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 私たちがあたりまえのように口にしてきた多くの食べ物が、TPPによって今と同じ値段、同じ品質で手に入らなくなる可能性がある。

 “食の安全”をめぐる問題に詳しいジャーナリストの天笠啓祐さんは「かなりの影響が出ます」とキッパリ。今まで以上に遺伝子組み換え食品が増えると指摘する。

「日本の食品の安全や環境への影響についての基準を作るとき、そこへ遺伝子組み換え作物を扱う外国企業が影響できるようになります」(天笠さん)

 遺伝子組み換え食品に関する作業部会を新設するという話がある。

「どういう決定権を持つのか、どんなレベルの政府関係者が出てくるのか、まったくわからない。遺伝子組み換え作物を扱う外国企業も入れるとなれば問題です」(天笠さん)

 あまり知られていないが、すでに遺伝子組み換え食品は日本に広く出回っている。

「最も多いのが油。大豆油にコーン油、マーガリンやマヨネーズもそうです。コーンスターチから作られた糖分も多い。よくジュースに“果糖ぶどう糖液糖”と表示されているものです」(天笠さん)

 短期間で成長するよう遺伝子が組み換えられた鮭が、'14年にアメリカで承認され大騒ぎになった。

「来年の春ぐらいから流通し始めます。アメリカでは遺伝子組み換えの表示はいっさいありませんから、缶詰のような形で加工されて日本に入ってくると、見分ける方法がありません」(天笠さん)

 日本で遺伝子組み換え食品の表示義務があるのは現在、豆腐のような加工度の低い食品に限られている。近い将来、日本もアメリカ化するかもしれない。

「政府はルールを変えることはないと言っていますが、利害関係者が規格や基準の作成に参加できる以上、表示がなくなる可能性はある」(天笠さん)

 ひとたび基準をゆるめれば2度と戻せない。より厳しくすることも不可能だ。遺伝子組み換え食品は、その安全性について明確な結論がまだ得られていない。

「アメリカの環境医学会が長年の動物実験を分析した結果、アレルギーになりやすいなど免疫への影響、生殖・出産への影響、肝臓や腎臓へのダメージという3点が確認されています」(天笠さん)

 そうした不安がある以上、せめて選べる状態にしておくべきだろう。そんな当たりまえの要求も外国企業に訴訟を起こされる一因に。

「食品の安全基準が厳しいとか、不当な表示制度があるために貿易に悪影響が出るとみなしたとき、外国企業はISD条項を使って訴えることができます」(天笠さん)

 ほかにもリスクはある。中国製の冷凍ギョーザから殺虫剤が検出された事件を覚えている人は多いだろう。輸入食品が増えれば、これに合わせてチェック体制の強化が必要になるはず。

「検疫の時間が制約されます。平均92.5時間かけていたところをTPP発行後は48時間以内に通過させなければならなくなる。これでは違法な残留農薬や、遺伝子組み換え食品をチェックするのは難しい」(天笠さん)

 検疫をすり抜けるどころか、堂々と輸入されているのが成長ホルモンを餌にした牛肉や豚肉だ。

「アメリカの牛や豚、鶏肉には成長ホルモン剤や抗生物質が使われています。つまり薬漬け。EUで輸入が禁じられているものが日本にはフリーパスで入ってくる。関税が下がると国産のダメージは大きく、さらにアメリカ依存になりかねない」(天笠さん)

 さらに日米2国間協議でアメリカ牛の輸入規制の緩和を決定。BSE問題で制限されていた骨、皮、それらを原材料にした加工品の輸入も全面解禁。またアメリカなどから、100種類以上の添加物を早く承認するよう求められている。

「生活者である国民にとっての利益という視点で考えたら、TPPに“国益”はありません」(天笠さん)