒演じる乙姫が、魅惑的なダンスで桐谷健太演じる浦島太郎を誘惑するauのCMを見たことがある人も多いのでは? 

 ちなみにこのCM、浦島太郎の横には濱田岳演じる金太郎と、主役である松田翔太演じる桃太郎が鎮座している。

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 一方、競合他社のソフトバンクも、”どんぶらこ~”と流れてきた桃をおばあさんがドスルーし、桃が鬼ヶ島で鬼メッタ刺しにされるシュールな「桃太郎ストーリー」を展開。PEPSIのCMでは、小栗旬演じる桃太郎がハリウッド映画さながらのアクションシーンを披露し、カッコいい仕上がりになっている。

 最近、なにかとCMで見かける機会が多い日本昔話の有名人・桃太郎。携帯業界に至っては、2社も桃太郎をテーマに制作しているが、なぜ、ここまで桃太郎が起用されることが多いのだろうか。

「不景気の影響で、スポンサーがCM制作費を抑えているからですよ」と語るのはCM制作会社のスタッフ。

 ワンピースなど、誰しもが知っているアニメをテーマに制作したいというのが本音だそうだが、そうなると著作権が発生し、権利会社に金銭が発生する。制作費の平均は約3000万円と言われており、現在、そこまで余力がある企業は数少ないのが現状だ。

「アニメのストーリーをもとにしてに俳優さんをキャスティングしてCM制作をしているのは、ドラえもんをテーマに妻夫木聡がのび太を演じ、前田敦子がしずかちゃんを演じている世界に名だたるトヨタのみ。ドラえもん役に至っては、あのハリウッドスターのジャン・レノを起用できるほどの潤沢な資金を持ち合わせています」(前出・CM制作会社スタッフ)

 しかし、なぜ、ここまで桃太郎が愛されるのか。その理由は、桃太郎は老若男女問わず、万人受けするヒーローだからだという。

「日本人であれば、誰しもが幼い頃から慣れ親しんでいます。なので、「桃太郎=勧善懲悪」というストーリーのイメージが共通認識としてあるので、CM内で無駄な説明が不必要でストーリー展開がしやすい。また、CMがどんな構成になろうが、誰が演じようが、最後には桃太郎という基盤がCMを救ってくれる、ある意味保証つきのテッパンヒーローなので、安心かつ使いやすいんです」(前出・CM制作会社スタッフ)

 テレビ局がオリジナルの脚本をつくって制作するドラマより、固定ファンがすでについており、数字が見込める漫画や小説を原作としたドラマ制作が優先されるのと同じ方式。

 オリジナルのストーリーでイチからCMを制作するのは、この不景気の世の中では、果たして無謀なことなのだろうか。CM制作会社スタッフは首を横に振る。

「ローカルとはいえ、オリジナルCMを制作するのが上手いのは関西です。東京に比べ、制作資金が少ないにも関わらず、話題になるCMを次から次へと世に送り出しています」(前出・CM制作会社スタッフ)

 改めて関西のご当地CMをおさらいしてみると、「ピアノ売って頂戴!」のタケモトピアノや、「あさひ~あさひ~♪」のあさひ美容外科など、現在もロングランオンエア中のものばかり。

「制作費がなければ、アイデアで勝負するのが関西。昔からそのスタンスは変わっていません。近年では遊園施設『ひらかたパーク』のCMが人気ですね。大阪府枚方出身の岡田准一がキャラクターである“ひらパー兄さん”を演じ、関西弁を披露するエッジのあるCMで、岡田くんの本来のキャラが出ていると話題です」(前出・CM制作会社関係者)

 桃太郎に頼っているということは、まだまだアイデアが足りないということなのかもしれない。

《取材・文/中西美穂》