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「夫源病(ふげんびょう)」という言葉を知っているだろうか。循環器科専門医の石蔵文信さんが、'11年に提唱した言葉だ。夫の無神経な言動によるストレスが原因で、妻が心身の不調に苦しむ状態をさす。

 石蔵さんは日本では珍しい「男性更年期外来」を開設し、男性を診察するうち、付き添う妻の表情が暗いことに気がついた。妻たちが抱える症状は頭痛、目まい、動悸、うつ病などさまざまで、「更年期だから」とあきらめていることがほとんど。

 ただ、妻を診察室に呼んで夫への不満を吐露してもらうと、多くのケースでは3か月ほどで元気になり、夫の更年期状の症状もよくなることがわかった。

「『夫源病』の根源には、夫が上から目線で物を言うなど、妻を対等な個人として見ていないこと、夫婦のコミュニケーションがないことがあります。近年は、経済苦で離婚が難しい夫婦も増えていますから、追い詰められた妻が、“とにかく夫に死んでほしい”と殺意を抱く最悪のケースも……」(石蔵さん)

 その一方、最近は妻が原因で夫が苦しむ「妻源病(さいげんびょう)」の存在も明らかに。こうした「夫/妻源病」が、どの夫婦にも起こりうる問題と話すのは、夫婦問題に詳しいカウンセラーの奥元絢子さん。

「収入格差がある、どちらかが主導権を握りすぎているなど、夫婦のパワーバランスが崩れると、誰でも配偶者を追い詰める存在になってしまいます。例えば、妻が料理の一切を取り仕切り、夫は家事がまったくできない場合、妻は食事の用意を放棄するだけで、簡単にハラスメントができてしまうのです」(奥元さん)

 また、男性のほうが口ベタなことが多く、妻に一方的に言い負かされてしまう、不調のサインを「仕事のストレス」と片づけがちで、気がついたときには心疾患や脳出血など致命的な病気になることが多いのが、妻源病の特徴だそう。

「妻源病は、おそらく昔からあったのだと思います。ただ、女性が経済力をもった現代のほうが、目に見えやすくなっているのではないでしょうか」(奥元さん)

ライフステージの変化が引き金に

 夫源病になってしまうきっかけについて、石蔵さんは、子どもの成長を挙げる。

「出産直後も『夫源病』になる奥さんは多いですが、一番多いのは、子どもが巣立つ50~60代。それまで“子どものため”と思えばこそ我慢してきたものが、プツンと切れてしまうんです。その年代はちょうど更年期を迎えますから、それまでストレスから守ってくれた女性ホルモンが減少。

 しかも、夫が定年退職して、いつも家にいるようになって、家事に口を出してくるようになったり。それらが重なって、一気に体調が悪くなるんです。逆に、このストレスさえなければ、女性ホルモンの分泌が減少しても、更年期が軽くすむ人が多いように思います」(石蔵さん)。

「急に妻が変わってしまった」と話す患者に話を聞くと、変化の節目には、必ずといっていいほど、子どもの進学・就職があるそう。

 一方、奥元さんは、出産などライフステージの変化のほか、どちらかの実家の近くに移住・同居した後は要注意と話す。

「環境の変化はストレスを感じるもの。例えば、妻の両親と同居した場合、妻にとってそのストレスは前向きなものに感じられるでしょうが、夫にはただ負担になってしまいます。そんなとき、犠牲になっているほうへの配慮が欠けると、夫婦問題に発展しがちです」(石蔵さん)

 いずれにせよ、大きな変化があった際、蓄積した不満が爆発し、夫/妻源病につながりやすいことがわかる。

「夫源病」「妻源病」は裏表の関係

 石蔵さんは、「妻が突然、暴言を言うようになった」と夫が悩んでいる場合も、夫が過去に妻を傷つけたことに起因するケースが多いと話す。

 また、奥元さんは、妻源病の根底には、育児のストレスや、家事や育児が他人から評価されづらいなど、女性が抱える孤独感があると話した。

「夫/妻源病の原因になる言動は、誰しもやってしまうもの。完璧な夫も妻も存在しないのです。パワーバランスが偏っていても、双方納得のうえなら、大問題にはなりません」(奥元さん)

 夫婦の問題は、表裏一体。そこで、夫源病になりやすい性格や妻源病のチェック方法、夫婦でなるべくうまく暮らしていく方法を紹介。

石蔵さん式「夫源病」チェックシート

 夫側は、5つ以上で夫源病の疑いアリ。妻側は、あてはまる数が多いほど夫源病になりやすい。

【夫】
□人前では愛想がいいが、家では不機嫌
□上から目線で話をする
□家事には手は出さないが口は出す
□妻や子どもを養ってきたという自負が強い
□「ありがとう」「ごめんなさい」が言えない
□妻の予定や行動をよくチェックする
□仕事関係以外の交友や趣味が少ない
□妻がひとりで外出するのを嫌がる
□家事の手伝いや子育てを自慢する
□車の運転中は性格が変わる

【妻】
□我慢強く、弱音を吐くことは恥ずかしい
□きちょうめんで仕事や家事の手を抜かない
□感情を表に出すのが苦手
□人に意見するのが苦手
□「いい妻」「いい母親」でありたいという意識が強い
□世間体が気になる
□細かいことでクヨクヨしてしまう
※石蔵さんの著書『妻の病気の9割は夫がつくる』(マキノ出版)より

奥元さん式「妻源病」チェックシート

 夫を追い詰めやすい妻や夫婦関係の特徴をリストに。7個以上あったら要注意。

□夫の家事や育児につい細かく口出ししてしまう
□夫と他人を比較するようなことを言ってしまう
□夫の愚痴を自分の実家や娘・息子に話すことが多い
□家の中に(ソファなど物理的に)、夫の居場所がない
□1週間の中に、夫が自由にできる時間がない
□健康や仕事についても、自分の考えを押しつける
□夫の仕事内容や、最近の状況を知らない
□話し合いをなかなか成立させない
□「この人はこうだ」という思い込みができあがっている
□「ごめんね」「ありがとう」が言えない

《プロフィール》
◎石蔵文信さん
循環器科専門医。大阪樟蔭女子大学健康栄養学部健康栄養学科教授。'01年に設立した「男性更年期外来」で中高年男性を診察するうち、背景に夫婦問題があることに気づき、「夫源病」を提唱。『妻の病気の9割は夫がつくる』(マキノ出版)など著書多数。

◎奥元絢子さん
カウンセラー&コーチ。社団法人日本産業カウンセラー協会認定産業カウンセラーとして、企業での研修で活躍。'12年からカウンセリング・サロン「WillCrown」を設立し、夫婦問題の悩みや身体と心の問題など、さまざまな相談を受け付けている。
http://willcrown.com/

イラスト/上田惣子