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 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発(以下・1F)の事故から4年9か月。東電は「福島への責任を果たす」として、’13 年1月に福島復興本社(楢葉町)を設置。福島第二原発(以下、2F)の元所長・石崎芳行氏(62)が代表に就任した。

 東北電力女川原発(宮城県牡鹿郡女川町、石巻市)では過去最大の津波を前提に対策を取っており、事故が起きなかった。だが1Fは地震と津波で全電源を喪失。原子炉を冷却できず、事故につながった。

「危機意識の差です。原発事故は起きないという傲慢な発想が東電社内に蔓延していた。

 2F所長のとき、運転員の訓練を見ていたが、外部電源が使えないときは非常用ディーゼルを、ディーゼルが使えないときはバッテリーを使うことを想定しました。が、バッテリーが使えないときは考えていませんでした」

 東電はトラブル隠しが発覚するなど、これまでも隠蔽体質があった。1Fと2F、柏崎刈羽原発(新潟県)では、1980年代から’90 年代までに点検時のひび割れを隠すなどのデータ改ざんがあった。2000年に内部告発があり、明らかになった。

「当時の経営陣が辞めることになったが、それ以後、何かトラブルがあるたびに改善してきたつもりでした。それでも〝原子力施設は事故が起きない〟という前提でいました」

 実害についてはどう見ているのか。

 例えば、福島県の県民健康調査検討委員会によると、事故当時18歳以下だった約38万人を対象にした甲状腺検査の本格検査(‘14 、’15 年度)の結果、先行調査(‘11 〜’13 年度)と合わせると“がんと確定”は115人。“がんの疑い”は37人だ。

「責任を持った発言ができない。細かくチェックすれば、がんと診断される人は増えるという説もあるが、放射線はできるだけ浴びないほうがいい。専門家による、データをもとにした冷静な議論が必要です」

 また、帰還困難区域の浪江町津島地区32世帯117人は、国と東電に対して原状回復と損害賠償を求め、提訴している。

「事故の影響は大きく深く、複雑だと感じます。“賠償はしなくていいから、生活を返してくれ、そうすれば何もいらない”と言われることがいちばんつらい。正直、原状回復はできません。まずはお金での賠償ですが、それでも心の満足を得られないことも見てきています」

取材・文/渋井哲也(ジャーナリスト)