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右手にあるのが中央棟。中庭を挟んだ左手に見えるのが南棟

 神奈川県横浜市都筑区のマンション『パークシティLaLa横浜』の西棟が傾いた騒動は、杭工事をした旭化成建材の現場責任者が過去10年に手がけた43件中、19件でデータ偽装が判明。ほかの担当者物件を含めた全3040件中、約300件に偽装の疑いが出ている。

「少なくとも10人以上の現場責任者がインチキをしていたことがわかった。現場責任者の資質や、旭化成建材の企業体質にとどまらず、業界全体に波及しそうだ。複数の地方自治体が、ほかの業者が手がけた公共施設の杭打ち工事でも独自調査に踏み切る意向を示している」(全国紙記者)

 しかし、この約1か月で傾きが判明したのは同マンションだけ。販売元の三井不動産レジデンシャル側は住民説明会で、「全4棟建て替え。慰謝料は一律300万円」などを提案した。納得がいかない住民には不安が広がっている。

 同マンションはJR横浜線鴨居駅から徒歩約10分。同じ三井系の商業施設『ららぽーと横浜』と隣接し、公立の小中学校に近く、ニュータウンが形成されている。「鴨居」は「鴨がいた場所」が由来で、もともとは沼地とも言われ、マンションのあるエリアは洪水ハザードマップでは浸水想定区域(1・0メートル)だ。

 マンション出入り口には警備員と「三井」の腕章を巻いた男性が立ち、住民に挨拶運動をしていた。その状況で住民に取材しても、多くが足早に通り過ぎるだけ。

「マンション側(三井側)の対応にも、マスコミの取材対応にも疲れてしまったので答えないことにしている」という声もあった。

 傾いた西棟に住む会社員男性(39)は妻と子どもと3人暮らし。三井側の提案には「内容が曖昧だな」と感じた。

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旭化成側は謝罪するけれども

「満足はしていないが、(慰謝料の金額など)十分だと思う部分もあった。あまり大騒ぎすると、世間的に私たちが悪者になってしまうのではないかと心配だ。早めの解決を望んでいるので、国が“建て直せ”と決めてくれればいい」

 最も不安なことは、いつ、どんなタイミングで仮住まいに移るか、だという。

「息子は幼稚園の年中。いちばんいいのは、息子が小学校に入学するくらいに仮住まいに入り、卒業するころに戻ってこられれば……」

 子どもの生活環境を安定させたいという親の願いだ。

 別の男性会社員(36)は妻と子ども2人で、傾きがあった西棟と接する中央棟に住む。

「買ったのは立地ですよ。それに三井のブランド力も大きい。横浜育ちだし、ここに一生、住もうと思っていた」

 三井側が提案する全面的な建て替え方針には賛成だ。

「(三井側の)対応は早いと思う。それは評価できる。一部だけ補修という話も出ているが、そこだけ資産価値が上がるのは賛成できない」

 同じ中央棟の主婦(48)は、夫と小学生の子どもと3人暮らし。夫が転勤族のため横浜にこだわりはないという。

「転々としてきたので、どこにでも住める。(家賃補償で)温泉地に住んでもいい」

 西棟から離れている南棟に住む50代男性は妻とふたりで暮らす。「建て替えには賛成だが、実感はない。引っ越しは面倒だ」と話す。住んでいる棟や家族構成、生活スタイルによって考え方はさまざま。全棟建て替えには所有者の5分の4以上の賛成が必要で、住民の苦悩はしばらく続きそうだ。


〈ジャーナリスト・渋井哲也〉