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ビジネスメールのテクニックをご紹介します(写真:Syda Productions / PIXTA)

日頃、何気なく使っているビジネスメール。効率重視で簡潔にすればOKという考え方もありますが、実は人間性がかなり伝わるツール。仕事ができる人や信頼される人は「メール力」が高く、人知れず努力を重ねたりしています。

 

ワンランク上のメール術を身に付ければ、キャリアも日常もぐっと変わるはず。そのテクニックをご紹介します。

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当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

メールで相手を不愉快にしても指摘されない?

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 私が外資系企業に転職した当時、上司に言われたことで印象に残っている言葉。それが、「相手の受信ボックスを汚してはいけない」という一言です。

 よく練られていないメールを安易に出してしまうことで、相手のボックスに余計なメールや読んで不愉快なメールが溜まらないよう、きちんと練ったメールを書くようにと指導されたのです。コンサルタントやエンジニアはサービス業なのだから、コミュニケーションの質の高さを意識すべきだと言われたのですが、今考えてみれば、ほとんどの職種の方にも必要な考え方だと思います。

 しかし、不愉快なメールを書いても、なかなか相手からは指摘してもらえません。知らないうちに信用や取引といった大事なものをなくしていることが大半ではないでしょうか。

 不愉快なメールは日常の中に多く潜んでいるようです。「ビジネスメール実態調査2012」という調査によると、過去1年間で、メールを受け取って不快に感じたことはありますか」という問いに、「よくある」と「たまにある」と答えた人は約49.18%もいました。

 その理由を複数回答で聞いたところ、「文章が失礼」(47.17%)、「文章が曖昧」(33.67%)、「文章が冷たい」(20.83%)という理由がトップ3。「ビジネスマナーがなっていない」(18.33%)、「メールの返信が遅い」(17.5%)などを上回りました。

 しかし、「不快な思いをしたことを指摘したことはありますか」という問いに「ある」と答えた人はわずか2%でした。ダメなメールにも関わらず、改善されることなくそのまま書いてしまっているとしたらゾッとしますね。

 では、どうしたらいいでしょうか? よく言われるのは簡潔に書くべきという「効率性」の観点ですが、実は個人が認識されやすいという特性上、相手との「関係性」や自分の「人間性」をどう表現するかという観点もとても重要なのです。ではそれぞれの考えるべき点をご紹介していきましょう。

効率のよいメールは、一往復半のやりとりで完結する

 まず、効率性ですが、「短く簡潔に書く」、「わかりやすい件名にする」というだけでは、不十分です。相手が読む労力を減らすという意味では、冗長な表現をやめるのはもちろんよいことですが、短く書いていても、相手が理解できずに、質問を返さなくてはいけなかったりしては、むしろ手間をかけていることになってしまいます。

 理想は、「一往復半」でやりとりが終了する

 これが最も効率的です。「自分がメールを出す→相手がYes/Noまたは、選択肢に回答をする→自分が最終確認をする」というだけでやりとりが終わるイメージです。

 この一往復半は簡単な日程調整などのやりとりはもちろんですが、上司に意思決定をしてもらうという難しいメールでも同様です。

「本件どうしましょう?」と上司にすべてを委ねてしまうのではなく、たとえば「本件の対応には3つの案があります。私はA案にすべきと考えます。理由は○○だからです。よろしければこのまま進めます」と選択肢と選んでもらいたい理由を送ることで、多忙でも「Yes」だけでやりとりができます。

 また「お客様が回答を待たれているため、明朝までに判断をいただけますようお願いします」と付け加えることで、いつまでに返信をしなくてはいけないのか優先順位も判断しやすいため、返事がなかなかこなくて、「あの件についてご連絡お待ちしております」など催促メールを出すということも防げます。

 私は部下が数十人いた時には、1日に数百通のメールを受信していましたが、明らかに返事をしやすいメールと、「何だか時間がかかりそう……」と後回しにするメールがありました。返信を楽にする配慮があるメールは当然処理が早まりますし、送ってきた相手に対しても「この人は仕事ができる」という評価になるので、当然キャリアに差がついてきます。

 相手がメールになかなか返信してくれない……という場合には、自分のメールが返信しやすいメールなのかを読み直してみましょう。1分間に何通のメールを出せるのかを目標とするよりも、相手からの返信の早さや、やりとりが少なくてすむかどうかをメールの効率性指標としておすすめします。

できる人は相手との「関係性」に応じて表現を変える

 論理的で正しい文章なのに相手を不快にさせてしまうのは、自分と相手との関係性の認識違いが原因です。

 関係性とは「立場」と「目線」という2つの要素の組み合わせで決まります。簡単な例をあげると、たとえば自分があるセミナーに参加して、自部門の人たちに「このセミナーはおすすめです」というメールを出すとしましょう。以下の2つの文章からどのような印象を受けますか?

A.「このセミナーは非常に有意義でした。ベテランクラスにも間違いなく役立ちます。部門全員が参加すべきです」

B.「このセミナーは自分にとって非常に有意義でした。ベテランの参加者も役に立ったと感想を述べていらっしゃったので、幅広い層に役に立ちそうです。参加を検討されてみてはいかがでしょうか?」

 どちらも日本語や論理としての間違いがあるわけではありませんが、これを新人という立場で出すとしたらどういう印象を受けますか? Aだともしかしたら受け入れがたいと感じる人もいるでしょう。Aは上からの目線で、Bは謙虚に一段下がった目線で文章を書いているからです。

 目線は立場とあったものにする必要性があります。立場は、上司部下、先輩後輩、受注者・発注者の立場など、上下がわかりやすい立場に加え、信頼関係や距離感、依頼することの負荷などもからみあってきます。

 たとえば、同期であれば上下の関係ではないので、軽い頼みごとならカジュアルな表現でも大丈夫ですが、相手に負荷がかかるお願い事となると、丁寧な依頼の表現が必要になってきます。

 あまり親しくない同期の場合には距離感があるため、さらに丁寧な表現が必要でしょう。このように複数の立場の掛け算を考えて表現を使い分けることが、相手が気持ち良く動くかどうかにつながります。立場と目線がつりあっているかどうかを意識してみてください。

 3つ目は人間性をどう表現するかです。ここでは自分の「視座の高さ」を意識するとよいでしょう。

人間性は「視座の高さ」に表れる

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 簡単な例でいうと、メールのタイトルで【重要】【緊急】という文字を入れて送りたいと思ったときには、相手にとって重要なのか、緊急性が高いのかをいったん考えてみたほうがよいでしょう。視座とは物事を見る視点の高さですが、自分の視座だけで考える人は、相手への配慮が薄くなり、人間性も低く思われます。

 相手にとっては別に緊急で対応する必要がない場合には、タイトルからは外した上で「こちらの締め切りの関係を申し上げて恐縮ですが……」などと断りを入れた上での協力依頼としたほうがよいでしょう。

 さらに込み入った話しになってきた場合には、どのような視座で書くのかということはとても重要になってきます。たとえば、新しいリーダーが相応しくないということを上司に伝えるという設定で考えてみましょう。

 このような話はメールではなく直接会って話すのがベターですが、時間や場所の関係でどうしてもメールしかない、という前提だと思ってください。まず、以下のようなメールが送られてきたとしたら、相手に対してどんな印象を持ちますか?

件名: 鈴木さんの件

To: 山田部長

山田部長

お忙しい中失礼します。プロジェクトリーダーになる予定の鈴木さんについて、ご相談です。

そもそも、新規サービス展開プロジェクトのリーダーがなぜ、鈴木さんなのでしょう? 新サービス展開には豊富な技術知識が不可欠です。鈴木さんは、数カ月前に営業から異動してきたばかりですし、前部署のメンバーからも、いい話は聞きません。

営業数字が高いからといって、今回のプロジェクトリーダーが務まるとは思えません。もし、再考いただけないのなら、常務にもご相談したいと考えております。

早田

 いかがでしょうか? 極端な表現に思われるかもしれませんが、セミナーや研修などでは「こういうメールってあるあるだよね」とうなずかれる方が意外といらっしゃいます。

 このメールは、自分の視座だけで書かれており、部長の視座にはまったく立っていないという典型的な例です。また、部長の判断を否定したり、常務に言いつけると脅してみたりと、人間性に疑問を持たれても仕方ない表現が多いですね。では、視座を高くして書き直してみましょう。

件名: プロジェクトリーダーについて

To: 山田部長

山田部長

お忙しい中、メールでのご相談となり申し訳ありません。当プロジェクトのリーダーについてお考えをお聞かせいただければと思います。

我々の部門はプロジェクトリーダーの要件として、従来は専門性を重視してきたように思います。さまざまなトラブルの発生要因を見ても技術的な知識不足が原因のものが多く、その対応に高い専門性が必要であることが理由だと考えます。

今回リーダーとなった鈴木さんは営業部門から異動されてきたばかりですが、実績を認められての抜擢と伺っており、当社の方針として以前よりも短期で利益を出すことが求められていることを私も強く認識いたしました。

ただし、新規サービス展開にはトラブルがつきもので、その対応によっては、利益自体にも影響を与えると懸念しています。私の考えではありますが、知識・経験が豊富な杉村さんにも関与いただけると、鈴木さんがまだ不慣れな領域をカバーできるのではと思います。杉村さんにご参画いただければ、メンバーも一丸となって部長や経営陣の期待にもお応えできると考えております。

お忙しい中恐縮ですが、部長のお考えをお聞かせいただく場をいただければと思います。

早田

 いかがでしょうか? このメールが唯一無二の正解というわけではありませんが、ビフォアのメールとの大きな違いは部長や会社の視座を理解しているところです。その上で、問題点を感情的ではなく客観的に指摘し、代替案まで提示しています。

仕事の成果がぐっと変わってくる

 視座の高さは、メール以前の問題と思われるかもしれませんが、メールは会話と違って残りますし、転送されてほかの人の目に触れることもあるため、自分の視座の高さは会話以上にどう表現するかを注意したほうがよいでしょう。

 効率的にメールを書けるようになった後は、さらに効果的に伝わるよう、関係性や人間性を意識してみてくださいね。きっと周囲の反応や、仕事の成果がぐっと変わってくるはずです。

 


清水久三子(しみず・くみこ)●オーガナイズ・コンサルティング代表取締役・人材育成コンサルタント。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、多くの新規事業戦略立案・展開プロジェクトをリード。大規模・長期間の変革を得意とし、高い評価を得た。「人が変わらなければ変革は成し遂げられない」との思いから、専門領域を徐々に人材育成分野に移し、人事・人材育成の戦略策定・制度設計・導入支援などのプロジェクトをリード。2005年に当時の社長から「強いプロフェッショナルを育ててほしい」と命を受け、コンサルティングサービス&SI事業の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEを対象とした人材ビジョン策定、育成プログラム企画・開発・展開を担い、ベストプラクティスとして多くのメディアにも取り上げられ、プロを育てるプロとして知られている。講師としては、大前研一ビジネス・ブレークスルー、ベネッセ著者大学、世界最大動画教育プラットフォームUdemyなどで看板コースを多数持つ他、大手銀行系の研修提供会社3社で講師をつとめ、高い集客と満足度を得ている。