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 NHKスペシャルの放送をきっかけに、広く知られるようになった『腸内フローラ』。最近は、テレビ番組や雑誌で『口内フローラ』『肌フローラ』が取り上げられ、目にすることが増えている。そもそも「フローラ」って何?

 医師で医療ジャーナリストの森田豊さんに、解説してもらった。

 フローラとは、「細菌叢」のこと。英語では『bacterial flora』『plexus of bacteria』と表記される。

「細菌叢には、大きく分けると善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3つがいます。さまざまな菌がありますが、腸内細菌の場合、なんと約3000種類。それらは、バラバラに配置されているのではなく、ある程度固まって局在し、植生しています。顕微鏡で見ると、まるでお花畑のように見えるので、フローラといいます」

 “細菌のお花畑”腸内フローラが、注目を集めるようになったのは、こんな理由があるからだ。

「腸には、身体の中の免疫細胞の80%がいます。免疫は、風邪やインフルエンザなどの感染症だけでなく、がん、花粉症、アレルギーなど、さまざまな病気に打ち勝つことができる可能性があり、免疫力を高めるためには、腸内フローラを整えるのが重要なのです」

 腸が作り出した免疫物質は、血液を通って肌や口腔内にも運ばれ、皮膚のトラブルや、歯周病などの原因になる細菌やウイルスから守る働きもしている。

 さらに免疫だけでなく、幸せホルモンといわれる神経伝達物質『セロトニン』の95%を作り出していて、腸内フローラが乱れると、心のバランスを崩す原因にもなるという。

 医療現場では、こうした腸内フローラの働きを活用して、腸を患った人に、健康な人の腸内細菌を注入する『糞便移植療法』が新しい治療法として期待されている。

 健康な人の便を採取して、生理食塩水と混ぜ合わせ、フィルターでろ過。その液体を内視鏡で大腸に注入する方法だ。安倍首相が患ったことで知られる、難病の『潰瘍性大腸炎』の治療としても、臨床研究が行われつつある。

 また、カナダで行われた実験では、2匹のマウスを使って腸内フローラを交換したところ、1匹のマウスが抱えていた『不安障害』が解消されたという結果が報告されている。

「難病に苦しんでいた患者さんが寛解(症状が一時的、継続的に軽減した状態)されたとも聞いています。健常な腸内フローラによって改善したということは、今後、さまざまな病気が治る可能性があります」

 WHO(世界保健機関)の健康の定義は、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること。

「腸内フローラは、身体だけでなく、メンタル面にも関係があるということで注目されています。うつ病やパニック障害の治療に期待がもてる。身体と心が満たされれば、社会生活も安定し、真の意味で健康に過ごすことができるようになると思います。

 腸内フローラを改善させることで、近い将来、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の予防や治療にもつながる可能性があり、また、寿命を延ばすことにも期待できると思います。超高齢化時代を迎えて、健康的な生活を送るためにも、腸内環境をよくするのは大事なことです」

◎教えてくれたのは森田 豊さん

 医師・医療ジャーナリスト。秋田大学医学部、東京大学大学院医学系研究科を卒業、米国ハーバード大学医学部専任講師を歴任。現役医師として医療現場に従事しながら、さまざまなメディアで活動している。近著に『今すぐ「それ」をやめなさい!』(すばる舎)