東日本大震災に伴い発生した東京電力福島第一原発の事故から4年8か月が過ぎた。1号機、3号機、2号機と相次いでメルトダウンを起こし、撒き散らされた放射能は大地を汚し、水や食べ物を汚し、そこで暮らす人々の暮らしを一変させた。今なお10万人以上が避難生活を余儀なくされるなか、停止中の原発を再稼働させようとする動きが活発化している。

「まだ福島事故は収束していません」

 『さようなら原発1000万人署名市民の会』をはじめ、さまざまな脱原発運動の呼びかけ人を務めるジャーナリストの鎌田慧さんは、そうキッパリと言い切る。

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「汚染水漏れや、廃炉をどうするのかといった問題があるだけでなく、原発は心配で困る、不安だという多くの人たちの声に頓着しないで動かそうとしているのが大きな問題です。ちっとも“アンダーコントロール”ではないのに、九州電力川内原発1号機を動かして、続いて2号機、さらに四国電力伊方原発も再稼働させようとしている。なりふりかまわずやるということに強い憤りを感じています」

 各メディアの世論調査では、原発の“即時停止”を望む人は過半数超。“段階的に停止”を合わせると、脱原発を支持する人たちが圧倒的に多い。そうした民意に耳を貸さず、強引に推し進める現政権のやり方は「きわめて独裁的」で、安保法の成立過程にも通じると指摘。

「戦争法案に対しても、あれだけ反対意見があっても既定方針どおり、アメリカの言いなりにやった。原発も同じ。反対の声が地に満ちていても、原発の周辺自治体がもっと慎重にと苦言しても、それでもやる。議会を多数占めているからできるわけで、今の日本政治の非民主主義的なところがよく表れています」

 安全でコストパフォーマンスにすぐれ、環境にやさしいクリーンなエネルギー─。そんな原発神話は3・11を境に崩壊した。ひとたび重大事故が起きれば制御が難しく、その影響は長期間かつ広範囲に及ぶ。

「福島原発事故の処理費用は11兆円規模に膨らむ見通しです。それも税金と電気料金という国民負担により、一企業にすぎない東電の保障をしています。環境への影響については、今月に入り、隅田川などでセシウムが検出されたと東京新聞が報じたことからも言うに及ばず。神話の根拠はすべて覆されています」

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先月4日に報道関係者に公開された福島第一原発の構内。左が2号機建屋、右は3号機

 にもかかわらず、原発を動かす理由を鎌田さんは次のように分析する。

「電力会社は、すでに設備投資した分を回収して儲けたい、今年度の赤字を回避したいという目先の利益のため。儲けるといっても惰性です。原発を動かすと、当面はコストの安い電力ができるというだけ。将来のことは全然考えていません。

 かたや電力会社を保障する政府は、いざとなれば核兵器を作れる能力を保持するという、言わば国威発揚のため。原発を輸出したいとの狙いもあります。三菱、東芝、IHI、日立、日本製鋼……、これら原発メーカーは兵器メーカーでもある。アベノミクスに乗じてどちらも海外へ売り込みたいのでしょう」

 原発事故から何ら教訓を得ることなく、目先の利益や富国強兵と、安全な暮らしとを天秤にかけられてはたまったものではない。

「再稼働なんかやめて、どう電力を安定していくかという方向に切り替えなければならないのに、そうしない。脱原発へ舵を切ったドイツとは対照的です。ドイツはシリア難民の受け入れにも積極的ですが、それは人権を第一に考えるという人間に対する基本的な考えが前提にあるから。日本では首相をはじめ難民は迷惑だという意識が強い。だけど福島で発生したのは避難民、要は難民なんです」

 自宅はあるが警戒区域のため入れないという人、事故から5年近くたつのに、今も家族バラバラに暮らしている人……。原発事故で故郷を追われ、各地をさまよい、落ち着かない暮らしを強いられている“難民”は確かに大勢いる。

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8月11日に新規制基準下で初の再稼働となった川内原発1号機の前で反対デモを行う住民

「畑を耕したり、漁をしたり、近所付き合いもあった庶民の生活が根こそぎ破壊されてしまった。

 また、原発事故が直接の原因ではないけれど、病院から移動する間に亡くなるとか、仮設住宅での慣れない暮らしで寿命を縮めた、いわゆる『震災関連死』も1200人を超えています。原発事故がなければ死なずにすんだ人たちです」

 子どもたちへの影響も見過ごせない。今月8日、都内の外国人特派員協会で会見した岡山大学の津田敏秀教授は福島県の子どもたちの間で甲状腺がんが過剰発生しており、今後も多発は避けがたい状況だと指摘。「不要な被ばくを避ける手段がまったくとられていない」と、国や福島県の姿勢を批判した。

 一方で県は、「現時点では原発事故の影響とは考えにくい」として、スクリーニング検査で治療の必要がないがんまで見つける「過剰診断」の可能性を強調している。

「異常を訴えている人に対して過剰反応だと言うのは、水俣病でも、イタイイタイ病でもあったこと。いずれも事故の原因がわかるまで何年もかかり、その間に責任の所在がうやむやになって、原因を作った企業に対する厳しさがなくなってしまった。

 このような過ちを繰り返すことがいちばんの問題です。放射能の影響はまだよくわからないところがある。今後、子どもたちにどのような形で現れてくるのか、注意深く見ていかなければなりません」