安保関連法(以下、安保法)は9月30日に公布され、来年3月末までに施行される。多くの憲法学者が「違憲」と断じたこの法律は、憲法のどの条文にどのタイミングで違反することになるのか。

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 名古屋学院大学の飯島滋明准教授(憲法学・平和学)は「成立させた時点で憲法前文や9条に違反しています」として次のように根拠を話す。

「前文では『政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し』とされています。9条では『戦争』『武力の行使』『交戦権』が放棄、否定されています。安保法は世界じゅうでの武力行使、戦争を可能にする戦争法です」

 世界に誇る“戦争放棄の国”は暴走首相にねじ曲げられた。解釈改憲の悪影響は何か。

「憲法が『国の最高法規』(97条)であり、首相や大臣、国会議員は憲法に従わなければならない(99条)という考え方、つまり『立憲主義』という考え方がゆがめられました。安倍自公政権が、憲法をどのようにでも解釈・運用できるという前例をつくったため、この先、同様の手法をつかう政府が出てくるかもしれません」(飯島准教授)

 徴兵制は、憲法18条で禁じられた苦役にあたるというのが歴代政府の解釈だった。

 飯島准教授は、「野中広務さんや古賀誠さん、加藤紘一さんら元自民党幹事長、元防衛官僚の小池清彦さんが危惧するように“徴兵制は憲法違反でない”という解釈改憲がなされ、実際に徴兵制という事態が生じるおそれがあります」と話す。

 手続き論としても、憲法を変えたいのであれば憲法96条に従い、主権者である国民の意思を問うべきという。

 一方、政府は、衆参で200時間の審議を尽くし、公述人の意見も聞いたとしている。

「重要なのは時間ではなく、どのような審議がされたかです。首相や防衛相の国会答弁は二転、三転し、法の必要性や内容を適切に答えられないような生煮えの法案でした。9月16日に横浜で地方公聴会が開かれましたが、その報告書が参院特別委に提出されていないのに、同委は強行採決しました。“良識の府”といわれる参議院の看板が泣きます」と飯島准教授。

 これだけメチャクチャなやり方ゆえに、違憲訴訟が乱発されることが予想されている。

「年内に提起される予定のようです。安保法は憲法違反という点では、元最高裁長官や圧倒的多数の法律家、憲法学者の見解は一致しています。ただ、最高裁が憲法違反と判決を下す度胸があるかは疑問。内閣は最高裁長官を指名し、その他の最高裁裁判官を任命します。自民党政権が長く続いてきたため、自民党の政策に近い人物が多く送り込まれています」(飯島准教授)

 最高裁が、憲法違反とされる法律や国家行為を「合憲」と判断し、お墨つきを与えることも少なくなかったという。

「本来は“憲法の番人”として、安保法に憲法違反の判決を下すべきなんですが……」(飯島准教授)